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信じられないっ!信じたくないっ!美しくなる事がこんなにも辛い事だなんてっ!

「乙女ゲームの主人公は正義を語り続けてはいられない」は、

毎週 水曜・土曜 20時に更新します。

痛くて苦しくて…

直ぐにも外してほしくて仕方なかった。

けれど―――


「お喜び下さいソフィア公爵夫人候補!やっと、マシになりましたよ!」


メイドさんは私の矯正具を嵌められた体を見て喜んでいたのよ。

カートに据え付けられていた姿見に写る私の姿は、

膨らんだ肩が無くなり腰には若干のくびれが出来ていて、

突っ張ったパフスリーブは「マシ」な形になっていたのよ…

けど、けどね。

矯正具自体がものすごく重たくて…

上半身は石膏で固められて様な形で。

バスクに固定されて引っ張られ続ける二の腕は何も動かせない。

腕のベルトも重たいものが取り付けられた形になってしまっていたの。

スタイルの矯正が出来たってこんなの、こんなのあんまりよ!


「まぁ、何とか形になりましたか…

ですがまだ何もかも足りませんね」


吐きたいほど苦しくて痛いのにっ。

形になったって…

それしかボルフォード公爵夫人は言ってくれないっ。

今の私には痛くて痺れ始めて上半身の感覚が何くなりつつあって…

身に着けさせられたばかりなのに。

どうにかして外してもらえないかって考えてる程度に限界だった。

けど、今の私は矯正具を取り付けられただけ。

真っ白な矯正具は的確に私を締め上げて私から上半身のほとんどの、

自由を奪ってしまっていたの。


「スタイルはこうして、毎日締め付けをきつくしていけば、

いつかは公爵夫人候補用のドレスもギリギリ着られるようになるでしょう。

公爵家の伝統の花嫁衣装を身に纏える程度には細くなってもらわなければね。

さぁ、はしたない矯正具は隠さないといけませんね」

「お任せください奥様。

今回はこのような物をご用意しております」


タイミングを見張らかったかのようにメイドさんがまたカラカラと、

カートに乗って運ばれて来たのは上半身を隠せるケープだった。

この固い矯正具を覆い隠して、膨らんだスカートにふんわりと乗る、

ボルフォード家の家紋が背中と胸前に縫い付けられた物だった。

それは2枚に分かれていて…

一枚は私の前に革のバスクを隠す様に首から涎掛けの様に一枚括り付けられて、

もう一枚は丁寧に肩へと乗せられると、

内側に縫い付けられた紐で肩にずれないように固定されてから形を整えられて。

首回りをしっかりと閉じてボタンを通した後、細い可愛らしいベルトで、

キュッと閉じられる。

スカートと合わせた色のケープはそれだけで私の上半身を包み隠して、

「普通」のドレスを着ている様に見せてしまっていたのよ。

それがまた信じられなくって。

立ち姿を確認するように私の周りをボルフォード公爵夫人がくるりと回って。

ケープやドレスの状態を確認していたの。

けど、ゆったりと付けられた上半身のケープは私のスタイルの悪さを覆い隠して、

これを身に着けさせる位ならっ!

もう少しマシなドレスを作りなさいよっ!て、訴えたかった。

けれどそれを言うだけの息を吐き出す余裕はもう無かったのよ。

ボルフォード公爵夫人はそれでも私の体の各所を扇子でトントンと叩いたり、

突いたりして来て、何かを確認しているみたいだった。

最後に扇子を顎の下に入れられると、俯きがちの頭をグイっと上げられて、

顔を確認されているみたいだった。


「まぁはしたない部分を隠せば…顔は良いみたいね…」


それは完全な値踏みで私は今、品評会の品みたいな立ち位置になっていたの。

公爵夫人の値踏みが終われば次は侍女とメイドさんに針子さん達が、

私に群がって色々とチェックされ続けて…

皆一様に「はぁ」「最悪」「ふと」「直せる?」「もっと細く」「低いわ」なんて、

ボソボソと言いているのよっ!

もう言わなくたっていいでしょう!十分解ったわよっ!


リーダーの侍女がボルフォード公爵夫人の下へ戻ってひそひそと、

何かを伝えるとボルフォード公爵夫人は深く頷いて納得したみたいだった。

それから私のチェックをしていた全員が私から離れて、

公爵夫人がまた話し始める。


「それで、当家の公爵夫人候補の「外見」の総評は?」

「そうですね奥様のおっしゃられた通り「顔」は良いですね。

ですが、体型は奥様が考えているより良くありません。

本音を言わせて貰えれば、あと3ランクほど全体的に締め上げて、

お体を整えなければ使い物になりません。

練習用に用意していたドレスは「全て」使い物にならない事が決定しました」

「…それは、どういった意味かしら?」


侍女に促される様に別の針子さんが代わりに話し始める事になった。

針子さんは侍女に言われるまで、必死に自分のメモ帳に手を通していて、

その数字をブツブツと呟いていたのだった。

けれどボルフォード公爵夫人に意見を求められて慌てて、

握られていてメモ帳を仕舞い込むと一礼をした後話始めるのだ。

申し訳ありません。

想定外の事態に困惑していますと言いながら…


「私達はボルフォード家に嫁いでくる御令嬢は、

ファルスティン伯爵令嬢だと考えていたのです。

その為に彼女には婚約が決まった時からファルスティン家に、

矯正具を送り続けていたのはご存じだと思います」


その確認の言葉にボルフォード公爵夫人は頷いて、

「沢山送ったものね」なんて呟きながら針子さんの次の言葉を促していたの。

針子さんはメモ帳の数字を何度も見返してため息を漏らしていて…

その数字から何かを悟ったように結果を続けて言い始めたのよ。


「エルゼリア様の矯正は予想以上にうまくいっていたのです。

ですから学園で身に着ける婚約制服は一番サイズが厳しくなる、

婚礼衣装を「何とか着られる」ではなくて欲張って「美しく」着られる、

サイズに合わせて作成しました。

エルゼリア様はあの婚約制服を毎日身に着けていましたし、

私達も着用状態を毎日チェックしていましたから、

当家にいらっしゃる時には、もう婚礼衣装と同じのサイズの物を着て戴いて、

そこから、「美しい婚礼衣装」が着られる体のサイズになってもらう予定でした。

ですが、その…

どう計算しても、どう調整できる範囲の数字を弄っても…

ソフィア・ボルフォード公爵夫人候補が婚礼衣装に袖を通す姿が、


「想像できない」のです。


今、数字を必死に合わせる為に考えました。

けれど…

無理です。

申し訳ありません。

私の腕では、婚礼衣装を作る事が想像出来ませんでした…」


そんな…

婚礼衣装が着られないって今から作るのでしょう?

それなら今の私のサイズに合わせてくれればいいのにっ!

そんな融通を聞かせる事も出来ないの?

けれどその悲痛な意見を言った針子さんにボルフォード公爵夫人は、

優しく語り掛けるのだ。

そんな心配はしなくて良いのだと。


「…良く解っています。けれど安心なさい。

ソフィア・ボルフォード公爵夫人候補は、

どんな躾も拒まず受け入れてくれるのです。

もちろん貴方達が用意する「美しい」婚礼衣装が着られる、

体を用意してくれます。

「伝統」ある公爵家の婚礼衣装のサイズは決まっていますから。

アナタ達は誇りをもって「伝統」の「サイズ」で作れば良いのです。


伝統のサイズを「誤魔化して」「大きなサイズにしなさい」なんて、

「不正」を嫌って、ファルスティン伯爵令嬢を断罪してまで「正義」を貫いた、

ソフィア・ボルフォード公爵夫人候補が言う訳ありません。


ねぇ…そうよね?

ソフィア・ボルフォード公爵夫人候補?

不正なんて絶対「許せない」し「しない」わよね?

伝統の御礼衣装を「美しく」着て戴けるわよね?」


その言葉は、

今の私にとっては悪魔の様な質問だったのよ…

どんなサイズの婚礼衣装を用意されるか解らない。

けど服飾の専門である針子さんが「想像できない」って、

言い切ってしまうのなら、それはきっと今の私とは比べ物にならない位、

苦しいサイズだって事は想像できてしまう。


わ、私は全力で拒否したかったのだけれど…

でも。

でも!

私は正義なのよ…

不正を正して認められた私が不正をするの?

それも婚礼衣装のサイズなんて見慣れている王家の人間や同格の爵位の家なら、

簡単にバレてしまう不正を?


「ぁっぁっ」


だって、もうっ!もうっ!

この数分間の矯正具の装着の苦しさを考えたら…

何も言わず黙っていたら本当に殺されてしまうわっ。

何か、何か言わなくちゃって私は必死になって意志を伝えようとしたのよ!

声を絞り出して拒否したくて、

必死にしゃべろうとするのだけれど、何も言葉にならない。

言葉を喋る余裕が無いのっ!

口がパクパク動くだけでそれ以上の事が出来ないのよっ!

駄目って、ダメって言わなくちゃ!

正義とかはもう良いの。良いのよっ!


「ぁっぁっぁ」


それしか声にならないのよっ!

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