よ、用意されていた物は私を公爵夫人にする為の物。だっ、だけど!そんな!
「乙女ゲームの主人公は正義を語り続けてはいられない」は、
毎週 水曜・土曜 20時に更新します。
カラカラと音を鳴らしてお上品な彫刻が彫られているカートで、
持って来られたのは大きな白い革の塊だったのよ。
綺麗に畳まれているけれどソレに得体の知れない恐怖を感じたのよ。
上に載っているのは厚い革とベルトで出来ただけの物なのに。
な、ナニコレ?
そう言ってしまいたかった。
「これはドレスの上から体を矯正する為の矯正具ですよ。
普通なら矯正具はドレスの下に仕込む程度の物で済ませますが…
もう貴女の体をそれだけで矯正するのは無理でしょうから・・・
既に成長してしまっているものね」
そう言うとへたり込んでいる私はメイドさん達の手によって立たされて、
ボルフォード公爵夫人の前に立たされるの。
公爵夫人の表情はにっこりと笑っているけれど、
その目には落胆の色が浮かんでいて…
その目で見られるだけで私は体が竦んでしまいそうになっていたのよ。
それは、私が感じている本能的な所を刺激しているかのようで…
ガチガチと唇が震えてきていたの…
そして他の侍女達の手によってその革の塊は広げられて、
私はそれを直視する事になるのだけれど…
ツンっと鼻に付く臭いがしてそれは出来立ての物で、
製品の匂い落としと香り付けすらされていない物だったの。
物凄い革製品特有の匂いが強くて、
普通なら身に着けるのを躊躇うレベルだったわ。
綺麗な革で作られた鎧みたいな形だったけれどこれは…
決して鎧じゃなくて別の用途ですって言わんばかりに仕上げられてた。
厚く太いベルトが縫い付けられていて何処を見ても厚く硬くなるように、
絶対に壊れなさそうな頑丈そうに作られた物だったの。
それは確かに矯正具として役割を果たせそうな形をしていて。
なによりその真新しさは私の到着に合わせて急遽用意された物って事。
「さて…この矯正具は身に付けたら「苦しい」では済みません。
身に着けさせられたら骨は軋み肌にベルトが食い込みます。
痛く辛い物となっているのですが…
もちろん身に付けますね?
たった今、どんな躾も拒まず受けると宣言したのですから」
「あっあぁっ」
もう私にその矯正具から逃げる術は無かったのよ。
革のバスクの様な形に整えられた長いそれを、
胸上から胴下まで宛がわれればもう私はそこから出られないつ!
胸に押し当てられて背中側で思い切り革紐で締め上げられたら、
更にその上から革のベルトで決して緩まない様に固定されてしまったの。
グッグ、ギシギシと軋む音を立てながら、
今まで以上に窮屈で深く型に押し込められていく。
「う、うぐぅ」
「まだ声が出せる余裕があるのですね」
―声が出せる余裕―
本当の苦しさは、
限界は声を上げられなくなるって聞いたことはあった。
それを自分が体験する事になるなんて思っても見なくって、
けどこれが現実。
私の体は更に変形していくのよ…
余裕があるって言いながらメイドさんの手は止まらないのよっ!
更にそのバスクが理想の形になるまで…
ボルフォード公爵夫人並みとはいかないけれど腰は細く見える様に、
締め上げられ続けたのよ。
もう本当に言葉を話す余裕すらなくなっていたの。
けれど矯正具は私の胴体を理想の形になるまで締め付けを辞めてくれない。
ある程度締め上げられて紐やベルトが引っ張れなくなったら、
今度は矯正具に取り付けられた金属の歯車を動かして、
カチンカチンって音を立てて矯正具を更に締め上げているみたいなのっ。
その歯車は締まる方向にしか回らないみたいで私の見えない背中側で、
カチンカチンて音を立てて太いベルトを引っ張って行っているみたいなのよっ!、
カチンて音が鳴る度に引っ張られる度に非情にも締め付けが強くなって。
メキメキ・ググゥと音を立てて私の体に食い込んで来ているのが解るのだけれど、
もう…
もう…
もう痛いっ。
苦しいじゃなくて本当に痛い。
直ぐにでも外してほしい。
緩めるんじゃなくて外してっ!
体が壊れちゃうよ!
そう叫びたかった。
けれど矯正具のバスクで絞められた体はもう呼吸するので精一杯なの。
言葉を話す余裕は無かったのよ…
まだコルセットを絞めた時には加減されていたって改めて思い知ったの。
あまりの苦しさに涙が流れてきて…
それは直ぐに近くのメイドさんに拭われるのだけれどこの矯正具は…
私を絞め殺しに来ていた。
それでいて矯正具は絞めあげられて行く度に固くなっていくような気がして、
衣類じゃない位に固いの。
もうその固い狭い場所に胴が入るように必死に体が変形していくの。
肋骨は悲鳴を上げてゴリゴリと軋む音をが体の中から無理がかかっている、
音が聞こえてくるような気がして…
事実、肋骨は変形させられ始めていたのよっ。
鉄板でも仕込まれているかのようにまったく形を崩さないその革のバスクは。
身に着けさせられたって言うより嵌め込まれたって表現できそうな形なの。
それは…
体の形がドレスの形に合わされるという現実が私に与えられた瞬間だった。
矯正具に襲われているって、
身に着けさせられた矯正具がまるで生き物の蛇の様に感じられ…
生きた蛇に体を締め付けられ続けているみたいに思えるのよっ!
背中側で何本の革紐とベルトで閉じられてしまえばもう私は、
息苦しさではなくて息がほとんど出来なかった。
引きつった様な形で小刻みに本当に小刻みに息を吐いたり吸ったりして、
何とか呼吸をしていたの。
けれどそれで終わりではなくて今度はバスクの胸の上から延びた、
大きな革の充て具が付いた物が肩に宛がわれたの。
そしてその脹らんだ私の肩を容赦なく押し潰し始めたのよっ!
今度は鎖骨をへし折らんばかりの押さえつけが始まって私の肩は、
脇下を革のバスクに当たるまで肩のベルトで押し付けられたのよっ!
それに合わせて周囲の筋肉が移動してメキメキと音を立てながら、
バスクの中に押し込められていくの…
それがまた痛くてっ…
必死に私はそれに抗って肩を持ち上げようとするの。
けどそんな努力を嘲笑うかのように、
綺麗な撫で肩のラインを作り出すために思い切り押さえつけられた状態で、
肩のベルトが背中側で固定されてしまうのよっ。
そこから更にベルトを引っ張られてバックルで固定されれば、
もう私の肩は動かせなくなっていたのよ。
バスクの締め上げの所為でただでさえ膨らんだように見える肩のラインを、
まっすぐではなくて撫で肩に仕上げる様に固められて、
思い切り押しつぶしているのだから胸も圧迫されたみたいで、
もっともっと苦しい息苦しさが襲ってきているの。
それにもう…もう肩に動かせる自由はなくなっていたの。
最後に、二の腕に太いベルトを巻かれると思い切り締め上げられて、
そのベルトをバスクに取り付けられた金具に引っ掛けて、
二の腕をバスクに寄り添うような形にして下に引っ張り続ける様にして、
固定されてしまったのよ。
肩から腕が抜け落ちる勢いで引っ張られて…
ミチミチと腕から音がするの。
パフスリーブが無様に伸びた状態から、
まともな形になるまで二の腕を下に引っ張り続けられて…
固いベルトでバスクの留め金に固定された時には両腕はもう痺れて来ていたの。