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わ、私は帰れない所まで進んでいてしまったの。

「乙女ゲームの主人公は正義を語り続けてはいられない」は、

毎週 水曜・土曜 20時に更新します。

「良く理解できた様ですね。

本来ならドレスに合うように長い時間をかけて少しずつ、

体を矯正すれば良いのですが、貴女には…

ソフィア公爵夫人候補?貴女にはそんな時間はありませんね。

理由は御分かりですね?」


そう言いながらボルフォード公爵夫人はスッと私の視界に入るように、

ある物を見せてくれた。

それは王家の刻印が押された正式な手紙。

王宮から知られられた招待を、知らせる許可証の様な物。

私とカーディル様に対する王城への招待状。

私達の「正義」が認められた証の招待状だった。

国王陛下に直にお会いしてお褒めの言葉を戴ける機会が、

近いうちにあるって事なのよ。

もう長い時間をかけて体を矯正する時間は私にはないって…

あの招待状が私にタイムリミットを用意してしまっていたのよ。


「王城への招待状も戴いてしまいましたしね…

期日はわたくしが決める事が出来る様になっていますが、

それを差し引いても長い期間、国王陛下をお待たせする訳にはいかないでしょう」

「あ…あぁっ」

「もはや時間がない事は理解出来ましたね?

一刻も早くスタイルを改善しなければ王城に行く事は叶いません。

もう貴女の立場はボルフォード家「公爵夫人候補」という事にしてあります。

ソフィア・マリス男爵令嬢の立場はありません。

王国に申請する申請書類は公爵閣下が全て用意して申請してくださいました。

貴方はソフィア・ボルフォード公爵夫人候補なのです。

これから当家が…。

貴女の行動はわたくしが全て決めます。

反論は一切許しません」


それは…

それはもう既に私の帰る家がマリス家にはないって言う宣言だった。

カーディル様と結婚したら私の家はボルフォード家になるって事は理解してた。

けどそれは結婚してからの話であって私はまだ「マリス」の名を持つ、

男爵令嬢の立場だって心のどこかで思っていた。

マリス家から綺麗な花嫁衣装を身に纏って皆に祝福されながら、

嫁ぎ先に送り出して貰って…

それでボルフォード家での新生活が始まるんだって。

い、今私がボルフォード家にいるのは、結婚前の御挨拶みたいな感じで、

2~3日だけだって思っていたの。

これからお世話になる使用人や侍女やメイド達に先に挨拶して、

それで結婚後のお部屋の準備とか王家からの呼び出しもあったから、

男爵家では揃えられない物を揃えてくれたんだって勝手に思っていたのよ。

結婚して正式にボルフォード家の人間になるまでまだ時間があるから。

だから男爵令嬢の立場でゆっくりと公爵家の事を学んでいけば良いって、

そう思っていたのに。


もう、私の知らない所でボルフォード家の人になっていた…

それは公爵家としても立ち振る舞いを求められるって事で。

そのくらいの事は私だって「理解してる」

けれどそれは「理解してる」つもりでしかなかった…。

既にゆっくりと学ぶ時間はないってことだったのよ。


「ですから我がボルフォード公爵家に相応しい立場でしか、

登城する事は許されなくなったという事です。

そして「候補」が付くのですから。

公爵家の者は公爵閣下がわたくし公爵夫人の、

許可が得られなければ結婚は出来ません。

わたくしに認められるように努力なさい」

「え?でも結婚…」

「わたくしが許したのは「婚約」です「結婚」ではありません。

公爵家に相応しい立ち振る舞いが出来ない者を家に迎える事は出来ません」

「あ、ああっ」

「素直で良い子の「公爵夫人候補」になる事しか認めませんよ。

お返事は?」


学園を卒業した私には幸せな結婚生活が待っていると思っていた。

カーディル様に愛されて皆に傅かれて素敵な日々が約束されてるって。

そう思ってた。

けれど現実はこれから「立派な公爵夫人」になる為の日々が始まる。

苦しいドレスを着せられて、

公爵家の仕来りと伝統を学ぶ日々が待っているって事なの?

なんで?

どうして?

けれど今その事を考えても何を反論するにしてももう遅かった。

私の帰れる実家はもうないって事だった。

このボルフォード家が私の家でありマリス家にはもう帰れない。

帰れないっ!

それは私の逃げ道が無くなったって事だった。


「か、かえれ、ない?」

「帰るとは?

アナタの帰る場所はこのお屋敷なのですから、

「行く場所」や「向かう場所」はあっても帰る場所は無いのですよ。

だって今、アナタが立っている場所が帰る場所なのですから。

さぁ、お返事は?」


「あ、あぁ…」


私は自然とその場所から後ずさりをしようとしていたの。

この場所にいちゃいけない。

きっと大変な事になる。

か、カーディル様にお会いしてお母さまを説得してもらわないと、

私は大変な目に会ってしまう。

そ、そんなのヤダっ。

私はボルフォード公爵夫人に向けられる視線が怖くなってくる。



ここは、きけんなところなのね!


はやくにげなくちゃね!




私は無言で体を翻して無意識のうちに入ってきた扉から、

走って逃げようと体が動いていたのよ。

ギシリと軋む音がする。

重たいスカートがお腹を強烈に圧迫して息が出来なくなる。

けれど止まれない。

止まったら「公爵夫人候補」っていう肩書が、

私に襲い掛かってくる。

周りの侍女やメイドさんは動かない。

私のとっさの行動で慌てて動けないのね!

大丈夫。

私は逃げられるの。

カーディル様の所に行くのよっ!

そして私が大変な事を訴えるの。

そうすれば私を愛するカーディル様がきっと…

きっと何とかしてくれるのよ。


そして私は一歩一歩力強く動いて…

その場でへたり込んだの。

ぐるしい…息が苦しいっ…

ハァハァと大きく肩を動かして必死に息をするのよ。

締め上げられた胸周りと重た過ぎるドレスの所為で、

もう私は動くのが精一杯になっていたのよ…

このドレスを着せられた時から逃げるなんて許されない。

そう言う姿にさせられていたって…

始めて気付かされたのっ。

嫌だ嫌だっカーディル様の所に行かなくちゃ!

カーディル様に言えばきっときっとどうにかしてくれる!

動いて!私の体うごいてよっ!

そう思っても私の体は動かないし、

カーディル様が何処にいるのかも解らないっ。

コツコツとハイヒールの音を立てて…

私の背中に近づく音が聞こえてくるのよ。

その音がまた私に恐怖を与えて来て…

嫌よ。もう声も聴きたくないって思ってしまうの。

けど…耳を塞ぐことは許されないのよ。


「まだまだ元気な事は喜ばしいのですが。

早くお返事をしなさいな…

「公爵夫人候補としてどんな躾も拒まずに受けます」とね。

それ以外のお返事は必要ないのです。

簡単なお返事でしょう?」

「こ…」

「こ?何かしら?」


もう、お返事を拒む事なんて私には許されなかった。

もう、この場から動けない今の私にそれ以外の事は話せないのよ。

話しちゃいけないのよ。

ここには私を助けてくれるカーディル様はいないのよ。

だからカーディル様にお会いできるまでなんとか…

なんとか答えをはぐらかして…

そんな事を考えていればトントンとボルフォード公爵夫人が、

扇子で肩を叩いてくる。

トントン。

トントン。

けれどその力は少しずつ強くなって来ているみいで…

早くお返事をしなさいと無言の圧力を掛けて来ていた。

もう、

もう私に逃げ道は無かったのよ…


「公爵夫人候補としてどんな躾も拒まずに受けます…」

「そう。そこまでの覚悟があるのね…

なら、まずは…

そのだらしない体をどうにかしてあげましょう」


ボルフォード公爵夫人がパンパンと両手を叩くと、

私が入って来た扉とは別の扉が開きメイドさんが台車を押して、

入室してきたのよ。

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