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公爵夫人が着ているす、素敵なドレスは…

「乙女ゲームの主人公は正義を語り続けてはいられない」は、

毎週 水曜・土曜 20時に更新します。

苦しすぎるドレスを知らないまま着せられていた私は自分の姿が、

信じられなかったのよ…。

その歪なドレス姿を映し続ける姿見に自分の姿を晒し続けるのは、

ちょっと耐えがたい屈辱感を私は自身に感じていたのよ。

だって、もっと美しい姿になっていると思っていたんだもの。

公爵家が用意した公爵夫人用のドレスをしっかりとメイドさんと、

針子さんに調整されながら着たのよ?

あれだけ苦しい想いをしながらコルセットを絞り込まれて、

それで姿見に写る自分の姿は寸胴で腰の括れなんて見えなくて…

簡単に言えば物凄い太っている様に見えてしまっていた。

けれど自分をどんなに擁護しても体を斜めにしても姿見の現実は、

変わらなかったのよ…。


学園の制服を着ている時には感じる事の無かった腰を強調するドレスは、

もろに私のスタイルの悪さを浮き彫りにして…

そしてが太っているって訴えかけて来ているみたいで。

光沢のあるベルベットを使ったドレスだから、

余計に括れていない腰のラインに影は無くて寸胴に見せていた。

せめて光沢が無ければ体のラインの悪さを隠せるのに。

す、少しでもマシな姿になりたい…

けれどメイドさんと針子さんの視線はきついって解っていても、

今の自分の姿には耐えられないのよ!


「ほ、かのデザインのドレスはないの?」


自然と零れ落ちた言葉に私がドレスを着る時に調整をしていた針子さんが、

はぁ。と深いため息をしながら答えてくれた。


「ありません。あったとしても今のソフィア公爵夫人候補が何に袖を通しても、

姿見に写る姿は変わりませんよ。何も」


太っているつもりはなかったし健康体を学園では維持していたのよっ。

そして芸術祭とかで来たドレスは苦しくもなくて腰回りが太く映る事もなかった。

なのにっ!このドレスは私のスタイルの悪さを浮き彫りにして、

それだけでは収まらなくてダメな所をこれでもかって位に強調してきてっ!

こんなのっ、こんなのってないよ!


「ソフィア公爵夫人候補様?

失礼ですが、お体を絞った方が良いかも知れませんね。

これではあまりに…

100年の恋すら冷めてしまうほどのお体の乱れ方です」


否定しようのない現実が私には突き付けられていた。

私はこれから。

これから頑張って。

頑張ってすればきっと美しいスタイルになれるって信じるしか…

信じるしか今私が出来る事はなかったの…


「さて、姿見でご自身のお姿には満足されましたか?

お着換え中に気を失うなんて前代未聞の事態でしたが…

まあご準備は出来たという事で宜しいですね?」

「え?」

「「え?」ではありません。

これからボルフォード公爵夫人に挨拶しなければいけないでしょう?

公爵夫人教育を受けるのですから」


そ、そうだった。

私は別にここにドレスを着に来た訳じゃないんだもの!

メイドや侍女達に何を言っても無駄だものね。

公爵夫人にお願いして、しっかりとした私に相応しいドレスを用意してもらえば、

良いのだもの。何を焦っていたのかしら。

そう思って、私は元気よく返事をしたのよ!

そう公爵夫人にお会いしてお願いすればこんなドレス問題は直ぐに解決よ!


「そうねっ!早くお会いしなくちゃ!」

「…ではご案内いたします」


そう言って、侍女は歩き始めたんだけど…


「ま、まって…」

「どうしたのですか?」

「くるしいのっ。

ちょっとコルセットを緩めてくれないと歩けないわっ」


そう。腰に取り付け垂れたパニエが重すぎるせいで数歩歩いただけで、

上下にパニエが若干動いて腰のコルセットを絞めているのだ。

息がっ!息が苦しい。

けれど、侍女さんの視線は冷たかったの。

この部屋に案内された時のあの甲斐甲斐しい対応じゃなくて…

何かを見限った様なそんな態度に変わったいたの。


「…その寸胴な腰回りを更に緩めて、

だらしない姿になりたいと言うのですか?

それとも更にひどい無様な肉ダルマの様なお姿を、

ボルフォード公爵夫人の視界に入れるつもりなのですか?

そもそもそれ以上緩めたらドレスが破けますよ。

それで宜しいのですか?」

「あ…、が、我慢します」


私は何も反論する事が出来なかった。

そう、なのだ。少しでも動けば腰回りから、

革のコルセットが軋む音が聞こえてくるのだ。

そしてその音はドレスにも伝わってギシギシと布が擦れる音までする。

はちきれんばかりにパツパツのドレスを着せられているのだ。

もう緩めたりしたらドレスが敗れるのは見に見えていた…

案内の侍女はポロリと本音を漏らして来た。

たぶん聞こえないつもりで言ったのだろうけれど、

けれど私には聞こえてしまったの。


―最初から大人しく従っていればいいのよ―


一歩一歩歩く度にお腹が圧迫されて苦しくて。

胸も締め上げられているから呼吸もし辛くて。

息苦しさと腰を揺さぶるパニエに耐えながら…

私はボルフォード公爵夫人の待つ執務室に案内されたの。


まずは苦しかったドレスの事を訴えて、

次にこの生意気で態度が悪い侍女についても話さなくっちゃね。

そう思って執務室に入ったのだけれど…

ボルフォード公爵夫人は執務室の休憩スペースのソファーに腰かけて、

優雅にお茶を飲んでいたのよ。

けれど私の姿を見てカップを下ろすと、ふぅと大きなため息を付いたの。

な、なんで?私はまだ何もしていなのに。

侍女は執務室の中心に私を案内して立って待つように耳打ちしてきたの。

それはちょうどボルフォード公爵夫人が座る椅子の目の前で、

私はボルフォード公爵夫人と対する形となったの!

そしてボルフォード公爵夫人と対をなす様にソファーからお立ちになられて…

また、もう一度私に対して「ふぅ」とため息を付かれたのよ。


「さてソフィア公爵夫人候補。私の姿を見てどう思いますか?」

「素晴らしいお姿だと思います!

やはり公爵夫人たるもの素敵なドレスを、

身に纏わないといけないですものね!」

「そう、ですか。

ではその素敵なドレスを身に纏った感想はいかかですか?」

「へ?」


一瞬意味が解らなかったのだけれど、

私は次の瞬間サーッと血が引く思いをしていたのよ。

だって、だってね?

私とボルフォード公爵夫人の着ているドレスは…

ドレスはっ!


私が身に着けさせられたドレスと同じ物だったのよ!

それなのに圧倒的なスタイルの差を解らせるかのような事で…

ボルフォード公爵夫人は勿論私より15歳以上年上なのに。

そのスタイルの良さはただドレスを身に纏っているだけでも、

気品にあふれる姿となっていたのよ…

その気品あるドレス姿を見せつけられたら…

私は、私に似合う新しいドレスを用意してなんて絶対に言えなくなる…

だって今の私に似合うドレスなんてそうそう簡単に用意できる訳ない。

土台が駄目だと。

腐り落ちているんだって無言で宣言されたのよ…

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