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始まる?始まってしまった…私の「道具」としての日常が…もう「カーディル様の道具」から逃げられない…

その言葉を聞いた私は周囲の人間が悪魔的な表情をしているような気がするのよ。

けれどその風景を見れるのもそこまでだったのよ。


「さぁ、仕上げです。

ソフィアに、被り物を与えてあげましょう。

素敵で素直な良い子の公爵夫人になれるまで外出時には必須となる物ですよ。

大切に使いなさいねぇ」


それは被り物と言いながら私の視界を著しくさえぎる固い内張が仕込まれた、

フリル付きのボンネットだったのよ。

頭の半分を覆い隠してしまう被り物だったのよ。

不自然なくらい前にせり出したフリルと固い生地の所為で、

どんなに上向いても遠くを見る事は出来なくされて…

それは頭に乗せるのではなくて、

頭に嵌め込まれるみたいな形でギュっと頭に押し込まれれるのよ。

髪もしっかりと抑え込まれて、可愛らしいフリル仕込まれたレースが、

私の前に垂れ下がって、視点が定まらなくなって視界がぼやけるの。

顎下で軽くリボンで結ばれる様に見える様にされたけれど、

そのリボンに隠れて細い革のベルトが通されていて、

バックルでキュッと締められれば、

頭に嵌りこんだボンネットは振り落とす事も出来なくされたのよっ!

もう、許して…許してよ…

そんな物まで身に着けさせなくたって、

良い子の公爵夫人になるから!

お願いだから…

許して…


「これからの皆の努力によって「公爵家の備品」が「公爵夫人」に、

なれるかが決まります。

皆で頑張って「激励」しましょう。

また、カーディルも公爵閣下となるべく大変な日々を過ごす事になります。

皆で支えてあげて頂戴ね」


その言葉を聞いた使用人達は一斉に頭を下げてボルフォード公爵夫人に、

最大の礼を示していたのよ。

あくまでの仕えるのは、公爵夫人とカーディルであって私じゃない。

と言いたげに。

けれど…

この瞬間を境に私の立場は、

ボルフォード家の「備品」でしかなくなってしまったのよ。

そこから這い上がるには人間扱いをしてほしければ、

王妃様に認められる様になるしか…

私が進む道は用意されていなかったのよ。


「さぁ、それじゃあ…

未来の公爵夫人候補を皆で「激励」して送り出して差し上げましょう」


それは私にとって初めてで、

これから続く地獄への日々の扉が開けた瞬間だったのよ。

クスクスと笑い声が聞こえてくるのよ。

それでも使用人達は応接室出口まで私がカートを押して出ていくための、

「道」を形作ったのよ。


「初めての激励…

使用人達が満足いくまで「激励」されなさいな。

随分とエルゼリアとの会談中は動きたかったみたいだし。

元気が有り余っているみたいだからね」


そうすると、チョーカーに繋がったフックが外されて、

私は自由に動ける様になったのよ!

「ぁっぁ!ぁ!」

い、急いでこの応接室をでなくちゃいけないのよ!

でないと、電撃がっ!電撃が襲って来るのよ!

私は力の限りカートを押すのよ。けれど山積みにされた資料が乗せられた、

カートが思い通りに動いてくれる訳もなく…

パチパチと音が鳴りだしてっ!

激励が始まってしまうのよっ!

まって!待ってっよ!

一歩一歩慎重に動く私の両隣りで侍女達が支えて…

けれど、私の涎掛けの宝石は鈍く光り出してしまうの。

駄目!やめて!

そう、考えた時には全てが手遅れで…


―パチン―

「ゕっ!ぁっぁ!」


軽やかな音と共に、私は侍女達に支えられるの。

その瞬間拍手は鳴りやんで私が立つまでシンとした室内になるのよ。

ポタポタと涙を零しながら私はまた歩き始めるの。

クスクスと笑い声まで聞こえて来て…

私の立場に同情してくれる人なんてこの場所にはいないのよ。

そうするとまたパチパチと拍手が始まって…

鈍く涎掛けの宝石は光出してしまうのよ!

嫌だ!だめ!やめてよ!許して!


叫べるならそんな言葉を叫んでいたと思うのよ。

けれど、激励は止まらないの。

そこから先の記憶が曖昧になっていったのよ。


―パチン―

「ゃっ!ぁっぁ!」


―パチン―

「ぁっ!ゕっぁ!」


―パチン―

「ゃゕっ!ぁっぁ!」


軽くて大したことのない音が室内に響くの。

拍手とそう変わらない音が首からすれば、

体を貫く痛みとしびれが直ぐに私に与えられるのよ…

矯正具やコルセットの苦しさとは違う痛みが与えられて…

ドクドクと心臓の音が聞こえる様になるのよ。

それがまた怖くてっ苦しくてたまらないのよ。

体に電撃が走る度私は立ち止まり…

痛みが去るのをまって震えが止まったらまた歩くの。

直ぐに!直ぐに動かないとまた痛い電撃が来ちゃうのよ。

けれど、思ったように体は動いてくれなくてじれったいほど進めない。

それでも応接室の出口が遠いのよ…

早く出口に…行くのよ…止まっている時間はないのよ。


歩いて電撃を受けて止まって。

またすぐ歩き出すと言う反復運動を繰り返していたのよ。

それは反射的に行われて…


ただただ足を動かして。


歩くの!歩くのよ!


使用人達から逃げる様に。

パチパチと言う音を聞かなくていい様に!



それから周囲の音に怯えながら執務室に戻された時…

拍手がされない場所にこれたって思って嬉しく感じていたのよ。

「学習」する為に「座らせ続ける」椅子が置いてある場所なのに…

一日のほとんどを過ごす私を閉じ込めておく、

窮屈さを感じる嫌いな場所のはずなのに。

そこに「戻って」来れてほっとしてしまっていたのよ…

「ぁ…」

ち、ちがう…

けれど、もう誤魔化せなくなっていたのよ。

わ、わたしはこの場所が「私の安全な場所」と思ってしまったの。

その考えが考え自体が私をこの場に馴染ませているて事なのよ!

ここが私の場所だって…

ここにいる事が当たり前に思えてしまったのよ…

「ぅ!っぅ…」

その考え方自体がおかいしいのよ。

けれど受け入れてしまって私はもう…


私はもう私を誤魔化せなかったの。


そして…


戻って来た執務室に机は無かったのよ。

その代り、壁には今まで応接室で繋がれていた金具が取り付けられていて…

私の肘の高さに合わせて革張りの肘置きも取り付けられていたのよ!

もう如何されるなんて解りきっていて…

いやだ!

いやだ!

ゆるして。

叫び声を挙げたくて…

フルフルと首を横に振ったのよ。

次の瞬間…

またパチパチと拍手が、拍手がされてしまうの!

あ、ああっ!


―パチンー

「っぁゕっぁっぁ…」


痛い!苦しいの!やだっ!

ガクンと崩れ落ちる体。

けれどそれを見越して二人の侍女が私を支えるの。

そしてガクガク震える私を支えなら、壁際のっ、

私を繋ぐ金具がある場所に連れて行くのよ…

誰か!誰か助けて!


「さぁ「ソフィア」お役目を果たすために「学習」しましょうね」

「ええ!奥様がやる気に満ちていると言っていたのですから。

早速「学習」を始めましょうね」


ズルズルと引きずられた私は壁際で肘掛けに乗せられると、

首の後ろ辺りからカチャカチャと音が聞こえてくるのよっ。

私は必死になって頭を振って首を動かすのよ。

繫がれたらまた…

また!もう嫌よ!

けれどそんな私の想いなんて関係なく非情な音が耳に届くのよ。


―ガツンー


と、聞きなれた音がして…

チョーカーは首をその場に押し留めてもう、体が前へ動かせない。

繋がれたって自覚せずにはいられなかった。

けれど今はそれだけじゃ終わらなかった。

直ぐに別の侍女が変な物を運んでくるのよ。

革の塊と黒い見慣れた黒板。

けれど様子が違うのよ今まで使っていた黒板には無い物が取り付けられていて。

肩に引っ掛ける様にして、ベルトで黒板を胸上に据え付けられたのよ…

それから口を刺激されて開くように促されるの。

そうやって開かされたお口に革で出来た口にくわえる為の充て具をあてられて、

くるりとベルトを頭に回されると加えたままの状態で固定されたのよ。

ボンネットを留めている革のベルトにも繫がれてとずれ落ちない様にされて…

口に咥えさせられたソレから延びた棒の先にはチョークが付いていて…

それが何のために与えられたのかを理解せざるを得なかったのよ。


「さて「ソフィア」の学習準備は出来ましたね。

これからは、お口で質問の答えを書いて下さいね。

「おてて」は、カートを持っていなくてはいけませんから」

「そうですね「備品」の「ソフィア」に「おてて」は要りませんからね」

「これからしばらくは「カート」の為に「ソフィア」はいるのです。

間違えないで下さいね。

「ソフィア」は「美しいカート」の「部品」ですよ。

ソフィアの為にカートがあるのではないのです。

カートの為にソフィアがいるのですよ。

早く「備品」から「人」になれる様に頑張って下さいね」

「今までは移動の時にだけ「カート」に繋いでいましたが、

正直申し上げて執務室に来る度に装飾品を外すのは時間の無駄です。

これからはフィッティングルームに戻るまでカートを持ったままにします」

「準備の時間が短縮できて「学習」時間が増えて嬉しいですね「ソフィア」」

「「激励用品」まで奥様から戴いて。とっても嬉しいですね!」


わ、私は自然とコクリと頷いていたのよ…

それ、が…

私の現実だったのよ…

もう、「ソフィア・ボルフォード公爵夫人候補」ですらなかったのよ。

繫がれた「カート」の一部。

人ですらない!「カート」の部品。

人間でない公爵家の所有物「ソフィア」それが今の私なの?

けれど、もう質問をしても答えてくれる人はいない。

そしてその立場を覆すには、ボルフォード公爵夫人に認めて貰うしかないのよ。

今日から…いいえ今からは、

ボルフォード公爵夫人が用意した考えに合わせて周囲が整えられてしまったの。

もう私にこのお屋敷でまともな対応をしてくれる人は…

助けてくれる人はもう…

そして、私がこの地獄の様な生活から逃げる方法も…

その現実が今の私には重すぎて…

「ぁっぁぅ…っぁっぁー」

ボロボロと涙が零れて来るの。

許して。許して下さい。私が、私が間違っていましたって、

認めても良いから。そう侍女達に言いたいの…

この環境から解放される為だったら、私はなんだって出来るの。

どんな言う事だって聞くのよ!

けれど…

パチパチとまた手が叩かれる音がして来るのよ…


―バチンー

「っぁ!…ぁっぁ…」


「「備品」は泣いたりしませんよ「ソフィア」」

「そんなに「激励」を受けたいのですか?」


フルフルと首を振って、激励は嫌と必死に伝えるの。

その回答は貰えなくて…

早速、私への読み聞かせが始まるのよ。

許して…

頑張るから許して…


私は…


私はボルフォード家のカーディル様を支える、

何でも言う事を聞く良い子の公爵夫人になるのよ…

なれないと私は…



これにて

「乙女ゲームの主人公は、正義を語り続けてはいられない」

のソフィアが公爵夫人でいられる生活は終了です。

タイトル通り、もはやソフィアに正義なんて言っている余裕はありません。

日々の「学習」で精一杯となりました。


中途半端な「リアル」を物語にぶち込んでいるせいで、

思った以上に物語のバランスが取れていませんね。

が、まぁ外伝的な「ソフィア」のエピソードなので「ざまぁ」の意味も込めで、

鬼畜な仕上がり?となってしまいました。

本当に「リアル」云々言ってしまったら、

もうソフィアは生きていられないでしょうね。

極限まで締め上げられたコルセットと矯正具をほぼ24時間着けさせられたまま、

重たい「カート」を押して歩くとか絶対無理でしょうし。

ドレス単体の重さだってアクセサリーやスカートの中を満たすパニエなんて、

身に着けさせられているんですから。

あのマリーアントワネットの儀礼用ドレスは、

軽く見積もって20キロ以上らしいので、

どんなに軽く見積もってもソフィアのドレスは、

優に50キロは超えているのではと思います。

凶悪な仕上がりのドレスという事で考えれば倍以上が妥当でしょう。

普通の女性ならまず耐えられないでしょうね。その時点でリアルでもないか。

そんな状態で歩けたとしても直ぐに酸欠で動けなくなると思います。

それでも無理やり歩かされたら、たぶん死にますね。

息苦しさの中で重労働って基本無理ですから。



予定通りと言うか「思想矯正」までしなくちゃいけないソフィアの教育は、

体罰まがいの事を行って、人格を破壊する勢いで躾なければ、

王妃様から求められる「国の為に生きる公爵夫人」になれないのです。

彼女は苦しい想いをしても「自身の正しさだけ」を信じ続けているのですから。

しかし3カ月のテスト期間中にソフィアの周囲は整えられました。

毎日の繰り返される行動に彼女の心と体は、

ゆっくりと確実にボルフォード家の生活に慣らされ汚染されていたのです。

自分がいる場所が「安全」か「危険」な場所なのかを判断してしまう位に。

用意された「教育」と「躾」はどれも辛く苦しいもので「逃げたい」と、

思っているはずのソフィアが「執務室は安全」と「考えてしまった」事で、

ソフィアは、生活に慣らされていたって事です。

それは嫌がっていた「公爵夫人教育」を受け入れている、

証明でしかなかったのです。

それに気付いてしまった時点で、自分の考えがもう保てていない事に気付きました。

もう、既にボルフォード家の「良い子の公爵夫人」にさせられ始めている事に。

もう逃げ道がない行き先の決まった道を歩かされている事に。

あとはそのたどり着けないゴールに向かって歩き続けるのです。

それはソフィアにとっての生き地獄のスタートでしかないのでした。


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