やだ!やだぁ!これ以上カーディル様の為に頑張りたくないっ!頑張れないのよ!
じ、自分が楽になる為だったら誰だって「愛している」なんて言って来る、
カーディル様の「愛している」って言葉は口だけだって。
私が後ろで見ているって解っているはずなのに軽々しくエルゼリアに、
「気の迷い」なんて言って…
私を何だと思っていたのよ。
必死に叫んで私がこの場にいるって主張しても、
カーディル様の態度は変わらなかった。
エルゼリアに再婚約を迫る場面を私の前で繰り広げて。
それでいて私に「愛してやる」なんて言われたって…
もうその「愛」なんて信じられる訳がないのよ!
私を愛してくれていないって解りきっていて…
それでも私はその「愛」に縋りつくなんて出来ないのよ!
そこまで無下に扱われてそれで囁かれた「カーディル様の愛」
そんな「愛」しか今の私の前には無かったのよ。
もう、そんな人の為に生きるなんて出来ない。
出来る訳がないのよ。
私はそこまで覚悟があった訳じゃない。
私はカーディル様に支えて貰って、
公爵夫人として生きればいいと思っていたのよ。
でもその支えはもうない。
それなのに「愛してる」って中身のない言葉だけで私は、
自身を支えて生きろって言うの?
無理よ…
出来ない。
出来ないって言いたいの。
でも…
でもっ…
私が立っているのは壁際。
そして首は壁に繫がれ。
カートに繫がれた私に後ろに下がるなんて「場所」はもう無いのよ…
私は「カート」を押して前に進む事しか許されない場所に立たされていたのよ。
逃げ道はもう…
ない。
ないのよ。
後はお返事をするだけ。
「カーディル様に生涯を捧げる」だけしか許されない契約に。
ボルフォード公爵夫人は見続け―――
私が正しく自分の「立場」を理解したことを確認して…
そして私に最後の一押しを迫ってくるのよ。
「ちゃんと納得してくれて良かったわ。
何時までも、自分の事しか考えられない「ソフィア・ボルフォード」でいる事は、
許されないのですから。
これからは自らが望んで全て身に着けてもらわなくてはね。
矯正具を身に着けての生活だって。望んでしなくてはおかしいのよ。
苦しい花嫁衣装も着てくれるのでしょう?
「愛しいカーディル」の為に」
ちがう…
尽し続けるなんて出来ない…
わ、私はエルゼリアの様な覚悟は無いのよ。
二人で愛し愛されてそして幸せになって行くのよ。
私だけが愛し続けるだけなんて出来ない。
「いつも、いつも、煩いって噂になっているのよ。
お着換えの時に「コルセットが苦しい」とか「矯正具が痛い」とか。
けれど、これからはそんな些末な事で反論する事は許されないわ。
「愛しいカーディル」の為ならどんな苦痛だって我慢できるモノねぇ」
私が綺麗になる為に皆、動いてくれているんだって思えば、
苦しいコルセットや矯正具だって耐えれた。
けど、それが全てカーディル様の為だけに動いているとすれば…
誰一人、私を見てくれていない。
「きっと体力的にきついのよね?
分かるわ。だからその場で頷くだけで良いのよ。
そうすれば、その壁から解放してあげる。
そして貴女に相応しい物をプレゼントしてあげるわ。
さぁ…」
理解させられてしまった未来とカートを持って立たされ続けた体は、
休憩を欲して崩れそうになるの。
けれど、顎は下げれない。
下げた瞬間わたしの最悪の未来が決定してしまうのよっ!
でももう苦しいのよ…
前を向いて公爵夫人を見ているのも辛いのよ…
けれど話をここまで進めてきた公爵夫人が今から結末を変えるなんて、
勿論なくて…
公爵夫人満面の笑みを向けながら私に迫って来るのよ。
その決まり切った返答を確定させるために。
「お返事は?」
もう声は漏れても、
「ぁっぁぃゃぁ…」
私は、もう、もう…
頷くしかなかった。
立たされ続けた体は疲れ果て前を向いているのも辛くて…
歯を食いしばって頭を動かさない様に必死に「肯定した」「頷いた」って、
思われない様にしていたのに…
体は正直だったのよ。
もう耐えられないってコクンと顎が落ちるのよ。
頭が下がってしまうのよ。
それは、その瞬間…
カーディル様の為だけに生きる人になるって契約書にサインしてしまったのよ。
私はもうボルフォード公爵夫人の方を向いているのも辛くて、
項垂れる様に頭を下げたのよ。
けれどその頭を下げた事でボルフォード公爵夫人は喜んで、
話を進める事になるのよ。
「良かったですねソフィア。
愛しいカーディルが決めてくれたのですから、
貴女は頑張らなくてはいけません。自分自身で頑張ると頷いたのですから。
しっかりとカーディルの分まで認められる公爵夫妻になる為に、
頑張り続けるのですよ」
「ソフィア!そんなに意地を張るなよ。
お前が頑張り続ければ丸く収まるんだから。
それで皆、幸せになるんだからさ。
そうしたら「愛してやるから」努力を怠るなよ」
私は俯いたまま、その返答を聞き続けていたのよ。
強制的に頑張り続ける日々の幕開けで、
カーディル様の言う皆の幸せの中に私はいないじゃない!
ひどい!酷いわ!何もかも私に押し付けてっ!
無理よ!嫌よ!
記憶の片隅で、チラつく事があって、
この無理矢理頑張らせる舞台は、見た事があるって事なのよ。
この場面は…
学園で私達の意見に反発していた。
エルゼリアが良く言っていた場面に似ているのよ。
「エルゼリア、ソフィアが芸術祭を開きたいと言っている。
俺もこの素晴らしい考えに賛成だ。
概要はソフィアが纏めてくれた物がある。
近いうちに開催できるようにしておけよ。
俺の事を愛しているなら出来るよな?」
「はい?では、その企画書を見せて下さいませ」
そう言って受け取ったエルゼリアは私の書いた企画書を見て、
顔を顰めるのよ。カーディル様が太鼓判を押してくれた計画書に。
「これは…流石に実行できないと思いますが…」
やれドレスの手配が間に合わないとか。
芸術品のコンテストの審査員を芸術家から引っ張ってくるのは無理だとか。
色々とグチグチ言ってきたから言い返したのよ。
「頑張れば出来るんです。
出来ないのはエルゼリア様の努力が足りないだけなのです」
「そうだ。ソフィアの言う通りだ。
お前の働きが悪いと「俺からの愛」が減るがそれで良いのか?
実家が大変な事になるだろう?なぁ、出来るよな?」
「…極力実行できるようにしますが…
今ここで「出来る」と言い切れません。
お許しください」
「ッチ、解った。出来るだけやれるようにしろ」
「はい…」
そこで困った顔を浮かべるエルゼリアを見て…
カーディル様の婚約者を気取る女が困った顔を、
していていい気味ね!なんて思っていたのよ。
けれど、今私に掛けられている言葉はそのままあの時、
学園でエルゼリアが答えさせられていた言葉と同じなのよ。
それはエルゼリアが押し付けられていた立場と同じだったのよ。
エルゼリアが熟して来た役割は全て私に降りかかり、
私はその役割から逃げられないの?
けれど3人の侍女達が拍手を始めてしまったの。
それは私が認めたという意味で。
周囲が捉えたという事なのよ
もう、にげられ、ない…
「おめでとうございます」
「これからは教育も躾もはかどりますね」
「ご自分の立場を理解したのですから」
私を教育する彼女達がそう言い始めてしまった事でもう…
何を表現しても無駄って事になるのよ。
3人に祝福の拍手を受けながら、
ボルフォード公爵夫人は更に私に追い打ちを掛けてるのよ。
「けれど立場を理解していても、
直ぐにソフィア・ボルフォード公爵夫人候補は、
行動を起こす事が出来ないでしょうから…
これからはカーディル。
貴女もソフィアを監視する役割をして貰います。
ちゃんと「言う事を聞く素直な公爵夫人」になるまで躾けるのですよ。
少なくとも「体が無意識に反応する」まで躾は続けるのです。
出来ますね?」
「勿論です母上!」
「良いお返事です。
では、仕上げに今のソフィアに相応しい物を取り付けてあげましょうね」
公爵夫人は立ち上がると、私の傍に寄って来て、
侍女からある物を受け取ったのよ。
それは頑丈な革で出来た私の首に嵌める為の物だったのよ。
その革の…く、首輪の前後には白い革で出来た涎掛けの様な物が、
取り付けられていて…
その涎掛けいっぱいに銀板が打ち付けられていたのよ。
公爵夫人は私に見せつける様に説明するのよ。
「今の貴女には、「公爵夫人候補」という肩書は重すぎるみたいだから…
別のお名前を考えてあげたのよ。
貴女はもうマリス家の人間でもないし、
ボルフォード家の人間としても相応しくないのよね。
けれど婚約者を辞めさせる訳にはいかないのよ。
だから、言い方を変えてあげれば貴女も気が楽になると思ったのよ」
ひどい…
その銀板に刻まれた言葉は私を人として見ていなかったのよ。
次回の更新は20~20時30分の間で投稿します。




