どうしてこんな会話が続くの?悪の令嬢が正義のボルフォードを潰せるなんてありえないの!
「乙女ゲームの主人公は正義を語り続けてはいられない」は、
毎週 水曜・土曜 20時に更新します。
「なりません。
もし無かった事に出来ると言うのであれば、
私は全力を持ってボルフォード家を潰しましょう」
「は?何を言っているんだ?
辺境の永久凍土に囲まれたような辺鄙な場所の伯爵令嬢ごときが、
由緒あるボルフォード家を潰せるとでも本気で思っているのか?」
そうよ!
家の格だって爵位だってボルフォードの方が上なのだから!
それをまるでどうにか出来るみたいに!
ファルスティンなのよ?
あのファルスティンがボルフォードを潰せる訳がないじゃない!
何夢みたいなこと言っているのよこの女は?
頭でも打っておかしくなったの?
「ええ。そうです。
その辺境のファルスティンがボルフォードを潰せるのですよ」
今までエルゼリアが見せていたのは…
学園にいた時とは違う余裕の態度は、「強者」の余裕だったのよ。
本当にエルゼリアが言った通りファルスティンに、
ボルフォードを潰せる余裕があるとは思えないけれど…
それでもエルゼリアが見せるのは「公爵家」と対等。
もしくはそれ以上という自信を持った返答だったのよ。
怖気づいたカーディル様はそれ以上返答できなくて…
エルゼリアはそれを最後にカーディル様と話すのを辞めたのよ。
同時にカーディル様はボルフォード公爵夫人の指示で、
中心の席から離れる様に促されて…
私と同じように壁際で立つ位置に下がらされたのよっ。
それはもうエルゼリアを説得できなかったという意味で…
でも、でもカーディル様?
さっきの正室、側室の話は冗談よね?
私を側室にしようとしたなんて…
嘘よね?
―ガツン―
虚しく私の後ろから鎖が当たる音がする…
動けるのなら直ぐにでも隣に行って確認したかった。
けれど私に今移動する権利は無かったのよ…
それでもエルゼリアのお話は終わらないのよ。
「ボルフォード公爵夫人…
これでもまだ私を公爵家へ迎え入れようと思うのですか?
既に過ぎ去った事と言って「まだ」ボルフォードは、私を…
いいえ、ファルスティンを舐め腐った態度で罵り、
私に嫁いで牛馬のごとき働き、この「カーディル」とやらの為に、
我慢してでも結婚するべきだと言うのですか?」
な、なにこのエルゼリアの態度は?
一体のこの一切乱れないエルゼリアの雰囲気と態度は一体何なの?
公爵夫人にして許される事なの?
辺境の弱小貴族が!マリス家にも劣る酷い土地しか持たない、
ファルスティンの令嬢がどうしてこんなにも自信たっぷりでいられるの?
国から人員補充をして貰わなくちゃ、領としての体裁だって、
取れない形だけの貴族で見捨てられた場所のクセに!
どうして?
どうしてエルゼリアは?
そんな態度でいられるのよ!
けれどボルフォード公爵夫人は対等に話そうとするエルゼリアを咎めないのよ。
エルゼリアを遣り込める為に!
一切臆することなく反論する事を始めたのよ!
「ええそうです。
王国はエルゼリアがボルフォードへ嫁ぐことを望んでいるのです。
その王国の願いを叶えるのが忠臣としての務めです」
「ではお聞きします。私がボルフォードに嫁いだとして、
ファルスティンが得られる物は何があるのでしょうか?」
「王国に忠誠を尽したとして称えられるのです!
ファルスティンが王国に認められるのですよ?
栄誉ある事でしょう」
「その事に何の意味が?
ボルフォード公爵夫人の言う「栄誉」があれば、
寒空の下で死んでいった領民達は喜ぶのですか?」
「勿論ですよ。だってそれは広義において国王陛下の為にその尊い命を、
捧げる事が出来たのですよ。それがどれほど素晴らしくて、
気高く崇高な行為なのか少し考えれば解かる事でしょう?」
「…ならその気高く崇高な行為の為に、
カーディル様を国境の最前線に送ればいいではありませんか。
それで、命を掛けて崇高な行いをして国王陛下に認められれば良いでしょう。
私を使って、カーディル様に下駄を履かせて無理矢理公爵家を継ぐ資格を、
もぎ取ろうとせずとも、前線で崇高に戦えば数年ほどで、
国王陛下はお認めになりますよ」
…な何を言っているの?
大小の差は在るけれど、王国に住まう人々は国王陛下の威厳があるから、
秩序を保って生きる事が出来ているのよ?
王国に生きる国民と貴族なら王国の為に生きるのは当然でしょう?
それに貴族の命は尊いのよ?そんな事も解っていないのエルゼリアは?
その尊い命を平民と同じ様に最前線に送って、
散らすなんてありえない事なのよ?
ましてカーディル様の血は公爵家の血なのよ?
そんな尊い血を前線に遅れだなんてそんなバカな事出来る訳無いじゃない。
大切にしなくてはいけない血なのだから。
前線に行かせなくていい方法があるなら、
その方法を選ぶに決まっているでしょう?
そんな事も理解できていないの?
「もしくは…その後ろに控えさせている、
ソフィア・ボルフォード公爵夫人候補をどうにかして「王妃様」に、
認めて貰うようにまた資金をばら撒けば良いのです」
いきなり話を振られて驚いたけれど…
カーディル様の話していた事で落ち込んでいる暇はなかったのよ。
私を認識しているって事は、私の雰囲気も届いているって事だから!
負けない!エルゼリアなんかに負けないのよ私は!
私はしっかりとエルゼリアを見つめ直して、睨みつけてやったのよ!
そうすればまた私の「正義に」ビビッて怖気づくと思ったから…
けれどエルゼリアがニコリとするだけ。
それだけだったのよ。
「これ以上、私と公爵家とお話しても、結果は変わりませんし。
ソフィア・ボルフォード公爵夫人候補が使用する公爵家の資料は、
全てお持ちしました。この資料の返却を持って、
婚約は完全に解消され私とカーディル様は出会わなかった事に出来るのです。
白い婚約が出来て、白い結婚も出来るのですから…
公爵家は喜ぶべき所でしょう?
さぁ…私が持ってきた公爵家の資料を返却させて下さいませ」
「ほ、本当にもう駄目なのですね?」
「私の答えは変わりませんよ。私はともかくとして、
現ファルスティン伯爵である、ライセラス・ファルスティン伯爵は、
アネス・ファルスティンの「王国」に対する怒りを正しく理解しています。
おそらく「正しい資料」が王国より公爵家へ届けられているはずです。
その資料は正しく読まれたから最後の引き留めをして、
いらっしゃるのでしょうが…もう手遅れです。
ライセラス・ファルスティンはエルゼリアを手放しません。
もう「婚約破棄を無かった事にする」段階はとうに過ぎています。
そしてボルフォード公爵夫人。
貴女の言葉は私に届かない」
ボルフォード公爵夫人は上を向いて大きなため息を付いたのよ。
そして、また話し始めるの。
何かを決意したみたいに。
「ソフィア・ボルフォード公爵夫人候補を此方へ。
エルゼリア・ファルスティン伯爵令嬢より公爵夫人として必要になる、
資料を受け取りなさい」
そう言われてやっと私の首と壁を繋いている鎖が外されて…
私は部屋の中心にあるテーブルに近づく事が許されたのよ!




