私にはこんな生活はありえないっ!素敵な日常の為にカーディル様を探しに行くのよっ!
「乙女ゲームの主人公は正義を語り続けてはいられない」は、
毎週 水曜・土曜 20時に更新します。
「あ、朝が来たら、また矯正具を付ける時間がやって来るって事なの?
待って。待ってよ。
今日は半日だったのよ?
半日でもあの地獄の様な矯正具で私は耐えられなくて、涙を流したのよ?
カートに固定されての移動だって…信じられないくらい苦しかった。
それがまた明日もやってくるの?
そんなの、そんなの嫌よ。
か、カーディル様に会わないと!
一刻も早く会って、カーディル様にこの暴挙を止めて戴かないと!」
そう考えたら寝ている暇は無かった。
きっとお屋敷の何処かにカーディル様はいるのよっ!
いない訳無いのよ。
私は実家に帰って、挨拶をしてから、ここに来たんだもの。
私より先にボルフォード領へ向かっているカーディル様が、
ここにいない訳ないもの!
探さなくちゃ。探してお願いしなくちゃ。
で、出ないと私は、私は苦しくて痛い生活が着ちゃうのよ!
いても経ってもいられなくなった私はベッドから抜け出て、
部屋に運び込んで貰った、実家から持ってきた荷物を探したの。
その荷物はウォークインクローゼットの中に置かれていたから、
直ぐに見つかって鞄を開けば中には私が持ってきたものが、
ちゃんと入っていたのよ!
私は鞄の中から着替え一式を取り出すと、
ウォークインクローセットの中でガウンを脱いで邪魔くさいコルセットの紐を、
解いたのよ!
一気に体が楽になって思わず笑みがこぼれてしまったの。
同時にお腹周りにが楽になって軽く空腹感も襲って来たのよ。
けれど時間は無いのよ。
今日はお風呂で誤魔化されてしまったけれど結局お夕食はなかったし、
思い切り締め上げられていて空腹感を感じる余裕はなかったとはいえ、
お腹はすいたもの!
鞄の中に忍ばせておいた乾燥菓子をモグモグと食べればその空腹感も紛れて、
私の中に力が漲ってくるみたいに感じるの!
この広いお屋敷の中でカーディル様を探さなければいけないのだから!
直ぐに下着を身に着けると軽くブラウスを身に着けてスカートを履けば、
普通の少女の格好なのよ!
決して体が乱れているなんて言われる姿じゃないのよ私の体型は!
だから、だから!今日着せられたドレスが狂っているのよ!
―ボルフォード公爵夫人が普通に着ているのに?―
煩い黙れ!
私は可笑しな事は言っていないのよ!
正しいのは私。
可笑しいのはあのドレスなのよ!
早く!早くしなくちゃ!
時間は少ないわ!
そう決心した私は真夜中のお屋敷探検を始める事になったのよ!
キィっと音を立ててしまう扉を慎重に開けてその先の様子を伺うと、
そこはやっぱり公爵家のプライベートスペースだから警護の人が立っているの。
けれど警護の人って外からの侵入には神経をとがらせているけれど、
内側から外側に出ていく人ってあまり警戒していないのよね。
だって内側には守るべき人しかいない筈だから!
私は心を落ち着かせて慎重に…
慎重に行動するのよ。
まるで学生自体の秘密の逢引きを思い出すみたいに。
やっている事は学園の寮で生活していた時に、
秘密でカーディル様にお会いに行く時を思い出して、
ちょっと楽しくなって来ていたの。
懐かしさとちょっとしたドキドキ感はなんていうか、
秘密の偵察みたいでエルゼリアの不正を暴く正義の行いをしていた時の事を、
思い出してしまうの。
あの強い使命感と高揚感。成功したら暴く事の出来る不正の数々。
今また私はこの苦しくておかしい生活を改善するために、
カーディル様を見つけて直に訴えて待遇を改善してもらうって考えると、
私は同じことをしているのよ。
この事は正しいのよ!
正しい事をしようとしている私に、
皆協力してくれてきっと今回も成功できるのよ…
そう思いながら私は公爵家のプライベート空間と私の私室を隔てる、
扉に手を掛けたのよ。
カーディル様は公爵家のプライベート空間にいない事は解っているもの!
もしもいるのならあんな酷い物を与えるボルフォード公爵夫人と私を、
二人きりにする訳がないのよ!
愛している私が酷い目に会う事を許せるほどカーディル様は大人しくないはず。
私の為に怒ってくれて私を守ってくれる人なんだから!
騎士達が暮らしている兵士宿舎で己の心身を鍛えて私と結婚する為に、
凛々しい姿を私に見せようって頑張っているに決まっているの。
だから今日は私の出迎えもしてくれなかったのよ。
そうに決まっているのよ!
だから…
カーディル様は近くにいるの!
いなくちゃいけないのよ!
私は勇気を出してその扉を開くのよ!
愛しいカーディル様にお会いする為に!
ガチャリとドアノブは回ったのだけれど扉は開かなかったのよ。
扉は押しても引いても開かなかったのよ。
ど、どうして?って焦ってドアノブを何度も回して状態を確認するの。
けれど、私の前にある扉は開かない。
鍵穴もないのに!ただ、閉まっているだけのはずなのに!
ど、どうしようって少し考えていたら、
次の瞬間…
ドン!って突き飛ばされて…
私は後ろから誰かに押さえつけられたのよ…
「誰だ貴様は!どうしてここにいる?!」
そう、倒れた私はいきなり腕を捻り上げられて、
その場に押し倒されたの。
「い、いたっ!わ、わたし…」
「黙れ、不審者が!一体何処から侵入した?」
「わ、たしは…」
それから臨時警戒の兵士達が集まって来て来るまで1分もかからなかったの…
私はその場で押し倒されたままあの特別なメイド服を着ていた人が、
不審者の確認としてやってくるのを待たされることになったのよ…。
「何事ですか」と駆け付けた特別なメイド服を着た人は私の顔を見るなり、
上を向いて腕て目を覆って思い切り「はぁ」とため息をついたの…
「あなたでしたか…
昼間あれだけ苦しい想いをしていたのですから。
今日くらい大人しくしていると思ったのですが…
こんな夜更けにこんな騒動迄起こして…
それにその格好、好いた使用人にでも夜這いをしに行くつもりだったのですね」
わ、たしは普通の格好をしているのよ。
夜這いだなんて、そんな事する訳ないじゃない!
けれど床に強くおさえ付けられた私はうまく喋れないのよっ。
けれど周りの警備員の男が言うのだ…
「よ、夜這いってカーディル様いくら何でも。
もう少しマシなお相手を見つけるべきでしょうに」
「こんな貞操概念のないアバズレの何処が良かったんだ?」
「うわぁ、婚約者の下に来て初日から「目移り」したのかよ…」
集まってきた警備の兵士の感想はもう酷い物だった。
違うわよ!私はカーディル様一筋よ。
他の男と逢引きしようとなんて考えていないわ!
「ち、ちが…」
「ああ。
言い訳は後で聞いて差し上げます。
まずはお部屋に戻りましょう」
そのまま警備の兵士に起こされた私は自室へと連行されたのよ。
腕は捻り上げられたままで。
けれど部屋に入った等直ぐに腕は放して貰えて、
私を連行した兵士は直ぐにその場を立ち去ったのよ。
ただ振り向いて確認した表情はどう見ても、
未来の女主人に対する表情ではなくって、
落胆して汚いモノでも触ったかのような汚物を見る様な目で見られていたのよ。
部屋の入り口にはまた別のメイドが何人もいて、
彼女達は深夜なのにメイド服のままだったの。
慌てて着替えて来たって訳では無さそうで、
けれど深夜の呼び出しでもう、ウンザリって表情を隠そうともしなかった。
・・・私の脱出劇は成功しなったのよ。
誰も私を助けてくれる素敵な人はいなかったの。
残念…
けど、まだチャンスがなくなった訳じゃないし次の機会に成功すれば良いのよ。
諦めなければ正しい事をしている私に幸運が舞い込むのだから!
そう私は諦めないのよ!
だって今日は扉まで行けたのだから次はもっと遠くまで行けるはずだもの!
一度や二度の失敗で諦める様な心は持っていないわ!