思っていた事と、やらされている事が違いすぎて…でもっ!でも!なんで!?
「乙女ゲームの主人公は正義を語り続けてはいられない」は、
毎週 水曜・土曜 20時に更新します。
厳重な2重の扉が設けられたそのお部屋は執務室と言うより、
書斎や資料庫と言ったイメージの方が近いような気がしたわ。
けれど本棚に囲まれたその部屋の奥には立派な椅子と机が設置してあって、
そこに座ってお仕事をするみたいな雰囲気が出来上がっていたのだけれど…
私はその奥の立派な椅子に導かれて問答無用で座らされたのよ。
途端に余裕のない腰回りから悲鳴が上がるの。
立った状態で限界まで絞められた矯正具の所為で座った時にまた苦しい、
想いをする事になったの。
腰を締め上げられすぎて押し下げられたお腹の筋肉が、
今度は太腿と細くなった腰との間で行き場を求めて、
膨れ上がろうとする事になったの。
座るだけでお腹の中に何かが詰まっているかのような感じになって…
お腹が痛むのよっ。
それはいきなり腹痛を体が訴えてくるのよ。
「ぅっぅっ」
けれどその事を訴える事が今の私には出来ないの。
喋る余裕はなくて…
ただ無言で涙を流して…
気付て貰えるのを待つしかなかったのだけれど…
そんな様子の私を見ても侍女の様子は何も変わらないのよ…
もう私にやらせる事は決定しているみたいに淡々と予定を伝えてくるの。
「さて、ソフィア・ボルフォード公爵夫人候補、早速ですがあなたには、
今から公爵家に相応しい知識を持っているかどうかの確認を致します」
机の上には簡単な筆記用具が置かれて喋れないのは許すから、
今から質問する答えを正確に書いて答えろって言うテストが行わる事になったの。
問題は読み上げられてそれに対して答えを書くという簡単な問題。
けれど…
〇〇年王国に攻め入った国は?とか。
その戦争でどの程度の損失を出した?とか。
国の生産基盤と〇〇地方の収穫量がどの程度?とか。
ボルフォード家の主産業を支える地域で一番重要な所は?とか。
外国からの侵略戦争とかの内容なんて、学園では習わなかったっ!
ボルフォード領の生産物が何かなんて知らないわよ!
そんなこと知る訳無いじゃない。
そして何も書けないままテストは終わってしまったのよ…
だって習っていないのよ?
そんなの解る訳無い!
「将来公爵家を背負って立つカーディル様が頼りにする公爵夫人が、
無能である事など許されません。
知らない。解らない等と口が裂けても言ってはいけないのです。
この部屋には今ソフィア・ボルフォード公爵夫人候補に質問した、
公爵夫人が知っておかなくてはいけない資料があります。
有り体に言えばこの書斎の資料は全て頭に叩き込んで戴きます」
「ぃゃぁ…」
「…そうですね良いお返事です。
しっかりと覚えてくださいませ
期待しておりますよ」
私の必死に言った否定の言葉は聞き流されて侍女はにっこりと笑うのよ!
けどねこんな量…
お、覚えられる訳がないじゃない!
壁を背にして目の前に並ぶ私の背より高い本棚の資料を…
全て覚えろって…
そんなの出来る訳無いじゃない!
けれど私の出来ないって気持ちは置き去りにして…
私は必死に口をパクパク動かして…
それを見た侍女は言うのよっ!
「え?「優秀な公爵夫人候補の私ならこんな事出来て当然」ですか。
良い覚悟です。
ではさっそく始めましょう」
私の口のうごきを見て勝手にそう解釈したのよ!
それから侍女はその資料を読み上げ始めたのよ。
そして何度も私に質問をしてその回答を書かせるの。
答えられなかったら、またその資料の初めから、
読み聞かせが始まって…
ある程度時間が立ったら、流石にその侍女も読むのに疲れたのか、
ふぅと言って読むのを辞めてしまったの。
やっと終わったと思ったのもつかの間、
別の侍女に本を渡すと私への読み聞かせは続けられるのよ…
今まで読み聞かせをしていた侍女はメイドに用意させた軽食を食べながら、
お茶を飲んでリラックスムード。
けれど私に休憩の二文字はなかったの。
ひたすらに読みながら唐突に質問されて答えられなければ始めから。
そしてその二人目の侍女も疲れてきたら交代で三人目の侍女へと、
読み聞かせが引き継がれるのよ。
私に休憩と言う文字は無くて…
私が答えられるまでその本の読み聞かせは終わらなかったのよ。
ただ椅子に座って答えを書く事を強いられ続けて、
どれだけの時間が過ぎたのか窓が無いから解らない部屋で、
魔道具の光だけが照らし続ける部屋で淡々と続けられる覚える作業。
退屈でただ聞き続けて覚えるだけの時間が過ぎていくのだけれど…
流石に疲れてくると体勢も前のめりになってくるのよ…
けれど…
「ソフィア・ボルフォード公爵夫人候補…
アナタは姿勢を正して座っている事も出来ないのですね」
それはそうよ。もう何時間椅子に座った状態でいるのか解らない。
三人の侍女は交代で休憩しているけれど私は休憩だってしてないのよ?
疲れて前屈みにだってなるわよって反論したかった。
けれど苦しさは変わらないしお腹が張って痛いのも相変わらず。
それでも我慢しているっていうのに。
姿勢が乱れる?当り前じゃない。
こんな重たい矯正具を上半身に取り付けられているのよ?
疲れるに決まっているじゃない!
けれど休憩していた侍女が部屋の片隅から黒い木箱を取り出すと、
それを机の上に置いて私に優しく語り掛けるのよ…
「大丈夫ですよ、ソフィア様のお椅子にはそういった状況でも、
対応できるお道具が付いているのですから」
そう言って開けられた箱の中には革のベルトが入っていたのよ。
もちろん今私の椅子に取り付ける為の物だったわ。
私は反射的にイヤイヤと。大丈夫だからと訴えるも。
二人の休憩していた侍女の手によって椅子に深く腰掛けらせられたあと、
腰の深い所にベルトを宛がわれて背中を背凭れに押し付けるようにしながら、
きくつベルトを絞められたのよ。
けれどもうバスクで限界まで絞められている腰回りが、
それ以上苦しく感じる事はなくて両肩に掛ける様にして取り回されたベルトが、
腰のベルトに接続されれば、もう自由に立ち上がる自由もまくなっていたのよ。
「これで姿勢を気にすることなく学習できますね。
喜ばしい事です」
そう言って学習は続けられるの。終わらないのよ。
そしてただ椅子にベルトで固定されていたと思っていたのだけれど…
「ソフィア・ボルフォード公爵夫人候補?
何やら学習に身が入っていない様なので確認しておきますが…
もしもノルマの学習範囲を覚えきれなかった場合、
貴女はその椅子に固定されたまま一晩放置されるのですよ?」
・・・え?
なに、それ?
侍女達はそれが当然といった感じて話してくるのよ。
まるで気付いてなかったの?って言いたげに。
こっちは苦しくて痛い体を我慢しているのよ?
それで無理して座らされて…
学習するって言っても痛くて苦しくてそれどころじゃないわよ!
そんな事も分かってるでしょ?
それが何?終わらないと放置されるって?
「お時間が来たらお椅子から解放されるなんて思っていませんか?
違いますよ学習が終わるまで座ったままですよ。
もちろん、お食事も、御不浄にだって学習が終わらないといけませんよ。
次の日、私達が来るまで貴女はその椅子に座って待ち続けるのですよ。
まぁ御不浄に関しては、ソフィア・ボルフォード公爵夫人候補は、
貴婦人の膀胱を持たないといけませんから関係のないお話ですね」
え?このまま次の日まで待たされる。の?
そ、そんなの無理よ!
お、覚えなくちゃ。早く覚えなくちゃ…
私はタイムリミットが用意されているなんて思ってなかった。
侍女は適当なタイミングで読み聞かせを辞めると思ってたのよ。
それに貴婦人の膀胱って…
あれは噂でしょう?そんな事出来る子なんて私は見た事がないわよっ。
学園生活の中ででだって、みんな、みんな隠れてしているのよ。
一日一回だけなんてありえないわよ!
けれど私の驚いだ表情なんて関係ないっ。
侍女達は私に微笑みかけるだけ…
「決められた事を決められた通りにする事。
それが公爵夫人として生活する一歩ですものね。
予定通りに予定を熟す事。
それは公爵夫人として「正しく」生活している素晴らし事なのです。
「正義で正しい事しか認めない」ソフィア・ボルフォード公爵夫人候補に、
相応しい生き方ですね。
妥協なんて許されませんものね」
「ぁっぁっぁ」
が、頑張ったって出来ない事だってあるじゃない!
苦しいのよ?私体が痛いのよ?
それでも我慢しているのよ?
無理をして…
こうやって座らされ続けているのにっ!
痛みと苦しさで集中できないし覚えきれない事だってあり得るわよ!
それでも…
それでも正しい事だからって…
学習が終わるまでやらされ続けるの?
それが「正しい公爵夫人の生活」だから?
「ぁっぁっ」
私は反論の声を上げる!
いい加減な暴論には「反論しなくちゃ」って思って…
けれど私の口から出てくる言葉は…
空気を求める擦れた声だけ。
「ぁっぁぁぁっぁぁ」
それだけ。
それが精一杯の反論だったのよ…
何も言えない。
侍女達の言い分を丸呑みしなければいけない状態で…
椅子から立てない状態にさせれいるって事が私を更に不安にさせて…
お食事抜きも…
トイレに行かせて貰えないって事も本気でやられるって、
思うしかなかったの。
「…もちろん、学習時間が長引けば、
カーディル様とお会いするお時間も無くなってしまいますね」
それはの私にとって止めの一言となったのよ。
だってこの苦しくて痛い矯正具を外してくれる可能性があるのは、
もうカーディル様しかいないもの。
私のお話を聞いて苦しくないドレスを用意してくれるのは、
カーディル様しかいないのよ!
その最後の希望に会えなくなるなんて絶対にダメ。
合わなくちゃ。絶対に合わなくちゃ!出ないと私は侍女達に…
そう考えたら私の必死さは一段と増したように見えたのか…
侍女がクスクス笑うのよ。
「学習意欲が戻った様ですね喜ばしい事です。
愛の力は偉大ですね。
さぁ学習を続けましょう。
そして立派な公爵夫人になって下さいましね」
一晩放置されるのが脅しかどうか解らなかったけれど、
今の私にはもう、これ以上苦しい想いをしたくなかったのよ…。
その為にもカーディル様にお会いして私の苦しさを訴えなくっちゃって。
必死に学習の時間を終らせるために頑張るのよ!
それでも数時間は椅子に固定されたままの学習が続くの…
終らないの。
お、覚えきれないよ…
涙を零しながら必死に侍女達の声に耳を傾ける時間が続いて…
それでやっと…
やっと…
「ふぅ。今日はこれで良いでしょう…
ノルマは達成できていませんが、初日ですから大目に見て差し上げます」
学習時間が終わる許可を侍女が与えてくれたのよ。
その言葉を聞いて私はホッとするしかなかったの。
終わった。やっと終わったって。安堵している私がいたの。
なんとは学習時間は終わったっていう安堵感と…
椅子に取り付けられていたベルトを外された事が嬉しくて…
私は、背凭れから解放された体を前に倒して、
机の上に乗せて少しでもこの解放感を感じて楽になろうとしたのだけれど、
そんな「はしたない事」は侍女がもちろん許してくれない。
机から椅子を引き出された私は直ぐに立たされると、
また肘と腕を掴まれて淑女の歩行を始めさせられたのよ。
それは…
新しい教育の場所への移動の始まりでしかなかったのよ。
ソフィアが現実を知る話はまだまだ続きます。
しかしながら、苦しくて余裕のなくなったソフィアは、
内面は言葉にはしていませんが、程よく良い子で優秀と言うメッキが、
ポロポロと剝がれて来ていますね。
態度の端々から「正義」と言う立場が誰によって作られていたのか。
悪となってくれる人がもういない「正義」は何を求めるのでしょうか?
ソフィアの優秀?さは「悪」を断罪する事によって証明されるのですから。
彼女にとって都合の良い「悪」のエルゼリアはもういないのです。
どうやって優秀な事を周囲に示すのか楽しみですね。
さて、エルゼリアは幸せになるかならないかは別として、
1人の少女が国の存続と故郷の為にボルフォード家へ、
生贄として捧げられる覚悟をして生きていたのです。
精神が成熟した転生者入りの人だったとしても、
その覚悟は相当な事だと思うのです。
一歩間違えれば他国と戦争になることは承知で細い綱渡りをし続け、
戦争が始まってしまえば国民を守る為、前線で魔法を使う。
その覚悟がエルゼリアにはありました。
そして、遠い故郷ファルスティンの発展を願ったのです。
それがポッと出の乙女ゲームの主人公である
「可愛い誰にで好かれる良い子(乙女ゲーム設定資料より)」
に断罪されたのですから。
ソフィア・マリスには逃げずに責任を持ってエルゼリアがするはずだった、
「役割」を果たして貰わなければいけないなぁと思います。
「出来る」とか「出来ない」とかは関係ないですね。
もうソフィアの前には「やるしかない」現実が置かれます。
ざまぁ系の話って、乙女ゲーの主人公が没落して「ざまぁ」されるのが、
ほとんどな気がしますが…
国の存亡の為に全て捧げさせられて自分の意思とは関係なく生き続ける、
生き人形として貴族社会の中で生かされ続けるのも
「ざまぁ」じゃないかなと思っていたりします。
王国を支える為に「公爵家」は必要ですから。
その「公爵家」が必要とする「人」が作られます。
だからソフィアは生かされ続け役割を果たすまで死ねません。
国と言う大きな機械を動かす小さな歯車にされるのでした。