チャプター7:ファースト・ノイズ
数日後、ゼロが興奮した様子で秘密基地に駆け込んできた。
「キャプテン!手に入ったぞ!」
彼が大事そうに抱えていたのは、古くて少しサビついた、箱のような機械だった。
「これが、トランスミッターか?」
「ああ。電器屋のじいさんが、昔使ってたやつを譲ってくれたんだ。少し修理が必要だが、これならいける!」
ゼロの目は、いつになく輝いていた。
これで、技術的な一番の壁は乗り越えた。
リコの集めてきたネタも面白いものがそろってきた。
カノンの読む原稿も、ボイスチェンジャーを使えば大丈夫そうだ。
僕たちは顔を見合わせた。
準備は、整った。
「…なあ、みんな」
僕が切り出すと、3人が僕を見た。
「最初の放送、いつにする?」
ゴクリと、誰かがつばを飲み込む音がした。
僕たちの心臓の音が、やけに大きく聞こえる。
「…次の金曜日の夜、とかどうだ?」
ゼロが、静かに言った。
「週末の前なら、夜更かししてるやつも多いだろうし、もし何かあっても、土日で少しは落ち着けるかもしれない」
「さんせーい!」リコが元気よく手を挙げる。
カノンも、こくりとうなずいた。
「よし、決まりだ」
僕は、壁に貼ったカレンダーの、次の金曜日のところに、赤いペンで大きく丸をつけた。
「スピーカーズ、最初の放送は、次の金曜日。コードネーム『ファースト・ノイズ』。絶対に成功させるぞ!」
僕の言葉に、カノンも、ゼロも、リコも、強くうなずき返した。
僕たちの胸には、不安と、それ以上の期待と興奮が渦巻いていた。
この町の夜空に、僕たちの声が響き渡る、その瞬間を想像しながら。
「そうだ、最後に一つ決めておこう」僕は付け加えた。「作戦実行中は、お互いをコードネームで呼ぶことにしないか?その方が、気分も引き締まるし、万が一誰かに聞かれたとしても、少しは正体がバレにくいかもしれない」
「コードネーム?」リコが面白そうに目を輝かせる。
「ああ。俺はリーダーだから『キャプテン』。美音は『声』担当だから『ボイス』。零士は電波を操るから『デンパ』。莉子は情報をキャッチする『アンテナ』だ。どうだ?」
「いいね!かっこいいじゃん!」リコが賛成する。
カノンも「うん、その方が気持ちが切り替わるかも」とうなずいた。
ゼロは黙っていたが、特に反対はなさそうだ。
「よし、決定だな。作戦中は、コードネームでいくぞ」
僕たちの秘密の活動は、また一つ、本格的な形を手に入れた。いよいよ、最初のノイズを響かせる時が近づいていた。