チャプター6:それぞれの準備
技術的な問題はゼロに任せるとして、僕たちは他の準備も進めなければならない。
リコは、最初の放送で何を話すか、アイデアをどんどん出してきた。
「まずはさ、インパクト重視でいこうよ!『校長先生のカツラ疑惑、徹底検証!』とか!」
「いや、それはさすがにマズいだろ…」僕は苦笑いする。
「じゃあ、『給食の揚げパン、週5で出す方法!』とか?」
「それも無理だろ…」
リコのアイデアは面白いけど、ちょっと過激すぎたり、現実味がなかったりするものが多い。
「リコ、気持ちは分かるけど、最初はもっと身近なネタで、みんなが『あー、それ分かる!』って思うようなことから始めた方がいいんじゃないか?」
「えー、つまんないのー」リコは口をとがらせる。
カノンが助け舟を出してくれた。
「たとえば、中学生の間でひそかに流行ってるゲームとか、好きな音楽のランキングとかは?あとは、学校のちょっとした『あるある』とか…」
「あ、それいいね!」リコも乗り気になった。「じゃあ、アンケート取ってみようかな!こっそりね!」
リコは早速、スマホを取り出して何かを打ち込み始めた。彼女の情報収集能力、通称『アンテナ』は、こういう時に本当に頼りになる。
カノンは、僕たちが作った簡単な放送原稿を、何度も声に出して読んで練習していた。
最初は少し照れくさそうだったけど、だんだん真剣な表情になっていく。
「…どうかな?こんな感じでいい?」
カノンが読み終わって、少し不安そうに僕たちを見る。
「うん、すごくいいよ!やっぱりカノンの声は聞きやすいな」僕が言うと、カノンはホッとしたように笑った。
でも、すぐに表情が曇る。
「…でも、この声、誰かに気づかれたりしないかな」
それは、僕たち全員が抱えている不安だった。特に、カノンのお父さんは町の有力者だ。もしバレたら、一番大変なことになるのは彼女かもしれない。
「…ボイスチェンジャー、使うか?」ゼロが提案した。
「声を変える機械のことだ。これを使えば、カノンの声だってバレにくくなる」
「え、そんなのあるの?」カノンが驚く。
「ああ。簡単なものなら、フリーソフトでもある。少し音質は悪くなるかもしれないが」
「やってみる…!」カノンはうなずいた。「バレるよりはずっといい」
僕は、みんなの様子を見ながら、計画のリーダーとして、気を引き締めなければと思った。
面白いこと、やりたいことをやるのは大事だ。でも、絶対にしくじれない。仲間を危険な目にあわせるわけにはいかない。
慎重に、でも大胆に。それが、僕たち『スピーカーズ』のやり方だ。