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チャプター3:偶然と必然

 その日の放課後。

 僕は、例の灰色のスピーカーがよく見える校庭の隅のベンチに座って、ぼんやり空をながめていた。さっき頭にうかんだバカみたいな考えが、まだ頭から離れない。


(町内放送を、ジャックする…)


 そんなこと、できるわけがない。技術的にも、法律的にも、リスクが高すぎる。バレたら停学じゃすまないかもしれない。

 でも…。

 もし、本当にできたら?

 想像するだけで、胸の奥がざわつく。退屈な毎日が、色づき始めるような気がした。


「…お疲れ、ミナト」


 ふいに声をかけられ、顔を上げると、橘美音たちばなみおん――カノンが立っていた。今日の放送委員の仕事が終わった帰りらしい。夕日に照らされた彼女の笑顔は、いつもみたいにキラキラしていた。


「よお、カノン。放送、お疲れ」

「うん。もうヘトヘトだよー」

 カノンはそう言って笑うけど、その笑顔の裏に、ほんの一瞬だけ、何か別の表情が見えた気がした。


 彼女は学校の人気者だ。明るくて、誰にでも優しくて、それに、声がすごくいい。放送委員のアナウンスなんて、プロみたいだって評判だ。

 でも、僕は知っている。彼女が時々、すごく息苦しそうな顔をしていることを。彼女の家は町でも有名な会社をやっていて、お父さんがすごく厳しいって噂だ。きっと、僕なんかには分からないプレッシャーの中で生きているんだろう。


「…ねえ、ミナト。今日の放送、どうだった?」

 カノンが、少し不安そうな顔で聞いてきた。

「ああ、よかったよ。いつも通り、完璧だった」

「そっか、ならよかった」

 カノンはホッとしたように笑ったけど、すぐにまた何か言いたそうに口ごもった。


 その時だった。

 校舎の裏手から、ガシャン!と大きな音がした。何かが落ちたような音だ。

 僕とカノンが顔を見合わせていると、そこから、頭をかきながら雨宮零士あまみやれいじ――ゼロが出てきた。どうやら、何か機械の部品でも落としたらしい。彼は無言でそれを拾い上げると、僕たちに気づいて、少しだけ眉をひそめた。


 ゼロは、クラスでもちょっと浮いた存在だ。ほとんど誰とも話さないし、休み時間もずっと何か機械をいじっているか、パソコンとにらめっこしている。でも、技術の授業とか、パソコン関係のことになると、先生も舌を巻くほどすごいらしい。まさに、孤高の天才って感じだ。

 彼もまた、この退屈な学校や町に、何か満たされないものを感じているんじゃないか。僕にはそんな気がしていた。


 ゼロが僕たちの横を通り過ぎようとした時、今度は別の方向から、元気な声が飛んできた。

「あー!もうムカつく!なんで分かってくれないわけ!?」

 声の主は、七瀬莉子ななせりこ――リコだった。彼女は、手にしたプリントをくしゃくしゃに丸めながら、職員室の方からすごい剣幕で歩いてくる。


「どうしたんだよ、リコ。また先生とケンカでもしたのか?」

 僕が聞くと、リコは顔を真っ赤にして言った。

「ケンカじゃない!話し合い!新聞部を復活させてほしいって、またお願いしに行ったんだけど、全然ダメ!『前向きに検討します』だってさ!それ、絶対やる気ないやつのセリフじゃん!」


 リコは、もともと新聞部だった。学校の面白いネタや、ちょっとした問題点なんかを記事にして、結構人気だったらしい。でも、ある時から急に廃部にされた。理由はよく分からないけど、先生たちにとって都合の悪いことでも書こうとしたんじゃないかって噂だ。

 彼女は、誰よりもこの学校や町のことを見ていて、何かを伝えたいって気持ちが強い。でも、その手段を奪われて、くすぶっている。


 僕の目の前に、偶然にも、この町の現状に何かを抱えているメンバーがそろった。

 カノン。ゼロ。リコ。そして、僕。


 灰色のスピーカーが、相変わらず黙って僕たちを見下ろしている。


(…もしかしたら)


 僕の中で、さっきのバカげた考えが、急に現実味をおびてきた。

 一人じゃ無理だ。でも、このメンバーとなら…?


 僕は、ゴクリとつばを飲みこんだ。そして、意を決して口を開いた。


「…なあ、みんな。ちょっと、聞いてほしい話があるんだけど」

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