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混ざろう

作者: 川里隼生

 ずっと、孤独だと思っていた。ただいま、と言っても、おかえり、と返してくれる人はいない。テレビをつければ芸能人の鬼嫁の話、海外の天才少年の話、東京のスイーツ店の話……。別に、それらが悪いと言いたいわけじゃない。ただ、個人的に興味が湧かない。でも、ゴールデンタイムにテレビでやっているということは、みんなが好きな話題なんだろう。アニメや他の話題なんかは、深夜に追いやられるか、そもそも取り扱ってももらえなかった。


 そんなとき、ニコニコ動画を開いた。きっかけはYouTubeのとある動画で、画質の悪い文章が右から左へ流れたのを見かけたことだ。つまりは転載されていた動画だった。けれども、おかげでニコニコに興味を持ち、楽しい動画をたくさん知ることになった。アニメ、ボカロカバー曲、ボカロオリジナル曲、合成音声ソフトによる解説、旅行、料理、技術部、ゲーム実況、ベイブレードの魔改造、ヒマワリを育てるポケモン実況、滋賀県を愛し続けるアイドルマスター、フグばかり釣る結月ゆかり、航空機事故の真実と真相……その他にも、色々。


 動画だけでなく、生配信があることも知った。漫画やイラストを投稿できることも知った。漫画にまでコメントが流れるのを見たときは、さすがに邪魔だろうと笑ったものの、意外とすぐに慣れて面白く感じ始めた。この頃、ニコニコの旗艦番組という売り文句の公式チャンネルによる生配信番組を見つけ、どんどんニコニコについて詳しくなっていった。そんな中、ニコニコ超会議と題したイベントの存在を知った。


 2023年、超会議の様子をニコニコ生放送で見た。シベリア鉄道の車窓をひたすら流したり、初音ミクと中村獅童が同じ舞台に立って歌舞伎をやっていたりしていた。電波の向こう側で、知らない誰かと繋がる人々。現地で夢中になっている参加者たちが羨ましかった。


 2024年、有給休暇を取得してニコニコ超会議に参加した。初めて幕張メッセに行った。プロ野球のレプリカユニフォームを着て行ったら浮くだろうかと心配した。実際にはそんなことはなく、ビジュアルとしてはむしろ地味な部類だった。ロケットエンジンを眺めたり、気になっていたカレーを食べたり、様々なコスプレイヤーの写真を撮らせてもらったりした。クリエイタークロスという、参加者たちが自由にあれこれできる空間があった。まさにインターネットを現実に再現しているかのようだった。動画で見たクリエイターのブースで、ちょっとしたグッズを買った。自分自身も含め、みんなが物語の主人公になっているような気分だった。


 その年の、6月。突如として、ニコニコにアクセスできなくなった。いよいよ本当にオワコンとなってしまったのかと焦っていると、ハッカー集団によるサイバー攻撃というニュースが報じられた。アイドルアニメとロボアニメの合体ネタ動画を見て笑ったり、この年の超会議のテーマソングを聴いて思い出に浸ったりすることができなくなった。復旧には時間がかかるという。いつの間にか、生活の中でニコニコの占める割合がとても大きくなっていたことに気づいた。


 しばらくして、ニコニコ動画の仮復旧サイトが立ち上がった。本当にありがたかった。ニコニコに飢えていた。他のサイトでも全く同じ内容の動画、似たような動画を見ることはできた。それでも、あの流れるコメントや、タグからどんどん別の動画へ移っていく楽しさは、ニコニコでしか味わえなかった。


 8月、ニコニコ動画は復旧した。当初の予定よりも大幅に早く、ニコニコは帰ってきた。私は早速、ニコニコ動画にアクセスしようとした。サイバー攻撃を受ける前の2倍の処理量になったという運営代表ご自慢のサーバーはどうやら一斉アクセスの負荷に耐えられなかったようで、またダウンしていた。少し待ってアクセスしたら、珍妙不可思議にして胡散臭い男と愉快な仲間たちが歌って踊って演奏して描いている動画に、おかえり、とコメントした。画面の向こうのエンジニアたちがきっと、ただいま、と返してくれると願って。


 その後も、ニコニコ動画アワードへの推薦と投票、エンドロールへの参加手続き、ボカコレ2025春の応援、そして軍人が少年にリズムよく殴られ続ける動画の視聴と、ニコニコから離れない生活を続けている。いや、もはや離れられないと思う。2025年の超会議では盆踊りをやると言っていた。その他にも、歌ってみた動画や踊ってみた動画の投稿者が実際にステージに立ったり、AIが自分に合った本を紹介してくれたり、プレミアム会員ならバッグを受け取れたり、何がなんだか、とにかくすごいらしい。


 今年も有給休暇をお願いしてみよう。どんな服装で参加しようか。いつか、クリエイタークロスにも参加してみたい。そのためには動画を投稿しなければいけないだろうか。いや、誰でも参加できることをもう知っている。発信するための声も光もニコニコがくれた。いま、この画面の向こうにいるあなた。もし興味があれば、あなたも幕張メッセで、日本最大級の文化祭で、ニコニコ超会議で、一緒に混ざって、本当の自分を探しに行きませんか。

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