タイトル未定2024/10/10 19:49
ネオお江戸随一の『事件屋』である伊勢屋清輝が向かったその先は、歓楽地として名高きネオお台場の片隅に在る倉庫街であった。
『ヒロポン入り団子』、それは当初は日本国内にて製造されていた。
しかしながら、『ヒロポン入り団子』が社会問題となってしまった故に、国内にて大々的に製造することは困難となった。
それ故、悪徳団子業者は『ヒロポン入り団子』の製造拠点をバングラディシュに移し、ステルス化された長距離航行型のUSV(水中無人機)を用いて国内へと輸送するようになっていた。
そして、日本国内における『ヒロポン入り団子』の配送拠点が、ネオお台場の倉庫街に在ったのだ。
清輝はオープンカーを疑惑の倉庫から少し離れた一角へと駐めた。
車から降りた清輝は煙管に刻み煙草を詰め、静かに火を点ける。
ネオお台場の夜空へと紫煙が立ち昇る。
潮気を纏った夜風が紫煙をさらりと吹き散らしていく。
紫煙が宙に消えゆく様を清輝はぼんやりと見遣っていた。
これから始まるであろう戦いの算段を頭の中にて組み立てながら。
その清輝の視界に、一台のUAVが現れた。
二尺(60センチ)四方程の小型のUAVは、舞い散った紫煙を追い掛けるかの如くして空中を舞っている。
清輝は思わず舌打ちをした。
このネオお台場は禁煙区域に指定されているのだ。
そして、飛来したUAVは喫煙取り締まり用のものなのだ。
UAVに備えられた各種センサーは空気中の成分を採取し、分析している最中なのだろう。
煙草の煙に由来する成分を検出したなら、奉行所に高速WiFiにて報せるに相違あるまい。
これから事を為そうとする清輝にとって、極めて邪魔な事態だ。
小さな破裂音が辺りの空気を震わせる。
破裂音が響くと同時に、宙を漂っていたUAVは制御を失い力無く地面へと墜落した。
清輝は忌々しげに鼻を鳴らし、火を消した煙管をオープンカーへと放り込む。
そして、足音を忍ばせつつ疑惑の倉庫へと歩みを進める。
彼方から喧噪が響き来る。
この倉庫街から離れた『ネオお台場』のアトラクション・エリアからの喧噪なのだろう。
その楽しげな喧噪は、世の暗がりを駆ける清輝にとって、恰も異世界の如きものとして感じられた。