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第6話 全てがウソ?

「どうしましたの?」


 王城のすぐ側は広い草原が広がっており、見晴らしがいいのです。

 そこに寝転がっている子どもがいると近づいて、上から覗き込みました。


「おうごんの姫さま」


 草原の寝転がっていたのは、一度だけあった珍しい黒髪の男の子でした。黒い髪の人は聖女様とその男の子しか見たことがなく、直ぐにあの時の子だとわかりました。


「母上がなくなったのは、僕のせいだって皆がいうんだ」


 私はその男の子の言葉に首を傾げてしまいます。お母様から聞いている話と違うと。


「それに僕の中の僕も言うんだ。僕が悪いって」


 そう言って男の子はポロポロと涙をこぼし始めました。

 それ違いますのに。


「ねぇ。キアに会ったとき覚えています?」


 すると男の子は泣きながらコクンと頷きました。覚えてくれてたのね。


「キアのお母様は聖女様に仕えていたの。だからキアもシオン様にお仕えするのよってお母様から言われているの」


 男の子は私が何を言っているのかわからないのか、黒い目をパチリと開いて私を見上げています。


 その目からこぼれ出ている涙をハンカチで拭き取ってあげました。


「まだ、キアはおさないからシオン様にお仕えできないけど、大きくなったらシオン様のところに行くから待っていてね」

「え?」

「キアは強いのです。悪い奴らを倒すのです。悪いヘビの言う事なんて聞く必要ありません。悪いこというヘビにはお仕置きをします」


 すると男の子の口がニヤリと歪みました。それは子どもが浮かべるような笑みではなく。人が浮かべられるとは思えないほどの悪意のこもった笑みです。


「ほぅ。我にどのようなお仕置きをするつもりだ?」


 私は城の使用人たちがコソコソ噂話をしているのは聞いていましたが、本当に人が変わってしまったかのように顔つきまで違う男の子に納得しました。


 これがお母様が言っていた厄災だと。


「ヘビはね。冬眠するのですって、だから錮雪(こせつ)の毒がいいかもしれないとお母様がおっしゃっていたわ」

「こせつ?」

「解けない雪ですって」


 そう言って私は上から見下ろしている男の子に顔を近づけ、口づけをします。 


「ウグッ!」


 口づけをした男の子は何かに悶えるように暴れ出し、しばらくして動かなくなりました。


「えーと、封印されているのはお腹の辺りって言っていたから、そこは少し残して、あとは『解毒』! これを使うのは最初だけでいいと……あとは?」


 その後のことは聞いていないので、お母様に確認をしておきましょう。

 これで少しの間は表にでてこないはずだと言われましたので、厄災は表にはでてこない?


 よく分からないと首を傾げていますと、男の子が身じろぎをして黒い瞳を空に向けていますが、何やら呆然としています。


 もしかして毒の量が多すぎたのでしょうか?


「大丈夫?」

「声が聞こえない……アイツの声が聞こえなくなった」

「キアは強いのです。悪いヘビにはお仕置きをしておきました」


 すると男の子はムクリと身体を起こして、立ち上がりました。


「キア姫様の声もよく聞こえる。鳥の声も聞こえる。風の音も……遠くになっている鐘の音も……」


 どうやら聖女の棺が聖堂から移動されるようです。


「ありがとう」

「お礼を言われることではありませんわ。だってキアはシオン様に名を捧げたのですから」

「名を捧げる?」

「はい」

「どういうこと?」

「……えーっと」


 どういうことなのでしょう?お母様が聖女様にお仕えしていたから、私もシオン様にお仕えするでいいと思うのですけど……詳しいことは聞いていませんわ。


「シオン様をお守りすることでしょうか?」

「だったら、キア姫様は僕が守る。だから僕と一緒に幸せになろう」

「はい」



 これがシオン様との約束です。

 それから私がヴィオラローズ・サルヴァードルとしてシオン様の婚約者になるまで会うことは叶いませんでした。


 それはひとえに、アスティル公爵がシオン様を恐れ、領地に隔離してしまったからです。ですから、王都にいる私はシオン様が学園に通われるまで会うことがなかったのでした。






「はい。キアはシオン様と幸せに……なって良いのでしょうか?」


 私はふと疑問に思って首を傾げます。


「なぜ、そこで疑問形になる」

「私、シオン様の婚約者ではありませんわ」

「ああ?」


 凄く低い声が私の耳に入ってきました。だって王太子殿下から御役御免を言い渡されましたし、私には表向きの名は持っていません。


 何故なら私はグランディールであり、死んだ第一王女ですもの。


 するとシオン様は懐から油紙に包まれた細長いものを取り出しました。

 中からは細い箱が入っており、その箱を開ければ、筒状に丸められた紙がでてきました。とても厳重ですわね。


 その紙をシオン様が広げて私に見せてくださいました。


 そこにはシオン様のお名前とヴィオラレイ第二王女との婚姻の許可がしめされていました。


 誰? ヴィオラレイって……ぶっ殺せばいいかしら?


「ヴィオラ。これは母が用意した名前だそうだ」

「聖女様が?」

「死んだ第一王女って可哀想過ぎると国王陛下に訴えて、別の名を用意するように言ったらしい」


 確かに今現在いるのは第三王女と第四王女です。私との間の第二王女の存在はありませんでした。


「それからレイというのは母の国の言葉で何もないという意味らしいが、始まりの意味もある言葉だと言っていた。ヴィオラらしい名前だろう?」


 無ではなく始まりを意味する言葉。


 ポロリと頬を伝う感覚があり、それが次々と溢れ落ちていきます。


「ああ! もう! ヴィオラに泣かれるとどうすればいいのか、わからないって言っているだろう!」


 シオン様は狼狽えながら、私の涙拭ってくれます。


「シオン様。大好きです」

「ヴィオラ。もう勝手にどこにも行くな」

「はい」


 シオン様は私を抱きしめて、優しい口づけをしてくれたのでした。




《とある小屋の中》


「姫様。上手く機嫌をとってくださいよ」


 金髪碧眼の長身の男が神頼みでもするように、何かに必死に祈りを捧げている。


「兄上。そこまで必死にならなくてもいいのではないのですか?」


 その男とよく似た風貌の男が呆れた視線を向けながら、必死に祈りを捧げている兄に疑問を投げかける。

 その兄の行動は異常すぎると。


「その方はまだマシです。私なんて同じ馬車の中で十日間も一緒だったのです」


 青い空を映したような髪から凍りついた雪を落としている少女が、男の行動に理解を示していた。

 見た目は八歳ほどにしか見えないが、少女は十五歳という年齢だ。

 それは聖獣の契約者と特徴とも言えた。


「私はスパルナがいてくれたから、なんとか耐えれましたけど、スパルナが居なければ、王城に立ち入った時点でなりふり構わず逃げていましたわ」


 馬車の中の話ではなく、もっと以前のことを話しているようだ。


 少女は肩の上に乗っている小さな金色の小鳥を撫でながら震えている。何かに怯えるように震えていた。


「あの立ち入った瞬間に背筋を駆け抜けた恐怖。四方八方からヘビに睨まれているような感覚。両足を杭にでも突き刺されたかのように立ち入ることを拒む圧迫感。よく耐えたと、わたくしを褒めてあげたいですわ」


 その言葉を聞いた兄と呼ばれた男は激しく同意するように大きく首を縦に振っている。


 すると弟の方はそれがどういう状況か、理解できていないのか首を横に傾げていた。


「いつもと同じですね」


 いや、弟にとってはそれぐらい大したことがないようだ。


「レオ。お前と違って俺は日々監視についていない。よくあの者と一緒にいて平気な顔をしていられるな」

「監視されていたのですか? それは監視対象になるのも納得できますわ」


 兄は弟が異常だと言わんばかりの態度だが、少女の方は先程から話題に上がっている者が監視されるべきだと、納得している。


「だいたい周りに人がいるのが気に入らないようですので、こちらを探知できるかどうかの範囲から監視すれば、大したことはありません」

「……レオはいつもどこから監視しているんだ?」

「学園の外からですね」

「それは監視なのか?」

「十分ですよ。常人なら近づこうと思いませんから」


 その言葉に兄と少女も納得した様に理解を示した。


「それはそうだ」

「そうですわね」

「それから兄上の心配も無用です。あの方は周りに人の気配が無ければ、姫様に激甘です」

「ゲキアマ……そうなのか?」

「げきあま? なんです? それは?」

「胸焼けがするほど甘々ということです。さて、一応これからのことを確認しておいてよろしいでしょうか?」


 弟はこれ以上問題にすることはないと、次の行動の確認を取ったのだった。




《ヴィオラSide》


「兄上は疲れたと言って休んでおりますので、代わりに私が説明にまいりました」


 シオン様とお話をして少し経った頃にレオが戻ってきました。今は、人様の家の暖炉で沸かした湯で、お茶を飲んでいるところです。

 いつもなら、シオン様は距離が近いと離れていってしまいますのに、今は私のすぐ隣に座っています。はい、距離間はゼロです。


 それからレオ、私のことを置いていったことを後で文句を言ってあげますわ。


「確かに吹雪の中での御者は大変だったでしょう」

「……」


 なんです? その無言の間は?


「それで疑問に思ったことがありまして、説明の前にアスティル公爵子息様に確認をさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「なんだ?」

「アスティル公爵子息様と厄災との分離は可能なのでしょうか?」

「え?」


 分離が可能? 不可能の可能性があるのですか?


 言われてみればご自身に封印した聖女様なら、封印を解けば分離は可能でしょう。

 しかしシオン様は厄災を身に宿したままお生まれになった。それは一つの個と認識されると?


 なんてことでしょう! 厄災を倒すにはシオン様を殺さなければならないということなのですか?


「さて、考えてもみなかった」


 シオン様は厄災から解放されることは考えていない? どういうことでしょう?

 ん? 何か記憶の片隅で引っかかる言葉がありますわね。


 確かシオン様は厄災のことを『僕の中の僕』と幼い頃に言っておりましたわね。

 聖女様はシオン様にご自分の中に厄災が存在していると言ってはいなかったのでしょうか?


「シオン様?」

「なんだ? ヴィオラ」


 斜め上を見上げてシオン様の名を呼びますと、思っていたより距離が近くて、ビクッとしてしまいました。


 あ、気を取り直して聞いてみます。


「聖女様からはヘビのことを何と説明されていたのですか?」

「ああ、そう言えば出来ないと言われていたな」


 シオン様は何かを思い出したようです。


「そのとき紅茶を目の前にだされて、かき回した紅茶にミルクを注ぎ入れているのを見せられて、いい子の俺と悪い子の俺が今は別れているけど、混じりすぎて離すことが出来ないと言われ、そのあとスプーンでかき回されて、そのうちこうなるから、いい子の俺が勝つように頑張りなさいと言われた」


 聖女様。分かりやすいようで、わかりにくいですわ。それだと厄災もシオン様になっているではありませんか。


 やはりそうなってきますと、シオン様と封印された厄災が共に生まれてきてしまったために、封印を解くことすら出来ない状態ということですわね。


 そして何れはシオン様と厄災が混じると……え? あのヘビとシオン様が混じってしまう?


「それは大変ではないですか! あのヘビとシオン様が混じってしまうなんて!」


 これは大変です。どうすればいいのでしょう!


「やはりそうですか。何となくは感じていましたが、ヴァリトラの力を使うことができますよね?」

「何を言っているのです? レオ」

「ああ、大丈夫ですよ。姫様に向けられたことはないと思いますから」


 その言い方だとレオはあるということですか?


「何かおかしいなと思っていたのですよ。この任務」


 おかしいかったのですか? おかしかったのは、ネシスの信者共ですわよ。凄く薬がキマっている感が半端なかったですもの。


「これ、姫様を生贄にしてアスティル公爵子息様を始末しようという作戦ではないのでしょうか?」




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