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第5話 迎えに来た相手をヤっていいかしら?

「あいつらクソね。クソ」

「姫様。言葉遣い」


 私は今、山々からの冷たい風が吹き荒ぶ、北の辺境の地にきています。


 秋が深まる頃に南の辺境について、そこで邪神崇拝を信仰している組織ネシスの施設を叩き潰して、楽勝だったと思っていましたら、国中にネシスの施設があるとレオに後出しのように言われ、腹いせにみぞおちに拳を叩き込み、そこから国中を回って、やっと本拠地らしきところにたどり着いたのです。


「はぁ? 誰も聞いていないでしょ!」

「まぁ、こんな雪の嵐の中、出歩く人はいないでしょうね」


 山小屋のような丸太を組んだ家々が建ち並び、一つの集落を作っているのですが、ここに住まう者たちが全てその邪神崇拝の者たちなのです。


 その小屋のような建物の中には私とレオしかいません。



 五十軒近く小屋のような建物があるのです。ここ二日間で全ての建物内を隅から隅まで見て回ったのですが、どこにも人影がありません。


 しかし、人が住んでいた形跡はあるのです。

 今は、小屋の中に何か情報になるようなものがあるのか物色中です。


「姫様。もう期限の春ですよ」

「ここはまだ真冬よ」

「王都では春の花が咲き始める頃ですね」


 わかっているわ。だけど思っていた以上にしてやられていたのですわ。


「春になろうが、邪神復活を阻止するのが最優先よ!」


 はい。ネシスという集団の者達は思っていた以上に、危険な思想を持っていました。

 邪神崇拝だけなら可愛らしいものだったのです。


 信仰する神は地域によって違って当たり前という考えを持つ国ですから、邪神を崇拝しようが、ある程度なら問題視することはありません。


 そのネシスという者たちが崇める神というのが、『ヴァリトラ』という神。そうシオン様の中に封じてあるあのヘビを崇めていたのです。


 そして、その拠点というものが王都を中心に、ヘビがトグロを巻いているように国の各地にあったのです。

 それは木っ端微塵にすりつぶすべきですわよね。


 そして残るはヘビの頭にあたる北の大地にあるこの集落。


「やはり、山の中腹にある洞窟に何かありそうですわね」


 集落の中でも大きな小屋には集落の地図のようなものがあり、更に北の山を登ったところに洞窟があるような図があったのです。


「この吹雪の中。土地勘の無い山に登っても、遭難する未来しか見えないわね」

「ここが春になるまで待ちますか?」

「先にヘビが冬眠から目覚めそうね」

「吹雪が止むのを待ちますか」


 吹雪が止むのを待つしかありませんか。


 しかし王太子殿下は春までにと期限をきったのでしょう。


 春になにかあるのでしょうか?


 春は豊饒祭がありますわね。それまでに戻ってこいと?

 別に私は豊饒祭に興味などありませんわ。


 私にこの邪神教の壊滅を命じたのは国王陛下ですわよね。それは邪神とは何かと知れば、必ずやり遂げると、あの男は思ったからでしょう。直接には言われてはいませんので、その思惑は私は汲み取ることはできませんでしたが。


 ですが、邪神復活を止めれば終わりと考えていいのでしょうか?


 結局のところ何も解決にはなっていません。


 別の世界から聖女様を招き入れ、厄災を倒しきれなかったのは、あの男にとって負の遺産。息子である王太子の代にも引き継がせるのでしょうか?


 それを解決できる策が見つかったとしたら? 春という期限にも意味が出てくるのかもしれません。


 昼でも夜でも殺せず、濡れているものでも乾いているものでも殺せず、鉄でも石でも木のいずれでも殺せない。


 この謎解きが解決できればいいのですよね。


「昼でも夜でもないですか」

「なんですか? 白夜の話ですか?」

「それは北国の夏ね」

「ああ、そう言えば、豊饒祭の近い日に王都では金環日食が見れると、いっとき噂になっていましたね」

「金環日食! 確かに昼でも夜でもない! それはいつなの!」

「明日です」

「……」


 思っていた以上に日が近いことに、イラッときました。


「日食の情報ぐらい私に言いなさい!」


 腹いせにレオのみぞおちを一発殴っておきます。


「グフッ……ひめさま……にっしょくなんて興味ないでしょう」

「ないわよ。でも必要な情報よ!」


 そんな話をしていますと、小屋の扉がノックされる音が室内に響き渡ってきました。

 私は腰からナイフを取り出して身構えます。


「あ、姫様。父から迎えを送ると連絡がありました」

「いつ!」

「二週間程前ですね。すっかり忘れていました」

「忘れる前に報告しなさい!」


 みぞおちを押さえて、うずくまっているレオの横腹を殴っておきます。


「肋骨折れる」

「手加減しているわ!!」


 苛つきながら、叩き続けられている扉に向かい、取っ手を持ち(かんぬき)の鍵を開けます。


 そしてそっと開けてみると………………勢いよく私は扉を閉め、閂を再び差し入れます。


 すると扉を叩く音が激しくなってきました。


「姫様。どうされたのですか?」


 復活したレオがこちらにやってきて、私が押さえている閂を取ろうとしています。


「やめなさい。レオ」

「でも、姫様。この吹雪の中で外にいろというのは鬼畜ですね」

「他にも小屋はあるわよ!」

「しかし、王都からの迎えなのですよね?」

「……どうかしら?」


『開けろ』


 外からの声に私はレオの背中に回ります。するとレオが扉の閂を外して、小屋の扉を開けました。


 外から冷気を含んだ風が室内に入ってきます。今日は全ての小屋を確認しましたので、この小屋で休むつもりで、室内を暖めていたのですが、一気に冷え込んでいきます。


 そして外から入ってくる気配が三人ありました。


「レオ。久しぶりだな」

「兄上。任務は順調です。吹雪が収まりしたい敵の中枢と思われる場所に突入可能です」


 はい、一人はレオの兄であるイオ・グランディールです。彼は王太子つきだったはずですが、どうしてここにいるのでしょう。


「姫様。この度の……私を射殺さんばかりに睨みつけないでください」


 レオの背中に張り付いて身を隠しているというのに、わざわざ回ってきて挨拶しなくてもいいですわ


「困りましたね。取り敢えず、紹介だけはさせてください。こちらはマルディアン聖王国の第四王女であらせられるソフィア殿下です」


 殺していいかしら?


 そう思っていますと、レオの背中がビクッと震えました。別にレオに殺気は向けていませんわよ。


「聖鳥スパルナの契約者になられます」


 ああ、聖王国では時々聖獣と契約する者が現れると耳にします。

 聖属性を持ち聖獣とも契約しているからこそ、あの男は第四王女にこだわったのでしょうね。


「そして私の弟の背中に隠れておられるのが、グランディールの姫君です。名前は……はい、殺されそうなので控えます」


 勝手に人の名を教えようとしないで欲しいわ。特に……


「それでヴィオラ。いつまで隠れているんだ?」


 シオン様には知られたくありませんわ。


 ……王都に戻ったら、あの男と弟にお腹を下す毒でも盛って差し上げます。

 グランディールの特性と王族の性質を持つ私の毒は、毒無効を毒耐性ぐらいに落としますのよ!


 絶対に許しません!


「ヴィオラ」

「……」

「ヴィオラ」

「姫様。バレバレなのですから、私を盾にするのをそろそろやめませんか?」

「私の名前はヴィオラではありません」


 だって、私は今は金髪に金眼の誰がみても王族の姿ではないですか! それでヴィオラだって名乗れるはずありません。

 ヴィオラローズ・サルヴァードルはシオン様の婚約者から外されていますもの。


「ひっ! この状況でそれ言いますか? 勘弁してくださいよ。兄上、助けてくださいよ」

「え? ここまでの道中の俺の状況わかるか? 今日までよく生きて、たどり着けたなって思っているぞ」


 なんです? その状況って? 雪でたどり着くのに困難だったということですか?


「あの……わたくしがお邪魔なら別の場所に移動いたしますが?」


 あれ? 幼い子供の声が聞こえてきました。声からすると五歳ぐらいでしょうか?


 ちらりとレオの背中から顔をのぞかせると、十歳にも満たない幼女の姿がありました。

 春の空のような天色の髪を毛皮の外套の中に押し込め、深い透き通った湖の色の瞳を斜め上に向けています。


 その肩の上には金色の小鳥が止まっていました。あれが聖獣の鳥なのでしょう。


 と思っていますと、肩を後ろに引っ張られ、バランスを崩すように後ろに倒れます。

 しかし、硬い何かに受け止められました。


「それでは我々は別の小屋に避難していますので、きちんと話し合ってください」


 レオの兄であるイオが、幼い子どもを抱きかかえて慌てて扉から出ていきます。それに続くようにレオも扉の方に向って行っています。


「レオ! どこに行くのです!」

「私はまだ命が惜しいので、退散します」


 何が命が惜しいのですか! 私の護衛はレオでしょ!


「待ちなさ……い……」


 レオを引き留めようと伸ばした手が、大きな手に阻まれてしまいました。


「それで夕食を作って待っているように言ったのに、いなくなったのは何故だ?」


 今、それを聞きますか。

 それに私はヴィオラではないと言ったではないですか。


「では、キア姫は約束を守ってくださらないのですか」


 ……あれ? 私、名乗りました?

 名乗っていませんわよ。


 グランディールは互いを呼ぶのに名を呼びますが、名乗るときはグランディールで統一されるはずです。


「黄金の姫君は聖女マリエとの約束を守ってくださらないのですか?」

「え? 覚えていますの?」


 ありえないですわ。聖女様とシオン様と初めてお会いしたのは私が五歳のとき。その時のシオン様は三歳。


 確かにあのときは私は名を名乗りました。

 お母様から名を捧げなさいと言われたからです。


 しかしそれを覚えていらっしゃるなんて……私は顔を上げて驚きの眼差しでシオン様を見上げます。


「やっとヴィオラに会えた。あのヘビは俺の所為だと言うし、ヴィオラを探し回って、夜会で見かけたと情報を得て行ってみれば、同じ名前の別人だし、国王陛下を脅して問い詰めれば、国内を走り回っていると言うし」


 あら? 領地にいるはずだと思っていましたのに……そう言えば、ヴィオラローズ・サルヴァードル伯爵令嬢は十七歳でしたわね。婚約者探しに王都まで出てこられたのでしょうか?


 しかし、あの男を脅したのですか? 大抵の脅しには動じないと思いますけど。


 って、もしかして私、シオン様から抱きしめられています?

 それにいつもよりシオン様との距離が近いようですが?


「あんな別れ方、最悪だろう!」


 私に言われても困りますわ。だって、私が知ったのは前日でしたもの。


「ヴィオラ。好きだ。愛している。それから、約束は守れ」

「はい。キアはその名にかけてシオン様をお守りします」

「違う」

「え?」

「一緒に幸せになろうだ」

「あ……」


 そう、シオン様と次にお会いしたのは、聖女様の国葬のときでした。




 その頃にはすでに公爵様とシオン様との間には深い溝があり、シオン様の所為で聖女様が亡くなられたという嘘の噂を払拭してくださる方は、シオン様の周りには居なかったのです。


 聖女様の国葬は聖堂で粛々と行われたそうです。が、その場にはシオン様の姿はなかったのです。


 私は当時七歳。自分の立場を理解している頃でした。


 王城の片隅で母と二人暮らし、そして王族ではあるものの、表には出せない第一王女。それは王妃様の子である第一王子より先に生まれてしまったからだと、理解していました。


 お母様は聖女様が亡くなられたことをこの世の終わりのように嘆き悲しんでいましたので、子どもながらその場に居づらく、住んでいた離宮から外に行ったのです。


 王城の端にありましたので、子どもなら通れる隙間から外に出て、広々とした空に下に飛び出したのです。


 そこで出会ったのが、二年前に聖女様に連れられて会いに来てくれたシオン様だったのです。



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