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第6話 覚悟


 あれから2日。未だ俺達は移動出来ないでいた。先日の騒動の結果、周りにかなりの数のゾンビが集まってきていたらしい。四七内さんや、林さん(女の隊員さん)が定期的に外に出て誘導しているみたいだけど、数は減らない。


「隊長、そろそろ移動しないと物資も底を尽きるぞ? それにシェルターの人間にも心配をかける。どうする?」


 多少日数が伸びることはあるため、余裕を見て警備日程を決めているらしいが、それもそろそろ超えるそうだ。


「とはいえ、この量のゾンビを相手するのは現実的では無いだろ? 俺たち3人と坊主だけじゃ突破は厳しいだろ」

「そうだな、3体ぐらいまでなら何とかなるだろうけど、あの量はなぁ……」


 隙間から外を覗けばそれだけで2桁は見える。かなり絶望的な状況ではあった。

 その時ふと、店の中を見渡すと『大きな音で危険を知らせる』と大きく書かれた丸い物体を見つけた。所謂防犯ブザーというものなのだろう。その知識は蛍にはなかったが、大きな音を発するものだということは理解できた。


「隊長さん、ゾンビって音が大きければ大きい程反応するものなのですよね?」

「ん? 例外はあれど基本的にはそうだな」

「アレ、使えませんか?」


 防犯ブザーを指さす。隊長の表情が明らかに変わるのが見て取れた。


「大きな音……か。使えそうだな。2人が帰ってきたら話をしよう。良くやった坊主!」


 それから林さんと四七内さんが戻ってきた。隊長さんは防犯ブザーを手に取り作戦を話していた。


「四七内、お前はこれを鳴らして正面入口に向かってくれ。とても危険な方法だが……やってくれるか?」

「勿論です隊長。危険な仕事は俺に任せるって言ってくれてたじゃないですか」

「そうだったな。頼んだぞ?」


 四七内さんは正面入口でブザーを鳴らし、周囲のゾンビを引き寄せる囮役だ。危険だと言っているが、危険なんて物じゃない。下手すりゃほぼ確実に死ぬ、そんなレベルだ。


「林は俺と一緒に裏口から抜ける。抜けたら坊主を連れてシェルターへ向かえ。俺は四七内を助けに戻る」

「待ってください隊長! それなら私も」

「ダメだ。お前は坊主を連れていけ」

「しかし!」


 隊長は聞く耳を持たない。林さんは怒りを露わにする。


「何故ですか隊長! 私はそんなに頼りないのですか!?」

「頼りにしてるから言っているんだ! 俺はお前がクソガキだった頃から知っている!お前がこの警備隊に入ってからは何度も共に外に出た! だからこそ言っているのだ!」


 隊長も譲れない意志をぶつける。


「お前の事をずっと見てきた。俺はお前を俺の娘のように可愛がってきたつもりだ!お前の実力は十二分に理解している! その上で頼んでいるのだ! お前ならその坊主をシェルターまで連れて行けると確信しているから!」


 ろくに息継ぎもしないまま言い切った隊長。林さんは俯いたまま返事をしなかった。


「だから頼む。お前にしかできない。何も今生の別れという訳でもないだろう? 今までも何回もこういう事はあっただろ。その度に俺達は戻ってきたんだから」

「それでも……今回ばかりは上手くいかないかもしれないじゃない……」

「大丈夫だ。なんたって俺と一緒に行くのはコイツだぜ?」


 隊長は四七内さんの肩を掴む。


「そうだろう? 四七内」

「ハハッ! そうですね。林さん、私の名前を忘れた訳じゃないでしょう? 私の名前は四七内(しなない)ですよ?」


 俯いたままの林さんが顔を上げる。その表情は曇ったままだったが


「何よそれ……自虐もいい所じゃない」


 そう言って林さんは少し笑った。


〜〜〜〜〜〜


「早く! こっちへ!」


 林さんに連れられて建物の外を走る。後ろではとてつもない音が鳴り響いていた。建物の裏口まで出たあと、隊長は四七内さんの方に引き返して行った。覚悟の決まった目で後で必ずだけ言い残して。

 途中何体かのゾンビと遭遇したものの、咄嗟に隠れてやり過ごせた。やはりゾンビは大きな音に引き寄せられるらしい。しかし


「ちょっと数が多いわね」


 隊長達の音が聞こえなくなってきた頃、前方に10体程度のゾンビが現れた。迂回しようにも視線が通る。林さんはこっちを向いて静かに話しかけてきた。


「私たちのシェルターはここを真っ直ぐ行けばいい」


 何を言ってるんだ?


「いい? 振り返っちゃダメよ。そして、シェルターに着いたら警備隊に隊長達がまだモールで戦闘していると伝えて」


 何を言っているのか分からない。


「ほら! 早く!」

「林さんは! 林さんはどうするんですか!」


 さっきまでの話ぶりじゃ林さんはここに残るつもりだろう。無茶だ。


「大丈夫、私にはこれがある」


 そう言って取りだしたのは小さな筒状の物。


「それは……?」

「知らなくていいのよ。秘密兵器ってヤツね」


 そうは言うものの林さんの手は震え、呼吸も浅くなっていた。俺にはあれが何か分からないが、秘密兵器と言うには怯えすぎているようだった。


「だから、先に行って! 大丈夫よ、警備隊の皆は強いんだから。ここまで来ることが出来ればみんな助けてくれる」


 皆って……それはちゃんと林さんも入っているんですよね?


 頭では考えていた。しかし、言葉には出来なかった。俺はそのまま駆け出していた。

 ただ、あの目はどこかで見た事が……あぁ、そうだ。第3にいた時に1度だけ襲撃があったんだ。その時に殿を務めた兵士の目だったんだ。

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