第3話 救援物資と国際会議
遠い……数時間は歩いたが、代わり映えのしない風景が続く。そもそも地上に食べられる物がある物なのか? 本格的にまずくなってきたな。せめて缶詰の1つでも持ってきていれば……
「ん? アレは……」
そこにあったのは中央政府のマークが書かれたコンテナだった。
「確か……この辺にも小規模シェルターはあったんだっけ?」
名前のつけられている大規模なシェルターの他にそこから溢れた人達が集まってできた小規模なシェルターがある。政府はそれを認識しつつも新たなシェルターを作成する余裕が無いのが現状であった。
その為、報告のあった付近に定期的に物資を投下しているらしい。
「中身が無事ならいいんだけど」
既に発煙筒の効果は切れている。投下されてからそこそこ経っているのだろう。もしかすれば俺が生まれるよりも前に投下された物の可能性もあるが……開けてみないことには分からないな。
コンテナの蓋を開ける。中には缶詰が多数入っていた。
「誰もこのコンテナは開けなかったんだな」
日付を確認してみると3年ほど前に投下された物のようだった。つまり、この近辺にあったであろうシェルターに人はおそらくもう居ない。それも伝えなくては。
「食料は手に入れた。シェルターを早く目指さないと」
道程はまだまだ遠い。しかし、俺にはシェルターの壊滅を伝える義務がある。そう思い込んで足を動かす。
道中ゾンビの居た形跡は無い。鳥のさえずりを聞き、木々のざわめきを耳にする。ここだけを見れば平和な、田舎の風景にしか見えない。
しかし油断はできない。人の少ない地域のゾンビはエネルギー消費を抑えるべく仮死状態になっている事がある。この状態のゾンビは生物が近付けば反応し襲いかかってくるのだが、この仮死状態が長く続いた個体は特殊な変化を遂げている可能性があるためだ。
「出来る限り視界の通らないところは移動しないようにしたいんだけどなぁ」
目の前に広がるのは大きな森だった。迂回できなくはないだろう。ただ、どれだけの時間がかかるか分からない。一刻も早くシェルターの現状を伝えなくては他のシェルターにも被害が及ぶ可能性がある今、時間を無駄にする訳には行かないのだ。
「仕方ない……森を突っ切るか」
危険な状況から抜け出し、暫く何も無かったことが油断に繋がったのだろう。外の世界ではその油断が命取りになる事を失念してしまっていた。
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「それは本当なのかね? 日本支部長」
「はい、まだ確定しているわけではありませんが……恐らく」
「そうか」
「焦土作戦を開始すべきです! 米国支部長!」
「そうです! あんな極東の島国なぞ燃やし尽くしてしまえばいい!」
国際会議場での会話である。
「貴方達も例外では無いのですよ!? 今回偶然にも我々日本に発生しましたが」
「黙れ! そもそもお前たちアジア人を助けるためにどれだけの軍人が命を落としたか!」
「なんだと! それはお互い様だろう!」
各国支部長とその側近がそれぞれ叫ぶ。現在、日本にて発生した可能性のある特殊個体フューラー。どのようにして発生するのかは不明だが、大規模な移動が発生する時には大抵出現している。発生した場合、進路上の街は放棄するのが定石ではあるのだが
「我々日本は島国です。撤退は出来ません。ですからお力を貸していただきたくここに参った所存です。しかし、皆様方は見捨て、あまつさえ焼き払えと……」
日本史部長は静かに続ける。
「あなた方の軍の武装を提供しているのが誰かお忘れでは無いですよね?」
日本は独自の研究施設を設けている。その名もV's。
この未曾有の大災害に際して、突如として現れたカビを研究している組織である。初期の頃はこのカビがゾンビ発生の原因と考えられていたが、研究が進むにつれてゾンビ発生の理由では無いことが判明した。
「そんな物研究の資料を寄越せばコチラでも」
「気候条件等を完全に揃えることが出来るのですか? 今のこの状況で、そんな施設を建設する余裕がどこに?」
そしてそのカビは、適切な圧縮率で圧縮した後、衝撃を加えれば発火、爆発する性質があることも判明。更に都合の良いことに、そのカビの生育環境は日本の気候と合致していた。
日本の企業は我先にとそのカビを利用した兵器開発へと乗り出したのだ。今では世界の武器のシェアを独占しているほどに。
「我々、日本を見捨てると言うのは構いません。焦土作戦を実行しても構いません。ただし、その場合あなた方はこの荒廃した世界での有力な武力を失うということは承知しておいてください」
場は静まり返っていた。口を開いたのは米国支部長。
「アメリカは日本の支援を打ち切るつもりは無い。日本とは昔から強い繋がりを持っているからだ。今現在、未曾有の大災害に見舞われた母なる地球に生き残り続ける為には、人類の結束が必要であることは明白。日本に攻撃を仕掛けると言うならば、我らアメリカも敵になるとここに宣言しよう」
アメリカの後ろ盾を確実に得られた瞬間であった。