31. 被害者の会
何処だここ?
目が覚めたら知らない場所のベットで寝かされていた。私の様子を気にしてか年配の男女が話し掛けて来た。
「大丈夫、痛い処は無い?」
優しく声を掛けて来た年配の女性は涙を滲ませながら謝って来た。ごめんなさい、ごめんなさいと何度も謝罪されたが目覚めたばかりで思考が混乱している。
そして何故か頭に痛みが走る。痛くて頭に手をやると何故か包帯が巻かれていた。
私は年配の男女にベットから上体を起こして聞いた。
「此処は何処です? 貴方達は?」
「私達は高橋と言います、貴女、武藤蘭香さんよね?」
この人達、私を知っているのか?
「私達は三年前の事故の被害者家族よ」
私は目を見開いた。
三年前の事故、確か最近同じ様な事を言われた様な気がする。最近と言わずに直ぐだった気がする。
考えたら頭痛が襲い頭が痛い。
「すまない、乱暴なコトはするつもりはなかったんだ」と年配の男性が言った。
バタンッ! と乱暴に扉を開けて部屋に入って来た人物がいた。
太った男性と、その後を追って入って来た髪がボサボサの無精ヒゲを蓄えた男性二人だ。
「話しが違うじゃないないか米田さん!」
無精ヒゲの男性は太った男性に詰め寄ったが太った男性、米田は無精ヒゲの男性を軽く突き飛ばした。
「うるせー! お前らがマゴマゴしてるから悪いんだろうが!」
「乱暴はしないって約束したじゃないですか!」
突き飛ばされた無精ヒゲの男性は、それでも太った男性米田に食って掛かった。
「この子はまだ子供なんですよ!」
年配の男性が無精ヒゲの男性と一緒に太った男性米田に何やら怒っている。
「そうですよ、怪我までさせるなんて」
年配の女性も加わり太った男性米田を非難している様だ。
するとまた別の人物が部屋に入って来た。
入って来た人物は若い男性だった。二十代前半位の男性で、その後ろから遅れて白髪の年配の男性がやって来た。
「春日部さん、だからって乱暴なコトをするなら私はこれ以上協力できませんよ!!」
頭痛の生か私は、今いちこの状況についていけないでいたが、彼らの顔には見覚えがあった。此処にいる人達は皆、三年前のあの事故で家族や友人を失った被害者達だ。
「彼女に接触してあの日の事故の真実を聞くと言ったから協力したが、乱暴に事を済ませるなら・・・・・・」
「邪魔しないで下さい栗山刑事」
白髪の年配男性は栗山といって、どうやら刑事のようだ。
「春日部さん、気持ちは分かるが冷静にーーー」
栗山刑事の言葉に若い男性春日部は無表情でいた。
「気持ちが分かる?」
フフッと小さく笑う若い男性春日部の瞳からは怒りや憎しみが籠っていた。拳を握り締め、その感情をぶつけた。
「刑事の貴方に何が分かる、事故の責任を俺達家族に擦り付けた警察官が!!」
「その事に関して警察官の一人として、すまないと思っている」
若い男性の春日部は続けた。
「事故の後、世間からバッシングされて疲れた母が自殺したんだ、すまないで済むか!!」
太った男性米田も続いた。
「俺もあの日の事故で弟を失ったんだぞ!」
三年前の事故の被害者家族達が口論する仲、蚊帳の外状態の私は置いてきぼりをくらったのだと理解した。
「止めるな、俺達には真実を聞く義務が有るんだ!」
太った男性米田が吠えた。
私はベットから起き上がり痛む頭を抱えながら、ゆっくりと歩き出した。
「お話しの最中、悪いんですけど一つ良いですか?」
「まだ、動いちゃダメよ」
年配の女性が心配で声を掛けた。
歩いている私に皆が視線ー向けた。
「私を殴ったのは誰だ?」
唐突にした質問に太った男性、米田がヘラヘラしながら言った。
「俺がやったが何だよ?」
私は無言で太った男性米田の顔を殴り飛ばした。
「プヘガァッ!!」
殴った勢いでその場に倒れ鼻血で真っ赤になった。その光景を見ていた皆は唖然としていた。
「な、何しやがる!!」
「何しやがるはコッチの台詞だ、クソ野郎が!!」
私はやられたのをやり返しただけだ、文句言われる筋合いは無い。
ピッと指を突き出して言った。
暴力による傷害、拉致監禁と言いながら指を二本、三本と動かし彼らに言った。
「私が被害届出せば、ここにいる皆は犯罪者に出来ますよ」
「彼女が訴えれば、最悪前科がつきますよ」
刑事の栗山が言った。
「もう止めましょう」
年配の女性高橋さんが訴える様に話す。
「俺は辞めるつもりはない!」
若い男性の春日部が言った。
「此処まで来て、今更辞めるつもりは無い!」
「これ以上荒立てるなら、私の部下を呼びますよ!」
春日部は怒りを露に震えていた。
「そうやって真実を隠すつもりか? 三年前の様に!!」
地べたに倒れながら太った男性米田が目を血走らせながらコッチを見る。
「俺は諦めるつもりは無い、そいつの口からあの日の真実を聞くまでは!!」
春日部、米田は納得いかないという顔で部屋から出て行った。
「大丈夫?」
春日部、米田が出て行き私の元へ年配女性の高橋さんが近寄って来た。
「取りあえず、包帯を巻き直そう」
年配男性の高橋さんが私の肩を押してベットに座らせ手当てをした。手当てをしながら高橋さんは謝罪した。
「乱暴なコトをする気は無かった、本当にすまない」
「私達はあの日の事故の真実が知りたかっただけなの、何故、娘が亡くならなきゃいけなかったのかを」
悲痛な思いで話す年配女性の高橋さん。
「親より先に逝くなんて・・・・・・」
口元に手を当て涙を溜めて啜り泣いた。
「俺も知りたかったんだ、妻は妊娠していたんだ」
無精ヒゲの男性も垂れ下がった髪の毛で表情が解りづらいが俯いている。
妊婦の女性・・・・・・
私の脳裏にある女性の記憶が蘇る。
「赤茶けた、ボブカットの人・・・・・・」
私が口にした特徴を聞き無精ヒゲの男性は、私を見た。
「・・・・・・彼女を知っているのか?」
「眼鏡をしていた人・・・・・・」
「そうだ、彼女は、明美に何があったんだ?」
無精ヒゲの男性は懇願するする様にあの日、何があったのかを聞いて来た。
あの日に何が・・・・・・
思い出そうとすると殴られた衝撃で記憶が脳裏に甦ったが彼らには伝えはしなかった。
「何も思い出せないのよ、何があったのか」
「精神的ストレスによる記憶の混濁は良くあるコトだ」
年配男性高橋さんは言った。
「強いストレスを受けた場合、記憶消失や記憶の一部が欠如するコトは珍しい事じゃない」
「主人は医者なの」
年配女性が補足した。
「記憶は戻らないのか?」
無精ヒゲの男性は高橋さんに聞いた。
「戻るかどうかは~・・・・・・難しい、急に思い出すコトも有れば、一生・・・・・・」
それを聞いて無精ヒゲの男性は肩を落とし首に掛けたカメラを撫でた。高橋さんのお陰で何とか誤魔化すコトが出来た。
また部屋の扉が開いた。
「武藤さん今日はすまなかったね、もう遅いから家まで送るよ」
刑事の栗山だった。
その言葉に甘え、栗山刑事の車で家に帰った。
しかし、どうしよう~、この頭の包帯は何と言って義理兄に説明しよう。
上手く誤魔化さないと栗山って人が前に義理兄に連れられて行った先で殴り飛ばされたルーサーとかいう男性みたいになってしまう。
気おつけねばと心掛けた。