四話 『家族』
少し未来の話『日常が始まる五分前』も本日投稿しています。
よければ読んでいただけたら嬉しいです。
数日後アートメイジ家で行われた父、ドルド・リックウッドの葬儀。
本来なら多くの使用人と領民に囲まれたであろう彼の葬儀に参列者は少なく、ギン達リックウッド家の人間とハワードを含めたアートメイジ家使用人だけで済まされることになったが、この世界でも死者を弔う風習があったというだけでギンの心は少しだけ軽くなった。
「ギン、少しいいかな?」
「なんでしょう……?」
葬儀が終わり別部屋、一人で立っていたギンにハワードが声をかける。父の腹違いの弟であり姓を貸すことで救ってくれた恩人ではあるがまだ警戒している相手からの言葉にギンは少し身構える。
「レイラから聞いた、術式スキルがあったらしいな」
「スキル?」
「術師になるものが最低限もつ才能、言ってしまえば超能力だ」
『レイラが? いやでもそんな超能力があったなんて覚え僕には――』
思い出したのは超能力というよりは自身も不思議に思った超常現象。森の中で領民に襲われた時の全員の時が止まったような時間だ。
ハワードが言うには、あれはギンの術式によるものらしくその力についての説明を受けることにした。
「おそらくは呪言、声を聞いたものに言葉通りの行動を強制する術式だ。それにほとんどは親から遺伝するものでな、これは本当の両親を探す手がかりでもある」
淡々と説明を続けるハワード、それを聞きながらギンは脳をフル稼働させてこの先のことを考えていた。
『僕に術師になれる才能があるということは、父さんを殺した術師とだって戦える力がある。ならいつかアイツを見つけ出すことも……本当の親を探すこともできる』
ギンの頭の中でプランが決まった。
「ハワード……"俺"を強くできるか?」
長い沈黙、ハワードは少しだけ考える仕草をして解答を出す。
「……呪言は珍しい術式ゆえに扱いが難しいものだが、鍛え上げればいずれは第一線で戦える力は身につくだろう。呪言師を育てた経験のある術師のつながりもある」
ギンの顔から場に合わない笑みが零れる。
不敵で悪魔のような、その笑みを見たハワードはその恐ろしさと異常さを目の当たりにしつい考えてしまった――これを育てればいずれ大変なことになる。
立場の弱い貴族は賭けギャンブルをしない。だがハワードはつい自分のすべてをギンに賭けてみたなってしまい、考えるよりも先にとある術師の詳細がかかれた紙と紹介状をギンに手渡していた。
かくして平和と混乱の幼少期は終わり、各々が見るその先への歩みが始まった。
※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※
アートメイジ家での葬儀から数年、ハワードはギン達に王都内にある家を一つ貸し与え三人は今まで入ることのなかった王都の中で暮らすことになった。
王都内は森の囲まれた辺境の屋敷とは違い華やかに賑わっており、ギンは最後に地方である田舎を出てワンマンライブを見た東京を思い出す。その一角にあるアートメイジ家の王都滞在用の家は本家ほど広いわけではないが三人が家族として暮らすには十分すぎる設備で全員が生活必需品などを揃え自室を自由に飾っていた。
「お兄ちゃーん、私の服の中にお兄ちゃんのパンツ入ってるー!」
「バカ、大声でそんなこと言うな」
「だってお兄ちゃん全然気づかないんだもん!」
ギンの下着を持って部屋内をうろうろするブルーをとっ捕まえて手から下着を引っぺがして部屋の外に出す。ギンはいま、ハワードから貰った紹介状を手にプランを練っていた。
『紹介状に書いてある年齢に俺はもうなってる、あとはブルーにバレないよう王都内にいる術師のところまで行く』
ギンは相手の行動を言葉で強制する術式を持っていることがハワードとの話で発覚しており、その術師は本当の両親と自身の育ての親であるドルド・リックウッド伯爵を襲った犯人を捜す手がかりでもある。今はその力を鍛え術師としての能力を使いこなせるようになるのが最初の目標だった。
「ギン、部屋の片づけは終わりました?」
「レイラ……あぁ、ほとんど終わったよ。ブルーにもこれはバレてない」
さっきまで読んでいた紹介状を手にレイラの質問に答える。
紹介状のことはレイラだけが知っておりまだ子供であるギンが王都内を歩くには母親として一緒に暮らしているレイラの協力が不可欠だった。
「今晩出ますか?」
「そうするつもりだ、もう何年も待ってたんだ……一秒だって無駄にしたくない」
「わかりました、ではそのようにを――」
※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※
初めて囲む"今の"家族での食卓。元々ハウスメイドとして働いていたレイラの料理は屋敷の料理人にも劣らない出来だった。
ブルーはこういった食事が好きだったのか、笑顔で夕飯に舌鼓を打っている。
「おいしいー! レイラ料理上手なんだね、おじさんの家のご飯より全然美味しいよー」
「お口に合うようで光栄です、それにしても慣れませんね……私がお二人と一緒に食事というのは」
「ない行ってるの、今レイラは私たちのお母さんなんだから、家族で一緒にご飯食べるのは普通だよ」
「ありがとうございます、ブルー」
「だからありがとうございますとか言わなくていいって、もうー名前だって普通に呼べるようになるまで一年以上かかったんだから」
元々メイドとして働いていただけあってレイラはまだ居心地がいいとは言えない状況だったが、ギンとブルーに母親としてふるまってほしいと言われたことによりこうして一緒の食卓に並び名前を呼ぶときも敬称をつけず呼ぶようにしている。
十年以上のメイド生活のためまだ敬語が抜けてはいないが昔と比べればまだマシになった方だった。
「夕飯後は早く寝てくださいね、来週には学校にも通いますから」
「学校楽しみだよ、お兄ちゃんと同じクラスだといいなー」
「別にクラス違ってもいいだろ、家では一緒にいるんだし……それに二人でいると目立つ」
ギンとブルーは人間離れした銀髪に左右違いのオッドアイ。単独でも異様な存在感をもつため二人で出歩くと常に注目の的になってしまうのは目に見えていた。
王都の裏で動くことの多い術師を目指すギンとしてはあまり目立つことは避けたく、学校に通うこと自体拒否気味ではあったが王都内に住む貴族家の姓を持つ子供は何かと話題に上がりやすく、学校にも通っていないとなると隠し子などの噂が立つ可能性があり、渋々投稿手続きを済ませることになった。
「ごうちそうさまー! じゃあ私はもう寝ちゃうから、おやすみー」
「おやすみなさい、ブルー」
「おやすみ」
食器を片付けたブルーがそそくさと整えたばかりの自室に戻っていく。
食卓で二人になったギンとレイラは、件の紹介状を机に置いて隠し事を始める。
「ここに書いてある術師はどこにも所属してないフリーらしい、所在は書いてあるけど今から探して見つからない可能性もある。いけるか?」
「探せと言われれば草の根の一本一本でも探します、それに彼の現時点での所在はすで掴んであります」
「……すごいな」
「元リックウッド家の使用人たるもの、所在のわからない術師の居場所ぐらい探しだして当然です」
珍しく微笑むレイラ、その目には今でも使用人であるという誇りが残っていた。
最後まで読んでいただきありがとうざいます。
よければ評価や感想をいただけると励みになります。
始めたてで文章もまだまだな本作ですがすでにブクマ、評価、いいねもいただいており大変嬉しく思っています、ありがとうざいます。
毎日20時前後に更新する予定です。




