八話 『友達』
『ここがアイドルクラス……友達できるかなぁ、いやいやビビってちゃダメダメ、私だってアイドルなんだから堂々としなきゃ!』
意を決して教室の扉を開けると中にいたのは美男美女。アイドルクラスというだけあって高レベルのルックスをスタイルを持った生徒が数多く在籍していた。
『イ、イケメンと美少女しかいない……! うぅ、これじゃ落ち着かないよー!』
挙動不審に周りを見ながら自分の名前が書いてある端っこの席まで歩く。周りの生徒たちはクラスに入ってきたブルーをちらちら見ているが緊張状態のブルーは気にすることもできず席に着いた。
『いやでも私だって顔はいいわけだし、あんまり気にすること――えっ!?』
なんとか気にしないように椅子の上で目を伏せようとしていたブルーの視界に隣の席に座る美少女が入り込む。
それはブルーにとっても覚えのある人物だった。
「カ…カレン・マイドール……!?」
「あ、私のこと知っててくれるの? 嬉しいなー」
カレンは驚きで引き気味になっているブルーの目を見て笑顔で話しかける。その笑顔は眩しく教室のどの生徒よりもブルーには輝いて見えた。
「知ってるに決まってるじゃないですか!? 今話題沸騰中の辺境アイドル"Bee"のセンターカレンちゃんですよ!」
「あんまり大きな声で言わないでぇー!」
焦りながら手を振って止めるカレンを見て一度深呼吸をしたブルーは落ち着きを取り戻して声量を抑える。
「すいません、まさが隣にカレンさんがいるなんて思わなくて」
「敬語じゃなくていーよー、知ってくれてるのは嬉しいけど同じクラスなんだから」
「え? あ、うん……ごめんね私アイドル大好きで」
「わかるよー、私もこの教室入ってすごく驚いたもん。ほらあそこにいるのは大手公爵家グループのメンバー、あっちには聖歌隊の子もいるんだよぉ」
改めて見回すとレッスンやライブなどで見た顔が多くいることがわかり、逆に自身が目立っているのではないかと錯覚したブルーは制服の上着を頭から被って隠れようとしてしまう。
「どしたの?」
「いや、なんか生きる世界が違うな―と思って……」
「そんなことないよぉ、ほら――」
被っていた上着をカレンに剥ぎ取られ目を合わせると、顔を近づけてきたカレンに少し後退りしてしまうが窓際に追い詰められる。
「君も可愛いよぉ、それに目が綺麗……オッドアイっていうの? そういえばおんなじ目した人入学の時に見たなー、イケメンだからアイドルクラスだと思ってたんだけど違うんだねぇ」
同い年であるはずなのに母性というか、安心感のある喋り方をするカレンの言葉でブルーの緊張が解けていく。ただその話の中で出た自分と同じ目をした人と聞いて兄であるギンが思い浮かんだ。
「あ、たぶんそれお兄ちゃんだと思う」
「えー双子さんなの? 羨ましいわぁお兄ちゃん! 私一人っ子だったからねぇ」
「術師クラスにいるんだけど、お昼に会いに行ってみる?」
「え、お兄さん紹介してくれるのぉ! 楽しみだなぁ……そういえばあなたのお名前はなんて言うの?」
はっとして焦りながらメチャクチャな自己紹介をするブルーを、カレンはまるで聖母のような笑顔で見ていた。
そして教室で学校の説明や授業内容などを聞く時間が進み昼休み。ブルーとカレンは持参した弁当を持って術師クラスがある教室棟まで来ていた。
「術師クラスって結構遠いんだね」
「いやブルーちゃんが道全部反対方向進んでたからかなぁ……」
ブルーの驚異的な方向音痴っぷりに戸惑いながらもなんとか教室棟まで辿り着いた二人はここからどうするかを考える。
「うーん、お兄ちゃん出てくるかな? 友達はまだできていないとして教室の隅でお昼ごはんを食べる可能性もあるし――」
「お兄さんの評価結構残酷だねぇ」
これからの兄の行動を妹の勘で予測しているとエヴァの存在を思い出す。昔馴染みである二人が一緒に弁当を食べる光景を想像しブルーはすぐさま教室棟の扉を開けようとすると、中からちょうどギンとエヴァが顔を出した。
「……なにしてる?」
「お兄ちゃん、一緒にお弁当食べよー!」
「お前それだけのためにこっちまで来たのかよ……その子は?」
「あ、紹介するね! Beeってグループのセンターでカレンちゃんっていうの、席が隣で仲良くなったんだー」
「初めましてぇ、カレンって言いますー。やっぱりお兄さんもかっこいいんだねぇ」
「ブルーの兄でギンだ、妹が世話になったみたいでいきなり迷惑とかかけてないか?」
礼儀正しくお辞儀をして自己紹介をするカレンにギンも同じようにお辞儀で返した。
「もうお兄ちゃん! 私そんなことしてないよー!」
「いえいえー、ブルーちゃんとっても可愛くていい子ですよぉ。教室でもみんなに可愛がられてて――」
「カレンちゃん、そんな話しないでー!」
三人で盛り上がる中、蚊帳の外と言った状況のエヴァが後ろでそわそわしていることにギンが気づいて話の輪に入れるよう手招きすると、喜んだ表情のエヴァが小走りで駆け寄ってきた。
「術師クラスのエヴァです、よろしくお願いします」
「ほぇー、エヴァちゃんもアイドルみたいな子だねぇ!」
「いやそんな……アイドルクラスの人と比べたら全然ですから」
そんな会話が続き、少し移動した広い中庭の一角で三人が各々の昼食を広げていた。
学院の敷地が広いからなのか全員が弁当を持参していて食堂に寄ることなくスムーズに昼食の時間が始まる。
「それでね、聖歌隊のメンバーとかもいてすっごいクラスなの!」
「そうなのか、楽しそうでよかったな」
ブルーの話に簡単な相槌を挟みながら弁当を食べ続けるギンの隣ではエヴァとカレンが話し込んでいる。どうやらお互いかなり気に入ったようで食事中だというのに会話が途切れる暇もなかった。
「へー、お兄さんと昔にねぇ。じゃあ運命の再開みたいですごいなぁ」
「う、運命なんて言い過ぎですよ……本当にたまたまで」
「いやいやロマンチックじゃない? 昔話しただけの名前も知らない男の子と突然の再開、しかも男の子はこんなにイケメンになってるんだよぉ、おとぎ話みたいですごいよぉ!」
「盛り上がってるところ悪いけどうちのお兄ちゃんには期待しないほうがいいよ?」
二人の会話にブルーが割って入ると、期待しないほうがいいという言葉に食いついたカレンが不思議そうな顔でブルーと目を合わせた。
「そんなぁ、もう高等生なんだからそういうことも――」
「いやお兄ちゃんシスコンだから」
カレンの思春期っぽい話を遮った突然のカミングアウトにエヴァとカレンは驚いてギンの顔を見る。新しい生活でほぼ初対面の相手の前で言われたことでさすがになにかしらの否定があると期待した二人だが――
「シスコンじゃない、お兄ちゃんだ」
否定しているようでまったくしていない冷静な言葉に場が凍りついた。
「い、妹さん大事にしてるんだねぇ……?」
「まあ妹だしな、俺が出来ることならなんでもやるつもりだ」
当たり前のように妹第一の考えを口にするギンに対する反応は様々だった。
ブルーは嬉しそうに笑っていて、カレンは戸惑いつつもフォローしようとする、エヴァに至っては放心状態で電源が落ちたように停止していた。
「お兄ちゃんはね、昔から勉強教えてくれたり今日のお弁当も作ってくれたりしてね、この前なんか私のためにアイドルについて一日中ずっと考えてくれたりしたんだよ!」
正確には入学時から差がつかないように対策するためだが――とはギンは言わなかった。
「そ、そんなんだぁ……いいお兄さんがいてよかったねぇブルーちゃん」
ギンの一言を皮切りにブルーの兄自慢が始まりカレンがなんとか相槌を打っていると、ゴーン、ゴーンと昼食時間の終わりを告げる鐘の音が鳴り停止していたエヴァの意識が現実に戻ってくる。ブルーとカレンは教室棟に戻るのに時間がかかるため弁当を片付けてすぐに歩いてしまったと、二人になったエヴァに少し気まずい時間が流れるが、何も気にしていないようなギンはさっさと弁当を片付けていた。
「エヴァ、早く戻るぞ」
「あ、うん……ごめんね!」
ギンから声をかけられてエヴァも片づけを始める。
ギンの新しい一面を見て距離が縮まったようで少し近づきがたくなってしまった昼食は、エヴァに戸惑いを残して終わりを告げた。
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