七話 『入学』
面接を終えて数日、ギンとブルーの手にはロクドウ学院から送られてきた合格通知書が握られていた。事業欄に記入した通り、ギンは術師クラス、ブルーはアイドルクラスへの入学が決定していた。
そして今日、ロクドウ学院入学式の日を迎えることになった。
「お兄ちゃん遅れるよー!」
「いま行く、時間は余裕あるから大丈夫だ――」
「そんなこと言って、昨日みたいに登校時間ずらすなんてしないでよ」
入学式の前日の話、ギンは二人だと目立つという理由でブルーとは登校時間をずらそうと相談していた。昔アイドルの楽屋で物珍しさから囲まれたように容姿の似た双子が歩いているとかなり目立つのは必然だったが、ブルーが兄妹並んで登下校しないなんてありえないと反論したため少々口論になったがギンが根負けして一緒に登校することになった。
「そんなことしない、俺が出なかったらお前も遅刻するだろうが」
カバンを抱えて玄関まで出てくるギン。貴族校の高貴さが漂う制服に身を包み、高く伸びた身長がスタイルの良さを際立たせている。
「じゃあレイラ、行ってきます!」
「……行ってきます」
見送るレイラに挨拶をして家を出る。
新しい人生での数回目の入学式、二人はなぜか今までの朝よりも眩しく思えた。
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学校に着いてからは淡々と事が進み、入学式では貴族校がなんたるかという話を長々と聞かされブルーが若干の根胸を感じ始めたころ席を立って自分たちのクラスへ入ることを許された。
広い中庭を二人で歩きながら入学式が行われる講堂から離れた教室棟を目指しながら周りを見ると、学校自体はとても広く、入学早々下手に歩き回れば迷ってしまいそうなほどだった。
ギンはキョロキョロと周りを見て走り出しそうなブルーに注意しつつ学校の雰囲気を確認していた。
『なにもしていな一般クラスから闇仕事もこなす術師までいるにしては雰囲気は明るいな、クラスや爵位で差別があるようなものだと思ってたが杞憂だったか?』
ロクドウ学院はクラスによって制服の紋章が違うのだが、見た感じではどの生徒も普通に会話しておりクラスごとの確執などはないように見えた。そもそもそういった意識のない年頃から同じ学校に通っているのだからあまり関係なかったわけだが、中には一人でうろうろしている生徒や中の良さそうなグループに混じっているようで混じり切れていない生徒もいた。
ギンが考えるに高等レベルからの入学した生徒で自分たちも現状あちら側であることを認識する。
「私たちの教室遠すぎない? あとどれだけ歩けばいいのー」
「俺たちは明らかに異質なクラスだからな、ほとんど隔離みたいなもんだろ」
「隔離ってお兄ちゃん……もっと可愛い表現できな――ん?」
何気ない会話としている二人の前に、一人の女子生徒が立っている。用があるのかないのかただ立っているだけで話しかけられることもないためギンが避けて通ろうとすると女子生徒が顔を上げてやっと口を開いた。
「あ、あの……お名前なんでしたっけ!?」
「…………ギンだけど?」
突然強制された自己紹介に反応できなかったがつい答えてしまう。
だがよく見ると目の前にいた女子生徒は術師クラスの新入生で、面接日に玄関ですれ違った少女だと思い出した。
『この子術師クラスだったのか、見覚えがあるような気がしていたが師匠の関連で見たんだったか?』
「お、覚えてないかな? 昔辺境伯の――」
「ちょっと待っ茶!」
少女の言葉をブルーが使う古されたような言葉で遮った。
そしてすぐにギンと少女の間に割って入り仁王立ちで会話に混じる。
「名前聞いたんなら自分も名乗らないと! ちなみに私はブルー、この人の双子の妹です!」
「ちょっお前、そんな大声で……」
急に中庭の真ん中で自己紹介を終えたブルーに視線が集まる。
今まで少しだけ感じていた視線が一気に増え戸惑うギンのことなど考えずブルーと少女は会話を続けた。
「私エヴァ、エヴァ・グリーンガーデン! 術師クラスの新入生だよ」
「ありがとうエヴァちゃん、じゃあ私達急いでるから!」
そのままギンの手を掴みそそくさとエヴァを避けて歩き出そうとするブルーをギンは止めてさっきの会話を思い出すと昔の辺境伯という言葉が引っ掛かった。
過去、辺境伯、見覚えのある少女というキーワードがギンの頭の中でつながり、ほぼ唯一といっていいまともな会話をしたことがある同年代ぐらいの少女の姿を思い出した。
「昔辺境伯の楽屋で話した……?」
その一言にエヴァが飛びついた。
「そう! 面接日に見かけたんだけど急いでたから話しかける暇がなくて、覚えててくれたんだね」
見覚えのあるだけだった少女、エヴァはギンとブルーがまだ小さかった頃に初めて観に行ったアイドルライブの楽屋でギンと話した少女だ。その時はアイドルを夢見ている何の変哲もない少女で、アイドルになったらギンが最初のファンだと言い残して別れて以降一度も会ってはいなかった。
「驚いた、大きくなったんだな」
「それは私もだよ、昔話した時は私より小さかったのに」
過去の会話で少し盛り上がる二人、その脇で明らかに不機嫌なブルーが会話が終わるのはいつだと言わんばかりにギンを睨みつけている。今まで同世代の友人がいなかったブルーにとって唯一最も近い距離間で過ごしてきた兄が美少女と話していることが無性に頭にきているようだった。
ギンがそれに気づいたのは数分エヴァと話した後で、噴火寸前の火山のような顔になったブルーが視界に入りすっとエヴァと距離をとった。
「す、すまんブルー……」
「ふーん、お兄ちゃんこういう子が好きなの?」
「いやそういうわけじゃない、エヴァは昔話したことがあるからその流れで――」
「ごめんブルーちゃん、ギンくんとの間に割って入っちゃって」
「別にいいよ、二人は同じクラスみたいだし一緒に教室までイチャイチャしてればいいよ」
くるりと反対方向を向いたブルー。その後ろ姿はかなり起こっているようでギンもエヴァも同声を変えていいのかわからない。
『なによお兄ちゃん、私とはあんまり話してくれくなったのに急に可愛い子と盛り上がっちゃって……私の方がずっと長く一緒にいたのに――』
「待てブルー……そっちは食堂だ」
完全にへそを曲げたブルーが一人で歩き出すが、方向は教室棟ではなく食堂の方向。やはりギンが見ていないとまともに教室へはたどり着けそうになかった。
一人で歩き出した手前戻りづらいのか、恥ずかしさで赤面したブルーが振り返ってギンの隣まで帰ってくると、エヴァは不機嫌かつ恥ずかしさで顔を上げられないブルーにひたすら謝り、ギンはエヴァとはそういった関係でないことを説明し――やっとのことで落ち着きを取り戻したブルーと三人で教室棟を目指すことになった。
「ブルーちゃんはアイドルクラスなんだね、可愛いからすぐ人気になれるよ!」
「ありがとエヴァちゃん、私世界一のアイドルになるのが夢なんだー」
先ほどまでの不機嫌な様子はどこへいったのか、数分の間にすっかり仲良くなった二人は三歩後ろを歩くギンのことを見向きもせず盛り上がっていた。ブルーはアイドルクラスに入るきっかけや夢などを話しエヴァはよく共感してくれていてもうすっかり友達になったようだった。
ギンも入学早々注目を集めてしまったが妹に同級生の友達が出来たことを嬉しく考えていて、このままクラスでも浮くことなくアイドルという立場であれど普通の女子高校生らしい生活が送れることを望んでいる。
「あ、ここアイドルクラスだ。じゃあお兄ちゃん、エヴァちゃん放課後にね!」
「うん、また後で」
手を振って教室棟へ入っていくブルーを見送り、もう少し先にある術師クラスの教室棟を二人で目指す。歩き出してほんの少し、エヴァから話したいことは先ほどすべて話してしまったようで沈黙が続いていたがギンの方から話を始めた。
「ありがとな、妹と仲良くしてくれて」
「それはこちらこそだよ、私は友達できるか不安だったから二人がいてすごい嬉しいから」
ギンは隣を歩くエヴァの胸にある術師クラスを示す紋章を見た。
「アイドル……ならなかったんだな」
「あ、昔のこと? えっとね、私の家って代々術師なんだけど私しか術式引き継いてなかったの。こればっかりはしょうがないからさ」
「兄弟がいるのか?」
「年の離れた兄と姉がいるよ、でも術師になれなかったの。まあ子供の時の話だから今はもう諦めちゃってる!」
明るく言うエヴァの目の前には術師クラスが通う教室棟が見えていた。
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