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シャットダウン・アンサーズ ‐答想聖解王と問題解決部の少年少女‐  作者: 羽波紙ごろり
【 神社? デンジャー? ジンジャラス!】
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#57 ラブレターねぇ……

「聖解の本? ああ、【コズミック・コミック】のことか――」


「上手先生は元ガイアコレクションだし、何か知っているかなと思いまして」



 医者である上手が勤める病院へやってきた的当とデカメロン、そして乃鈴。到着して間もなく、開口一番に的当は読神神社の聖解について記された本のことを尋ねた。



「んー? ボクはあまりそういう伝説には詳しくないけどね。振子さんと仲が良い付喪神が、確か神社に関係があったような? あとは市長とかに聞くのもアリかな? 神社の当主は――まあ、ハードルが高いかもしれないけど」



 どこかの准教授とは違い、至って普通の一般的に流通されている紅茶をティーカップに注ぎながら、上手は的当たちの質問に答え始めた。この香りは――アールグレイだろうか。



「先生は本について、どう考えているでござるか?」


「聖解の本、ねえ? うん――ボクは要らないかなぁ」


「それは、どうしてなの?」


「それはね、乃鈴ちゃん。ボクにはもう自分だけの答えがあるから、今更聖解を手に入れる必要が無いってことだよ」


「へえ? どんな答えなんですか、先生?」


「内緒。大人にもプライバシーってものがあるんだよね」



 上手は笑って何かを誤魔化していた。彼が抱いている答えというものが何なのか気になる的当であったが、今は聖解の本の件を片付けたい。一先ず、それは置いておく。


 的当は上手が抱える答えの中身が歩亜郎や振子、葉子に関係することだろうと予想しようとして、彼ら彼女らの複雑な関係性を思い出し、すぐに思考を止めた。


 誰にだって、踏み荒らされたくない領域というものがある。それは自分だって同じであり、一番よくわかっていなければならないし、忘れてはいけないことだ――的当は内心、頭を横にゆっくりと振るようなイメージ浮かべ、心を整えた。



「まあ、ボクは一応医者だからね。そういった側面から述べるなら、聖解の本についてある違和感を指摘したい」


「違和感、ですか?」


「そう、ボクがわかっている範囲だと――聖解の本、つまり象叙万画【コズミック・コミック】という装造武想(イマジナリーアームズ)は初代巫女姫である読神言葉の想造力(イマヂカラ)によって顕現したものらしいけど――初代巫女姫はもう亡くなっているし、いくら三十年前にアナムネーシス・ウイルスの存在証明に関わるパンデミックが発生したとはいえ、異なる人間が全く同じ中身の想像を抱くことが果たしてできるのかな?」



 三十年前に世界中を揺るがしたアナムネーシス・ウイルスのパンデミックが起きた。想造力学の研究が進んだのはその後だ。しかし読神の巫女姫たちは以前から聖解の本やウイルスの力を操っていたようであり、それが神秘的な力として信仰を集める理由となっていたようだ。学問で想像による創造が証明される以前から、聖解の本は存在していたのである。


 上手は自身の疑問や違和感を吐露していく――



「先生は聖解の本を信じていないと?」


「そうだね、デカメロンくん。ボクはもしかしたら信じていないのかも。だって、乃鈴ちゃんと――書子ちゃんだっけ? 二人の間に聖解の本は封印されているみたいだけど、当の本人たちが本の中身を認識できないのはどういうことなのか」



 読神の巫女姫たちは、先祖代々同じような想造力(イマヂカラ)を抱くように教育を受けてきた。全てが一切の狂いなく同様の想造力(イマヂカラ)というわけではないのかもしれないが――そもそも自身の想像によって存在を保つことができる装造武想(イマジナリーアームズ)の中身を、答想者(アンサラー)本人が意識して閲覧できないという現在の状況に少し違和感があるという上手の気持ちは理解できる。


 答想者(アンサラー)はアメイジング・グレイスによって想造力(イマヂカラ)をプログラミングできるはずなのに、そのアルゴリズムがある種のブラックボックスと化しているのはどういうことなのか。



「それは――」


「あまり仮説を話すことは得意じゃないけど――ボクはね、聖解の本は伝説が途中で歪んだ結果、少々事実と異なった存在として言い伝えられてきたのかもしれない。本当は聖解なんて記されていないのかも? 全ての問いに通用する答えなんて、書いていないのかもしれないよ?」


「そうだとしたら、今回の件――その根幹を揺るがすことが明らかになるかもしれないな」


「そんなことになったら神社全体が混乱に陥るぞ! 乃鈴様たちに何かあったら――」


「落ち着け、メロン。そのような事態になったとしても、お前なら乃鈴を守れるだろ」


「そうなの! それに書子お姉ちゃんのことは、砂雄お兄ちゃんが守ってくれるの!」


「砂雄一人では、書子様を守ることなどできませぬ」


「だから俺たちアンサーズの出番が来たわけだ。大丈夫、俺と歩亜郎がいる限り」


「貴様のその自信はどこから来ているというのだ、的当よ――」


「それなら安心なの! 引き続き神社の警備よろしくなの!」


「乃鈴様、ちょっとアンサーズを過信しているのでは?」


「何か、言ったの?」


「い、いえ」


「その【コズミック・コミック】という装造武想(イマジナリーアームズ)はどんな能力を持っているのか――聖解の本、その真実をもう少し調べる必要がありそうだな」


「しかし調査ばかりしていては、お正月が、来てしまうぞ?」


「それもそうか。あまり時間を掛け過ぎると依頼達成、その本来の目的を果たせなくなってしまう。調査はこの辺りにして、神社へ戻るか」


「ああ、答え合わせは――不本意ながら歩亜郎のヤツに任せて、拙者たちは神社の警備、つまり乃鈴様たちの護衛に集中しても良いだろう」


「ふふっ。メロン、本当は歩亜郎お兄ちゃんたちのこと、とても信頼しているの」


「違います。正確には歩亜郎を信じていらっしゃる、乃鈴様のことを信じているのです。それ以外に理由なんてありません」


「素直じゃないね、デカメロンくんも――ま、そういうところも未来ある君たちには現在抱く感情として必要なものなのかもしれないね」



 上手が席から立ち上がる。そろそろ診察の時間が始まるようだ。邪魔をしては悪いと思った的当たちは上手に挨拶をすると、部屋を出た。そして病院内の廊下を歩きながら、上手との会話で得た情報を基に、各々の考えをまとめていく。


 特に、上手が言っていた聖解の本という存在が抱く違和感。それが気になった的当は、気が付くと真矢の病室の前に辿り着いていた。無意識に幼馴染の病室へ向かっていたようだ。



「的当? どこへ向かうのかと思えば、その部屋はもしかして世知崎の――なら、拙者たちは先に神社へ向かっているから、会ってきてはどうだ?」


「いや、せっかくだから二人も来てくれ。休部中とはいえ、真矢もアンサーズの一員だから、メロンたちのような他の部員とも会いたいと思っているはずだ」


「そうか? なら、失礼して――」



 的当に促されて、真矢の病室に入るデカメロンと乃鈴。部屋に入ると、真矢がベッドの上へ弓道に用いる弓と矢を広げていた。お手入れの最中だろうか、的当たちのことに気づかない様子で、真剣な眼差しを弓と矢に向けている。



「やあ、トマトくん。いらっしゃい――それにデカメロンくんだっけ? 乃鈴ちゃんも」



 それでも本当は来訪者に気づいていたのだろうか。真矢は突然来た的当たちに驚きもせず、弓と矢を片付けると彼らの方を向いた。



「先日のクリスマスパーティー以来か? こんにちは。拙者たちの名前を覚えてくれていたとは――」


「うん。視たことがあったからね」


「視たこと? ああ、名簿か何かで覚えたということか」


「いや、違う。真矢は断片的ではあるが、不確定な未来を視ることができる。おそらく数多ある可能性の内、メロンたちが名を名乗る未来も存在していたのだろう。だから名前を覚えていた。そうだろ、真矢」


「まあ、そんなところかな――改めまして、世知崎真矢や。どうぞ、よしなに」


「あ、ご丁寧にどうも――そういうわけで拙者、デカメロンと申す者」


「読神乃鈴なの!」



 何故だろう。確かに真矢はデカメロンたちに名乗っているのだが、その瞳はデカメロンたちというよりも、何か違うものを見ているような気がする。想造力(イマヂカラ)によって、また何か未来の可能性を傍観しているのだろう。



「そっか、そうやったんやね」


「何か視えたのか、真矢?」


「皆は今のところ、【コズミック・コミック】を聖解の本とか大層な名前で呼んでおるけど、アレは聖解の本というよりも手紙に近いものだとウチには視えたんよ」


「本ではなく、手紙? 誰かへのメッセージが記されているってことか?」


「そ。それもただの手紙ではなく――」


「恋文、だよね。やっぱりそうなのかな」


「乃鈴? 乃鈴は聖解の本の中身を読めたことがあるのか?」


「【司書姫(ライブラリアン)】の識別名(コードネーム)を持っている乃鈴には何とか読むことができたの。ただ、【コズミック・コミック】の中身を読めただけで、文字を認識することができなかった。何が書かれていたのか、理解することができなかったの。でも乃鈴は――なんとなく恋文みたいだと、そう思ったの」


「ラブレターねぇ……」


「そういえば読神神社の成り立ちも恋文が関係していたような?」


「本当か、メロン!」


「うむ。かつてこの国に宣教師としてやってきた兄妹が、狐と暮らす不思議な少女と出会い、交流を深めたらしい。後に兄の方はその少女と恋仲になったそうだが――その恋は続かなかった。宣教師の兄妹が処刑されてしまったからだ」


「その、狐と暮らしていた女の子の名前が読神言葉。読神家のご先祖様なんだよ」


「へえ? じゃあ恋文とやらはその二人の間に交わされたものなのか?」


「詳細はわからんが、もし【コズミック・コミック】の正体が聖解の本ではなく、恋文ならば――神社の成り立ちとも辻褄が合うかもしれぬ」


「だとしたら、聖解の本――その根源になっている想造力(イマヂカラ)は一体」


「ポアロくんと同じかもね」


「歩亜郎と、同じ? ということは【最終怪答(ファイナルアンサー)】みたいな想造力(イマヂカラ)――そうか!」



 真矢の助言を受けて、的当の脳内にある一つの仮説が組み上げられていく。その仮説に基づくならば、聖解の本【コズミック・コミック】――読神言葉の想造力(イマヂカラ)の正体にかなり近づくことができるのだ。そのためには歩亜郎の存在が必要である。


 クリスマス・クライシスの事件の際、歩亜郎は断片的ではあるものの、聖解を導くことができるゴーダ・アイ・システムにアクセスするための権限を所持していることが発覚した。その歩亜郎と協力することさえできれば、聖解の本を【最終怪答(ファイナルアンサー)怪盗模写(カンニング)】で再現できるかもしれない。本人のやる気次第ではあるのだが――



「歩亜郎の説得は雪上に任せるとして――あいつ、ちゃんと市長に質問できているのか?」



 的当は真矢の病室から、今頃市長と会っているだろう歩亜郎のことを心配するが、一舞たちも付き添っているから、きっと大丈夫だろうと思うことにするのであった。



「大丈夫、だよな?」


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