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#24 質問は以上ですか

「はい、診察完了。今日の検査は終わりだよ。終わり、終わり」



 上手先生が、屈託のない笑顔で歩亜郎に呼びかける。しかし、彼から返事はない。



「歩亜郎?」


「死ぬかと思ったのだ」


「たかが注射針で、大げさだよ」


「採血なんて、必要ないのだ」


「そういうわけにはいかないよ。君のアナムネーシス・ウイルスは少々特殊だからね。何かあったときにすぐ対応できるよう、こうして今のうちから病院へ血液を預けておいた方が、備えがあって良いと思うけどね」


「保護者――振子も同じことを言っていたのだ。でも、良いのか? 僕のウイルスなんか保管したら、ガイアコレクションが、この病院を襲撃しそうな気がするのだ」


「はっは! まさか――」


「まあ、襲撃の心配はしなくて良さそうなのだ。上手先生もいるわけだし」


「わかんないよ? 下っ端とはいえ、僕はガイアコレクションの関係者だったわけだし? 裏切り者を追って、誰かやってくるかもよ?」



 上手破雨は、元、ガイアコレクションの想造犯罪者だ。


 彼の父親は、かつて市内に存在した鴎の園病院の院長であった。その関係で、彼自身もガイアコレクションの関係者として活動していたのだが、あの病院火災以降、罪を認めて、四季市警察に出頭。紆余曲折の末、想造犯罪事件における司法取引により、何故か病院の医者を務めている。十年前の火災の真実を知っている、数少ない人間の一人なのだ。



「謙遜しないでほしいのだ。上手先生、あんた、あの相沢薫之介に匹敵する凄腕想造プログラマだろう。その気になればナノマシンワクチンやアナムネーシス・ウイルスの構造を滅茶苦茶に書き換えて、多くの【答想者(アンサラー)】を死に追いやることだって、できるはずだ」


「あのね、歩亜郎。僕はそういうこと、もうやりたくないの。わかった?」


「まあ、そうだろうな。もう、振子に嫌われたくないもの」


「振子さんの名前を、いちいち出さないでほしいものだね。それとも、あれかい? 僕を君の父親にしたいのかい? それでも良いなら、いくらでも言って良いけどさ」


「ぜひ、父親になってほしい」


「え? そ、そう? なんか、照れるな?」


「だって、何をしても許してくれそうだし」


「あのね、歩亜郎! 父親っていう存在は、そこまで甘くないよ!」


「ふーん」


「ま、君も親になれば、わかるかもね」


「なら、コウノトリを召喚する方法を、そろそろ知りたいのだ」


「君の場合は、親になる以前の問題があるからなぁ――さて、次の患者さんの診察時間だ」



 上手先生は、歩亜郎の身体をグイグイと部屋の外へ押し出していく。



「ま、待て! 召喚の方法を!」


「的当くんにでも、ちゃんと聞きなさい。良いかい? 間違っても、雑に調べることじゃないからね! 一人では、親になれないということを、しっかり頭に叩き込んで、相手の気持ちを考えて行動するように! それだけは約束だ!」


「知っているのだ! チュウするとコウノトリが来るかもしれ――」


「そんなわけあるか!」



 ピシャリと、戸が閉められる。


 その直後、部屋の中から「すまない、的当くん。頼んだ」と呟きが聞こえてくるが、歩亜郎には何のことか、さっぱり理解できない。それもそのはずだ。


 歩亜郎は、自分自身がオリエントシリーズという、ガイアコレクションによって計画された生体兵器、その九十九番目の個体に過ぎないということを理解している。ヒトであって、人間ではないようなモノだ。それ故に、人間の生殖活動をよくわかっていないのである。



「ポアロくん」



 診察室から追い出された歩亜郎に駆け寄る一舞。どうやら、待合室の椅子に座っていたようだ。どこかの自動販売機で買ったのだろう、カボチャジュースを片手に持っていた。



「どうでした、検査は?」


「さあ? 興味ないもの」


「ええ! 良いのですか、それで」


「結果は保護者――振子に伝えられているから、問題は無い」


「そういうことでは」


「それで? お前、何か用があるのではないか? わざわざ待っていたのだもの」



 歩亜郎は一舞の顔を見向きもせずに、近くにあった病院内の売店へ入る。彼女も後を追いかけてくるが、正直、何故歩亜郎に関心を抱くのだろうか。



「このメーカーのカボチャジュース、美味しいですよ!」



 どうやら一舞が購入したカボチャジュースも、この売店に売っていたようだ。



「へえ? いつから好きなのだ?」


「昔からなのです。私くらい愛飲していると、無限に飲めちゃいます」


「昔? もう少し、具体的に教えてほしいのだ」



 歩亜郎が珍しく、一舞に対して、グイっと顔を近づける。その突然の行動に戸惑った一舞は、危うく持っていた飲みかけのカボチャジュースの紙パックを落としそうになった。



「ぽ、ポアロくん! 顔が近いのです!」


「お前の舞踏会は、この程度か? 下手な舞なら、もうやめてしまえ」


「え? 何を言って」


「そのカボチャジュースは一昨年に発表された、四季市と朝比奈飲料のコラボレーション商品だ。市内のみで販売されており、その証拠に四季市のゆるキャラ、河童堕天使の『カパるしふぁー』が描かれている」


「それが、一体何だと」


「お前、四季市内に帰ってきたの、最近のはず。それまでは少なくとも四季市ではない場所の、病院を転々としていた。そう昨日、言っていたはずなのだ」


「このカボチャジュースは、四季市外の一部地域にも――」


「その可能性もあり得るのだ。僕が嘘を吐いているかもしれないし」


「な、なんかポアロくん、変です」


「変なのは、お前の方なのだ。さっきから気配を殺したように、追い払われたように、周囲の人々に認識されていない。誰もお前を見ていない。どういうことなのだ?」


「他者は案外、自分を見ていないモノですよ」


「ふーん、あっそ」


「質問は以上ですか? 帰りますよ」


「いや? 最後に一つだけ――お前、何故エクステを着けている? 昨日、地毛だと言っていたよな? どこからどこまでが地毛なのか、僕に教えて――」


「いいかげんに、してくださいよ」


「手加減は、しない主義なのだ」



 一舞は歩亜郎の瞳を見る。


 彼の瞳は、紅く輝いていた。アイ・システムを起動し、想造力(イマヂカラ)を発動させているのだ。



「まあ、そんな荒ぶるなよ? 落ち着いてほしい――そうだ、デリシャスな紅茶でも飲みに行くか? すごいパフェもあるぞ? きっと、お前も喜ぶはずなのだ」


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