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シャットダウン・アンサーズ ‐答想聖解王と問題解決部の少年少女‐  作者: 羽波紙ごろり
【おうし座の運勢、程々の日】
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13/72

#10 僕の個人的な好き嫌いのお話なのだ

「さて、どうしたものか」



 神社を出た歩亜郎は、魔女――一無が放つ隠しきれない殺意を追いかけて、四季市市内を駆け巡る。土湖花野町(どこかのちょう)、阿地羅野地区(あちらのちく)。思い当たる場所にはとにかく足を運ぶ。



「どうやら僕たちは、殺意の欠片を追いかけているだけのようだ」


「(魔女のヤツ、殺意を街中にばら撒くだけばら撒いて、オレたちを翻弄してやがる)」


「こうなると魔女、一無は既に【他重人格(ケース・バイ・ケース)】で魂を入れ替えている可能性がある」


「(そのようだな。問題は一無が誰の肉体に憑依していたのか、ということだが)」


「魂のインストールには、身体の部位の移植が必要だ。後日、上手(かみて)先生に頼んで、市内に住む移植経歴を持つ者たちの名簿を閲覧するという手もあるが、市長が許さんだろうな」


「(しかしだぜ。ただ身体の部位を移植するだけじゃ、魂のインストールは起こらねえ)」


「ああ。お互いのアナムネーシス・ウイルスの同調も必要だ」


「(ならやはり、一無の魂がインストールされているのは)」


「可能性はゼロではない。が、僕は嫌(や)だね」


「(珍しいじゃねえか。てめえが答えを求めることに消極的になるなんて)」


「確かに僕は答えに飢えている。だからといって、問題介入には限界がある」


「(それは世知崎真矢の件を言っているのか?)」


「無理矢理問題に介入した結果、真矢はあのような目に遭ったのだ。もう繰り返したくはない。的当のためにも。ところで――」



 そこで歩亜郎は語気を強め、改めて歩和郎に語り掛ける。



「魔女はお前のことを知っていた。お前も魔女を知っているような口ぶりだ。関係は、何だ」


「(てめえには関係が無いことだ)」


「僕の十年前に失っている記憶と関係があるのか?」


「(お前は九十九歩亜郎。オレは環十村歩和郎。それで良いじゃねえか)」


「良くないのだ。僕にはお前の運命共同体として、知る義務がある」



 歩和郎との脳内会議の途中、歩亜郎は雑居ビルの屋上から、路地裏に降りる。そして大通りに出ると、そこで思わぬ人物と遭遇した。



「九十九!」


「お前、は」



 歩亜郎が遭遇したのは、土湖花野学園高等部の風紀委員会に所属する少女、継内瞳であった。このような人通りの多い場所で、何をやっているのだろうか。



「あなた、ここで何をしているの」


「人違いなのだ」


「何をしているの、と聞いているの」



 歩亜郎は瞳に背を向け、その場から離れようとするが、足が動かない。



「これは、【パニッシュ・チェーン】か」


「ちょっと、こっちに、来なさい」



 瞳の装造武想(イマジナリーアームズ)に身体を拘束され、そのまま路地裏に引き摺られていく歩亜郎。



「歩和郎。【喰乱壊答(アンサーイーター)】を使え」


「(無茶言うぜ。相手は継内瞳だぞ)」


「無駄よ。私の【罪庫確認(シンカウンター)】は相手の罪に応じて、罰を与える」



 瞳は壁際に歩亜郎を追いつめると、パニッシュ・チェーンの強度を上げた。



「質問に答えなさい。あなた、ここで何をしているの?」


「正義に対して妄信的なお前に答える義務はない」


「そう、魔女を追っているのね」


「何故、わかったのだ」


「あなた、以前から顔に出やすいもの」


「馬鹿な。僕はポーカーフェイスのはず」


「(てめえ、それ本気で言っているのか?)」



 瞳は大きく息を吸う。そして、意を決し、歩亜郎に向かって言葉を放つ。そこにはどんな悪にも屈しない曇りなき正義を信じる少女の姿があった。



「今、学園の風紀委員会が街の見回りをしている。【想造力学】の実験許可証、ライセンスを持っていないにも関わらず、悪意のある【想造力(イマヂカラ)】を振りかざす連中が四季市にはまだまだいるから。だからこうして正義の名の下に、この街を正しき道へ誘(いざな)うのよ」


「アンサーズは許可をもらっている。だから、何の問題もない」


「本当はアンサーズ、特にあなたには許可なんて出すべきではないと思う」


「お前たちも同じだろう」


「私たちには、正義がある」


「気持ちが悪いな。その答えが、正解とは限らないのに」


「だからあなたのように悪になれ、と?」


「僕は――悪よりも悪い、悪なのだ。その辺の安い悪と一緒にしないでもらおうか」


「これだから妄想に酔っている男は嫌いなのよ」


「お前も【答想者(アンサラー)】だろう。妄想に頼らなければ、自分を表現できないくせに」


「悪に何を言っても無駄のようね。だから、世知崎さんだって――あんな目に遭ったのよ」


「あの事件は風紀委員会全体の失態のはず。それを元委員の僕だけに押し付けるとは。やはり正義とは、マジョリティの立場に依存した人間というものは、一人の悪のせいにした方が楽だから、まだそんなことを言えるのだな」


「どのみちあなたのせいなのよ。あなたが風紀委員として、責務を全うしないから」


「正義に依存しているだけでは、本当に大切な人たちを救えんぞ」


「それが、あなたの答えなのね」


「ああ。僕は大切な人たちのためなら、正義も悪も超越した悪になってやるのだ」


「なら私は――正義を、執行する」



 瞳の中のウイルスの濃度が上がっていく。アイ・システムで力を制御して、その限界を超越しようとしている。彼女は、ここで歩亜郎に罰を与えるつもりだ。



「あなたも、魔女も、私が正義の名の下に、審判を下す。装着(ドレスコード)、【正義官(オーソドックス)】」


「ならその不快な正義、僕が燃やし尽くす。装着(ドレスコード)、【明探偵(ディテクティブ)】」



 歩亜郎も装造武想(イマジナリーアームズ)を顕現した。その溢れ出るウイルスにより、瞳のパニッシュ・チェーンを吹き飛ばす。しかし、彼女の福音の詩(ゴスペル・コード)が今にも始まろうとしていた。



「想像せよ、法廷の創造を――我は正義を、審(しん)じる者なり」



 瞳の世都内界(アニマ・スフィア)が周囲の景色を塗り替えていく。世界が在り様を変えていく。



「【現解突破(アンサーオーバー)】――【審じあう均衡法廷《イクアリティ・アンダー・ザ・ロウ》】」



 世都内界(アニマ・スフィア)が顕現し、心の中の世界が露わになる。それは溢れ出る想像が、この場を跋扈することを意味している。早々に決着しなければ、彼女の想造力(イマヂカラ)に呑まれるだけだ。



「(どうするよ、歩亜郎? オレの出番か? そうだろ?)」


「ダメだ。お前の【暴食魔王(ベルゼバブ)】の力をここで使うわけにはいかない。あれは魔女への対抗策だ」


「(なら仕方ないな)」


「そうだ。食欲を制御できないお前に継内瞳の相手はさせられん」


「(なんて、言うと思ったか? あいつの味見をさせてもらうぜ!)」



 歩亜郎の瞳が、紫色に輝く。他重人格(ケース・バイ・ケース)が発動したのだ。魂が裏返り、歩和郎が表に出てくる。彼は装造武想(イマジナリーアームズ)、フールを顕現すると、瞳に飛び掛かった。



「(何をやっているのだ、歩和郎。お前、さっき食中毒になったばかりだろう)」


「その食中毒自体を喰らってやったっての! もう、すっかり腹ペコだぜ!」


「あの事件の時と、雰囲気が似ている? 注意しなければ――」


「(歩和郎。【グラトニィ・トリガー】は使うなよ。使おうとするなら、僕は死を選ぶ)」


「わかっている、っての!」



 歩和郎はフールを振り回し、瞳に向かって連続で叩きつけるが、威力はあるものの速度の遅い彼の攻撃は、そもそも彼女に当たらない。これは、歩和郎が勢い任せで暴れているだけだからである。苛立つ歩和郎。



「ちっ! 一気に決めさせてもらう! 【天致想造(イメージストライク)】! フール・スラッシャー!」


「そうは、させない。【後手必勝(カウンター)・天致想造(イメージストライク)】」


「何?」



 地面から幾本ものパニッシュ・チェーンが出現し、歩和郎の身体を拘束する。



「はん! こんなもの!」


「その鎖は【罪庫確認(シンカウンター)】によって、あなたの罪に応じた強度を持っている。抵抗すればするほど、罪が増えていくだけよ」



 瞳は新たな装造武想(イマジナリーアームズ)を顕現する。正義鉄槌の異名を持つジャッジメント・ジャスティスだ。鉄槌型の装造武想(イマジナリーアームズ)である、それを大きく振り上げ彼女は跳んだ。



「ドミネ・クオ・ヴァディス!」



 瞳の天致想造(イメージストライク)はカウンター型だ。相手の攻撃を逆手に取り発動する。相手の攻撃を罪であると強く認識することができる強い想像が必要だが、それを彼女が制御していることは、ここで述べることでもないだろう。



「【喰乱壊答(アンサーイーター)】! その答えを喰らえ!」



 歩和郎は左手の掌を前に突き出す。しかし、掌に出現した大きな口をパニッシュ・チェーンが縛り付ける。罪庫確認(シンカウンター)が、彼の想造力(イマヂカラ)の発動を罪であると判定したのだ。


 これでは、相手の答えを喰らうことができない。



「歩亜郎! 【グラトニィ・トリガー】を使わせろ! このままじゃ、ヤツの【天致想造(イメージストライク)】がオレたちに直撃するぞ!」


「(ダメだ。それは、最後の手段なのだ)」


「今使わなきゃ、いつ使うんだっての!」


「(僕に考えがある。交代しろ、歩和郎)」


「ああっ? ああっ、そういうことか!」



 歩和郎がニヤリと笑う。歩亜郎の考えというものに、心当たりがあるのだ。



「【他重人格(ケース・バイ・ケース)・人格交代(パラダイムシフト)】! 【明探偵(ディテクティブ)】!」



 再び魂が裏返り、歩亜郎の魂が表になる。瞬間、身体に纏わりついていたパニッシュ・チェーンが弾き飛ぶ。拘束から逃れた歩亜郎は、瞳の一撃から免れた。



「チェーンが、切れた?」


「お前のチェーンは、歩和郎の罪に反応していただけなのだ。僕と交代したことで罪のカウンターがゼロになり、拘束力が失われた。だから、脱出できたのだ」


「よくわからないけど――なら改めて、あなたの罪を数えるだけよ」


「果たして、そんな時間がお前にあるのかな?」


「何を言って――なっ!」



 瞳が自身に纏わりついているパニッシュ・チェーンの存在に気が付いたのは、そのときであった。持ち主であるはずの瞳の制御下から外れた鎖は、そのまま拘束の強度を増していき、彼女の自由を封じた。



「馬鹿な! あなたの【想造力(イマヂカラ)】は【最終怪答(ファイナルアンサー)】のはず! 【罪庫確認(シンカウンター)】の能力をあなたは持っていない! なのに、何故!」


「ああ、だから――これが僕の、【最終怪答(ファイナルアンサー)】なのだ」


「ただ最適解を出すだけの【想造力(イマヂカラ)】に、こんな芸当はできないはずよ!」


「僕が嘘を吐けない、嘘を吐いてもすぐにバレることはお前も知っているはず」


「拘束を解きなさい! 今、すぐに!」


「心配しなくても、僕にそういう趣味はないから、すぐに解けるさ」



 歩亜郎は瞳に背を向けると、土湖花野学園の寮がある方向へ歩き出す。後ろで瞳が何か言っている。言い続けているが、彼は気にしない。いや、気にしてはいるのだろう。


 しかし、届いていないのだ。心に言葉が、届かない。ただ、それだけ。



「九十九、歩亜郎。それだけの力がありながら、何故正義を執行しない」


「僕は正義そのものを否定しているのではなく、正義に群がる連中が嫌いなだけ。これは肯定とか否定の問題ではなく、僕の個人的な好き嫌いのお話なのだ」


「待ちなさい、九十九!」


「あばよ」



 歩亜郎の姿が見えなくなり、瞳の身体が自由になる。想造力(イマヂカラ)の射程範囲から外れたのだろう。しかし、もう瞳には歩亜郎を追いかける気力は無かった。



「私は許さない。悪を許さない。魔女も、探偵も、私が――誰で、あろうと」


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