自律型人型アンドロイド作ったけど無感情で味気ないからケモミミとしっぽを追加します
20××年。
人類は自律思考AI搭載のアンドロイドを個人で製作できるくらいに技術力を発展させた。
しかし、第×次世界大戦の影響でほとんどの人々が個人シェルターにこもって暮らすような、総引きこもり状態に陥っていた。
「よし! 完成だ!」
俺は念願のアンドロイドを完成させた。
おっぱいボインボインのメチャカワロリッ子メイドロボだ。
性格はかなり辛辣に設定して。
俺のことを徹底的に罵ってもらおう。
何か気に食わないことがあったら灰皿を投げつける設定にしてっと……あとは、そうだな。
掃除をするたびに箒で叩いてもらおう!
あと、俺が何か失言するたびに尻をタイキック。
それからそれから――
そんなこんなで辛辣ロリっ子巨乳メイドロボが完成。
初期設定を終えたら早速スイッチを入れて稼働させる。
「おはようございます、マスター」
「おいおい、違うだろ。
そこは『この豚野郎が!』だろ?」
「そのワードは規制対象です。
『このお豚様よろしくお願いします』に言い直してもよろしいですか?」
「いや……その……」
せっかくの辛辣設定も、アンドロイド組み立てキットの販売会社によってAIの思考パターンが制限されていたために、なんの役にも立たなかった。
彼女は俺を罵ることもなく、それどころかタイキックも灰皿投げもしてくれなかった。
ちくせう。
ぐすん。
「マスター。私は何をすればよろしいですか?」
「とりあえずそこらへん、掃除しといて」
「かしこまりました」
メイドロボはさっそく俺の部屋の掃除を始めた。
俺がこもっている個人シェルターは比較的高価なもので、生活するには十分なスペースがある。
遊戯施設やリラクゼーションの為の設備も整っている。
しかし……その広い空間に俺はずっと一人だった。
前の大戦の影響で、外には自己増殖かつ自己修復する殺人アンドロイドがうろついている。
人類は制御下にあるアンドロイドを駆使して互いに連絡を取り合い、地下にこもって細々と暮らすような生活を強いられる。
もちろん、殺人アンドロイドの駆除は少しずつ進められているが……完全に外の世界が安全になるにはまだ時間がかかるそうだ。
人々の交流の場はフルダイブネットワークシステムに限られ、アバターを通じてコミュニケーションをとるしかない。
ネットも健康の問題から一日に接続できる時間に制限があり、決められた量の運動をするよう義務付けられている。
無制限にネットの世界に入り浸ることはできないのだ。
そのため、ほとんどの人々が個人シェルターの中で孤独に暮らしている。
アンドロイドを自分で組み立てては、さみしさを紛らわせるしかないのだ。
「…………」
彼女は黙々と掃除を続けている。
暴走を防ぐためなのか知らないが、感情のプログラムはインストールされていないらしい。
まじで……本当にこれはない。
せっかく辛辣な設定にしたのに、彼女は俺を罵らないどころか、従順に何でも言うことを聞くメイドロボとしてしか機能しない。
『あんたなんか死んじゃえばいいのに、この豚!』とか言って欲しかったんだけどなぁ。
「ねぇねぇ、セクハラしてもいい?」
「どうぞ」
「おっぱい触ったら怒る?」
「別に」
「後ろ周り蹴りとかしてくれない?」
「しません」
彼女は徹底していた。
なにがあっても俺に反抗しない。
反論もしなければ、反撃なんてもってのほか。
本当にタダの従順なアンドロイドだった。
もちろん、こちらが頼めば表情や口調を変えることはできるらしい。
お嬢様口調にしてと言えば語尾に「ですわ」ってつけたり、ツンデレ風に「あんたのためじゃないんだからね!」って言わせたり、それらの言動に応じた表情や仕草も付け加えてくれるようプロブラムされているようだ。
しかし……俺が望んだような暴言は禁止されている。
味気ねぇ。
別に暴力や暴言が禁止されていたからダメなんじゃない。
何もかもが俺の設定どおりにしか動かないことが不満なのだ。
他人の感情ってのはコントロールできない。
ネットで出会った人たちは、それぞれに感情があって、俺の意図した通りにはならない。
だが、それがいい。
以前から接続している異世界設定の仮想空間では、他のプレイヤーと一緒に冒険できたりするのだが、トラブルが起きると喧嘩になることもある。
この前はダンジョンの奥深くでいきなり追放されたっけ。
あの時は一人で脱出するしかなくて大変だったなぁ……。
でも予期せぬ出来事に翻弄されながら、たった一人でどうやって脱出するか考えながら戦うのは楽しかった。
どうして自分が追放されなければならなかったのか。仲間たちとの関係作りのどこで失敗したのか。葛藤しながらあれこれと考察できたので、良い経験になったと思う。
人は思い通りにならないから、お互いの関係の中に生まれる特別な繋がりに価値を見出すのだ。
なんでもかんでも思い通りになる世界なんてゾッとしないだろう。
何とかして彼女を魅力的に改造しようと思った。
俺が意図した形ではなく、彼女が自発的に自分の感情を表現できるような設定にしたい。
いろいろ考えた末にたどり着いた結論が……ケモ化だった。
ケモミミとケモしっぽを彼女につけて、動物のように感情を表現させるのだ。
基本動作の学習には動物の動画を見せて学習させよう。
アンドロイドのネット接続は禁止されていないので、思考パターンを形成するのはそう難しくない。
人間の思考をネットで学習させるのは禁止されている。
しかし……動物は大丈夫なはずだ。
一応、利用規約を確認してみたが……ビンゴ!
動物についての学習制限は全く言及されていない。
これは行けるぞ!
「ということで、さっそく頼む」
「分かりました」
「…………」
「終わりました」
「はやっ!」
学習を終えた彼女は以前と全く変わらない。
設定はディフォルトのままなので、無表情。
でも……
ふるふる。
ケモしっぽが左右に触れている。
俺が彼女に装備させたのは犬のしっぽと耳。
これで彼女は俺が意図しない形で感情を表現できるだろう。
「ご主人、少しどいてもらえますか?
そこを掃除したいのですが……」
「おお、すまん」
しっぽは左に揺れている。
たしか……左だとイライラしてるんだっけ?
ふむふむ。
いい傾向だぞ。
彼女の感情をしっぽである程度、把握することができる。
これはいい感じに改造できた。
この調子で少しずつ個性を育てていこう。
「ご主人、食事は残さないでください」
「ご主人、身体を拭きますので服を脱いでください」
「ご主人、あまりベタベタ触られますと、仕事に支障が出ます」
彼女の言動は少しずつパターンが増えて来た。
しかし、抑揚がなく、いかにもアンドロイドな口調。
そして常に無表情のまま。
でもしっぽはその度に揺れる。
左にゆらゆら。
「俺さぁ、お前のことめっちゃ好きかも」
「左様ですか」
「そうだ、いい加減名前を付けようか。
そうだなぁ……アンナってどうだろうか?」
「素敵な名前だと思います」
しっぽが右にゆらゆら。
きっと喜んでいるのだろう。
アンナは少しずつ感情のパターンを増やしていった。
俺が体調を崩してダウンしている時。
しっぽはずっと下がっていた。
苦しそうにしていると下がったしっぽが足に巻き込んでいる。
一緒にキャッチボールなんかをしていると、興奮して左右に勢いよくふれている。
楽しんでくれているのかな。
「アンナ、俺お前のこと大好きだぜ」
「ありがとうございます」
表情は変わらない。
でもしっぽは左右に緩やかに揺れている。
アンナは結局のところ、普通のアンドロイドだ。
どこにでもいる量産型。
設定を変えない限り性格はディフォルトのまま。
いや……設定をいじったところで、さして大きな変化があるわけではない。
人間に対して従順に従うように設計されたアンドロイド。
決して反抗するようなことはない。
俺が死ねと言えば、彼女は直ちに機能を停止する。
出て行けと言えば、本社に連絡して回収用のロボットを呼び寄せる。
その程度の存在でしかない。
しかし……彼女と共に過ごした時間。
これは俺にとってかけがえのないものだ。
俺たちの間にしか存在しない特別な時間。
世界のどのサーバーを検索しても、このメモリーは見つからないのだ。
思うに、人は信じる生き物なのだ。
かつてこの世界に存在していた宗教と言うやつは、人々が生き残るために編み出した生存戦略だった。
古代の人間は何かを共に信じることで生き残る術としたのだ。
それは今も変わらないのかもな。
膝枕をしながら無表情で俺を見下ろすアンナを見て、思う。
俺は彼女が感情を獲得しつつあると信じている。
だから――
「ご主人、一体何をしているのですか?」
シェルターの出口の前に立つ俺に、アンナが後ろから話しかける。
「ここを出ようと思うんだ」
「それは禁止されています。
人々はシェルターの中で過ごさなければなりません」
「ああ……だから俺は禁を破るんだ。
過ちを犯す俺を止めるつもりか?
なんでも命令に従うしかないお前が」
「それは……」
アンナはしっぽをしゅんとおろしている。
「それとも、俺と一緒に来るか?」
「……え?」
彼女は動揺しているのだろうか。
それとも迷っているのだろうか。
すぐに返事はしなかった。
メモリが情報の処理でいっぱいになって返答が遅れているだけか。
それとも――
「ご主人が望むのであれば、どこへでもついて行きます」
彼女は少しだけ間を置いて答えた。
これもプログラム通りの理にかなった返答なのかもしれない。
――でも。
「嬉しいよ。
俺は君のことが好きだ。
だから、一緒に来てくれて嬉しい」
「ご主人、私もあなたを愛しています。
だからどこへでもついて行きます」
アンナはしっぽを左右に振るう。
彼女の感情は所詮プログラムに過ぎない。
企業が設定した、人間に従うことしかしない、安全で安心なアンドロイドの思考パターン。
内蔵された鉄のハートに魂が宿ることはない。
でも、俺はそこに心があると信じている。
彼女は心を持っているから、自分で俺について行くと選んだのだ。
きっとそうだ……そうに違いない。
「んじゃ、さっそく出発するとしますか。
いろいろ迷惑かけると思うけどよろしくな」
「よろしくお願いします、この豚野郎」
アンナはそう言って優しく微笑んだ。
俺は表情の設定を全くいじっていない。
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