第9章
それから一か月後、ロボットはラボの正式な開発テーマになることが決定した。正式なテーマは三つになったが、そのうちの一つに選ばれた。
「二番目のテーマまではすぐに決まったんだけど、三番目のテーマはロボットと新型カメラのどちらにするかで意見が割れてね。最後は尾上さんがロボットで押し切ったのよ。人の感性に訴える新しいビジネスチャンスだって。カメラは既存の市場の延長だけどロボットは市場の創造だと訴えたら、カメラ派だった開発部の橘部長はビジネスのことはわからないから反論できずに押し切られた形ね。錦戸所長も市場創造というところが気に入ったみたい」テーマ決定会議に補佐として同席したかおるちゃんが教えてくれた。
「ロボットの企画の担当は八雲さんだから頑張ってね」
「はい。こんな面白いテーマを担当できるなんてラッキーだと思います」
「面白いけど、そう簡単じゃないよ。まずちゃんとした物ができるか。そしてそれが人の共感を得られる、本当に感性に訴えるものになるか。更に価格も手に届くものになるか。課題は一杯ある」相変わらず渡辺課長はロボットには好意的ではないようだった。
「はい。やってみないとわからない部分はありますが、この前動いている腕をみて、自分も面白いなって思いました。ちょっと気味が悪いけど、なんか心がざわついたんです。理屈とかじゃなく、なんか本能的なものが揺さぶられました。それって感性に響いているということだと思うので可能性は大いにあると思います」
「そうかあ、直観っていうのは大事だからな。俺もいけると感じた商品はだいたい成功した。論理立てて考えて企画した商品は逆にダメだったことも多い。俺も課題が大変だなって思うけど、面白いとは思ってる。企画初心者にはきついかもしれないけど頑張って。困ったらサポートするから」渡辺課長のその言葉は心強かった。
「ありがとうございます」