第6章
建物が細長いので職場の部屋は幅が狭く入り口から奥まで細長く続いていた。僕たち企画部の場所は入口近く、その奥に開発部のエンジニアの机が並んでいた。エンジニアの机は作業台とも呼ばれ、机の上の棚にはオシロスコープなどの測定器が積まれていた。真ん中を貫く通路からは両側に測定器の連なりが見えるだけで席に座るエンジニアの顔は見えなかった。有馬さんの作業台は、一番奥の端っこにあった。奥まったところが落ち着いて好きなんだと有馬さんは言っていた。昼食を終えた昼過ぎに僕は有馬さんの机を覗きに行った。
「よう、今日は何を食べた?」
「そこのそば屋で冷やしたぬきうどんです」
「また外に食べに行ったんだ。企画部は余裕があっていいねえ。俺なんか社食でA定食だよ。三百円」
「別にお金があるわけじゃないですよ。気分転換に外に行くのもいいなと思って」
「企画部は女の子も多いしな。一緒に食べてると楽しいでしょ」
「え、まあ」
「羨ましいなあ。ま、俺は一人で食べるのが好きだから別にいいけど」
「ところであのアクチュエータを使ってなんかできました?」
「お、これ見て」
机の上に長さ三十㎝位の金属の二本の棒がつないであり、茶色のベークライトの板の上に立つように固定されていた。棒の横にはこの前のアクチュエータが見え、そこにコードがつながれさらにその先には電気の基板やパソコンがあった。有馬さんがパソコンのキーボードをたたいた。すると金属の棒が動き出した。それはまるで二本の棒がつながったところを関節として腕が曲がったり、伸びたりしているようだった。
「わ、すごいですね。腕みたいだ」
「スピードも変えられるよ」有馬さんがキーボードを叩くと腕の折れ曲がりの動きが速くなった。
「結構、力も出ているし、反応も早い。なんか面白い物を作れそうだな」
「あれからまだ一週間しか経ってないのにここまで作るって、有馬さん仕事早いですね」
「面白そうだと手も早く動くんだよ」
「作るもののイメージはできました?」
「うーん、まだ具体的じゃないけど、犬みたいな小さなロボットかな」
「犬?」
「アクチュエータも小型だし、人間みたいなものを作っても気持ち悪いじゃない。 犬みたいな、ペットみたいなものがいいかなと思って」