突然のキャラ変更
「べ、別にあんたのことなんて好きでもなんでもないんだから…!勘違いしないでよね!!」
黒髪ツインテールの美少女が、顔を真っ赤に染め上げて大声をあげる。
腰に手を当てて、目の前の男子生徒に向かって「完璧!」と言わんばかりにドヤ顔をしながら。
(このセリフ、リアルで聞くと結構アレだな)
「あー…うん、やっぱりやめないかコレ」
その言葉をどこか他人事のように聞き入ってしまう一条真幌は、緩んでしまいそうになる口元を必死に抑えて答えた。
そして、自分の思っていた斜め上を行く行動をとった可愛未羽に、脳内で文句を言った。
(思ってた以上にめちゃくちゃ恥ずいんだけど!?!?
どうしてくれるんだよこの空気!!)
頭をフル回転させ、未羽をどうすればこんな感じになる前に戻せるか本気で考え出した。
全て、自分が引き起こした事だというに。
◇◇◇
時は遡ること30分前。
偏差値そこそこの公立高校に通う男子高校生一条真幌は、昼休みに入るや否やスマホを取り出して最近ハマってるゲームアプリを起動した。
(今日は遅刻しそうだったから、まだログインできてなかったんだよな。数学の小テストはあるわ体育はあるわでほんと忙しかった…)
お昼ご飯もそっちのけでスマホに集中し、疲弊しきった頭と体を休めるべく画面に見入っていた。
もっとも、小テストの勉強はしていないしするつもりもなく、ただ数学の教科書をボーッと眺めていたから赤点ギリギリだし。
先週から始まった種目のサッカーでも、なるべく体力消費しないよう、でも「あいつ動いてなくね?」と思われない程度に上手くやり過ごしていたためそこまで疲れていない。
ただ単に、すぐにでもゲームがしたかっただけだ。
(まぁでも、昼メシは食べといた方がいいか。普通にお腹空くし)
それでもやはり、午後の授業に差支えがあっては困る。
腹がグーグー鳴っては授業にもならない。
(購買…は、混んでるか。でも、他に買う場所もないから仕方ない)
重い腰を上げて、スマホをポッケにしまおうとしたとき。
ガラガラッと勢いよく教室のドアが開いて、クラスメイトの半数以上はそちらに視線をやる。
そして真幌も同じように目をやり………絶句した。
(…………………え???)
そこにいたのは、他でもないクラスメイトである可愛未羽という女子生徒。
だが、いつもとは様子がちょっと…いやかなり違っていた。
「…な、何よ。ジロジロ見ないでくれるっ…?」
吐き捨てるように言った彼女の言葉は、どこか不慣れに思われる。
それもそのはず、本来の未羽はこんな性格ではない。
いつもは下ろしているはずの黒髪を、高い位置で二つ結びにした、いわゆるツインテールにしていてる。
長い前髪で隠れていたのであろうパッチリ二重は、少女漫画のヒロイン並に大きくまつげも長い。
校則をきっちり守った膝まであったスカートの丈は、短くおられているため、今まで見えなかった白くて細い足と太ももが露わになっている。
内気で友達も少なく、自分から話しかけることなんて滅多にしない彼女が美少女に変わり果て、自分からそんなことをクラスメイト全員に向かって言ったという事実が、どれほど異様に映ったことか。
(これで見るなって言う方が無理あるだろ!!
え、なにイメチェン?イメチェンなの??)
心の中でそうツッコまざるを得ない状況に、真幌は今世紀最大級に驚いていた。
これまで「大人しそうないい子だなぁ」くらいに思っていた存在の彼女を、クラスの男子たちはまじまじと見ている。
そんな未羽はつかつかと足を進めると、ある男子の前でピタリと止まった。
(なんで俺の席に?隣じゃないよね?どうして?)
真顔のままやってきた未羽を前に、頭の中は「???」マークで埋め尽くされた。
互いに存在しているということだけを理解している関係だ。
これといった接点もなければ、普段話したりする間柄でもない。
真幌は困惑の表情を浮かべながらも、平然を装って笑顔を貼り付ける。
「お、おはよう可愛。えっと…俺に何か用か?」
さして当たり障りのない言葉を選ぶ真幌だが、その態度が気に食わなかったのかあからさまに顔をしかめた未羽。
何に不満を持っているのかさっぱりわからず、笑顔を保つことしか出来ない。
(ちょっ、これどうすればいいんだよ…!!
誰も助けてくれねえし!!)
若干冷や汗が流れ、顔もひきつってきた。
クラスメイトは真幌と未羽の会話がどう転ぶかハラハラしながらも、特に割って入る者はいない。
傍観することに徹している。
(容姿が変わったことを言うべきか?でもこれは、気づいて欲しいのか欲しくないのかイマイチわからん…!)
下手に何か言って自分のイメージダウンに繋がりでもしたら困ると考えた真幌は、覚悟を決めて未羽を真っ直ぐに見つめた。
(あーもう、こうなったら一かバチかだ!!)
「っとごめんな、約束してたこと忘れてたわ。とりあえず行こうか」
「え…あ、ちょっと…!」
驚きの声を上げる未羽を無視して、彼女の手を取り走り出す。
(確かここらへんに……お、あったあった)
渡り廊下を渡って右を曲がり、その一番奥の教室に入り込む。
「…はぁ、ここなら誰もいないだろ」
廊下を見て誰も来る気配がないことを確認した真幌は、今度こそ未羽に問いかけた。
「えっと…可愛、その…イメチェン、したんだよな?」
勇気を振り絞った真幌だが、その勇気も虚しく未羽は下を向き黙りこくっている。
(えぇいこの際どうにでもなれ!!)
沈黙=肯定だと解釈し、もし違っていたらそれはそれだと割り切った。
「さっきは言えなくてごめんな。でも、案外そういう格好もいいよ。似合ってると思う。あ、もしかして俺に気付いて欲しくてイメチェンしたとか…?なーんつっ…」
何か言われるのが怖くて無駄に早口になりながらも、最後はおちゃらけに逃げようとしたのだが。
「…っ、そうよって言ったら、どうするの?」
(……っはぁ!?)
予想外の返答に、大ダメージを負う真幌。
いきなりのデレにどうすればいいのかわからない。
(というかやっぱりこれツンデレキャラになってるよな??なんでこんなことになってんだよ…)
よく聞くツンデレキャラっぽいセリフを自分に向けられて、羞恥心が真幌を襲う。
「こ、これで合ってる…の?やだ、やっぱり勉強不足だったらどうしようっ…?」
……のもつかの間。
今度は未羽の方がさっきと打って変わって、本来の彼女に戻った。
(…うん?これはどういうコトかな…??)
赤面する未羽は一人であたふた騒ぎながらスカートを握りしめている。
短くしたスカートを握りしめれば、そりゃもっと丈が短くなるわけで。
(おいおいダメだろ見えちゃうだろ!?
いや普通にご褒美だけども!!)
意図せず見えてしまいそうになる未羽の下着を想像してしまい、それをかき消すために未羽の肩を掴む。
「ちょっ、可愛一旦落ち着け?何があったんだ?」
優しく落ち着かせるように言うと、涙目の未羽は真幌を見上げて瞳を潤ませたまま口を開いた。
「…一条くんが言ったんじゃない。こういうのが好きだって」
まだツンデレを諦めていない様子の未羽は、真幌の視点から見ればかなりくるものがある。
火照った頬をそのまま両手で包みたくなるような、圧倒的美少女の可愛さが炸裂している。
だがこの状況で「まだ言うか」と言いたくなる真幌は、そんな彼女に呆れながらも未羽の言葉を疑った。
「……え?」
言った覚えはないと言い返そうとして、口を噤む。
「…ほら、あるでしょう?自分の胸に手を当てて、よーく考えたら?」
(もしかしなくても、アレのことか…?)
真幌は3日前の記憶を掘り起こした。