「第4回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞」参加作品シリーズ
気になるあの子と夏祭りに行くことになったんだけど思ってたのと違う
今週末、夏祭りがある。
今はもう12月だから完全に冬祭りなんだけど、それでも構わない。
このご時世下で、ようやく開催に漕ぎつけた祭りだ。尽力してくれた関係者には感謝しかない。
高校生活が終わる今年、青春の一ページを彩る最初にして最後のチャンス。校内はお祭りムードに沸いている。そこかしこで交わされているのは、誰と行くか、誰を誘うかの話題ばかりだ。
「魚住さん、俺と一緒に夏祭り行ってくれ!!」
「良いぞ」
「やっぱり駄目だよなってえええっ!? 良いの?」
まさかのOK。
魚住 愛結さんは黒髪をシンプルに束ねた和風美人。秘かに憧れている人間は多いが、どこか近寄りがたい雰囲気もあって、浮いた噂もない。
駄目元で誘ってみたけど、勇気を出して本当に良かった。
夏祭り当日。最寄りの駅前で魚住さんと待ち合わせ。
「あの……魚住さん? その格好は?」
「おお、わかるか? カワノの新作モデルだ。海にも川にも対応している」
うん……見事なフィッシングスタイル。
「ところで、ナツマとはどんな魚なんだ? ワクワクするな」
「……へ? あの……一体何の話?」
「ナツマ釣りに行くんだろう?」
……どうしよう。これは天然モノ。
だけどこのチャンス逃したくない。
「魚住さん、実は夏祭りはお祭りで、釣りじゃないんだ」
「そうなのか……」
がっかりした様子の魚住さんに心が痛む。
「で、でもさ、ヨーヨー釣りとか金魚すくいとかあるから!!」
「ヨーヨー釣り!! ヨーヨーとはどんな魚なんだ?」
ぱーっと笑顔になる魚住さん。
「ごめん魚住さん、ヨーヨーも魚じゃないんだ」
「そうなのか……だが、釣りには違いないのだろう? 狙うは大物!!」
ヨーヨーに大物とかあったかな?
「ふはは、大漁大漁、ちょろいものだな」
抱えきれないほどのヨーヨーが、まるで色とりどりの宝石みたいに魚住さんを輝かせている。
「魚住さん、そんなにたくさんのヨーヨーどうするんだ?」
「そうだな、湯船に並べて筏にでもする」
少年のようにはしゃぐ魚住さん。思っていたのとは違うけど誘って良かった。
「今日は楽しかったな。そうだ、もし釣りに興味があるなら教えてやろうか?」
温かいココアを飲みながらの帰り道。
「興味あるのは、あ、アユ釣り……なんて」
さすがにあからさま過ぎたかな?
「ほう……? 鮎釣りとは良い趣味だな。どうだ? 来週あたり行くか?」
……全然大丈夫だった。
「あ、俺道具とか持ってない」
「家、釣り具屋だから寄ってく?」
「うん」