1話 廻る魂、繋がる世界
ブックマーク、ありがとうございます。
代わり映えのしない日常、今日もそのクソくだらない日々を生きている。
一応名門と言われている高校に入り、もうすぐ卒業を迎える三年生。彼女なんているわけない。
両親も兄弟も皆死に、親戚からも見限られている。なので実質独りぼっちだ。友人もいないしな。
顔は平凡だが、成績は学年5位以内に入るし、運動もそこそこできる。だがモテない。正確には、俺の理想とするような女子にモテないのだ。
俺の理想は、俺の心に寄り添い、孤独を癒してくれる人。でもそんな女子は何時まで経っても現れない上に、逆に俺の心の傷を抉ってくる者までいる始末。なので早々に諦め、どうやってこの退屈な日常を終わらせようか考えていた。
そして、俺は出会った。この“異世界転生”という、素晴らしいジャンルに…!
つまらない日々を終わらせたいと願う少年少女が、ある日突然異世界に転生するという、このストーリー…まさに俺が求めていた展開だ。
それからというもの、俺は“異世界転生もの”にのめり込み、本屋・ネット中の漫画や小説を漁りまくった。次第に仲間ができ、友人を手に入れることができた。そしてそれを皮切りに、段々と“毎日が楽しい”と思えるようになっていった。
そんなある日、友人の1人が
「なぁ晶、俺達と旅行に行かないか?」
と聞いてきた。言葉の意味がよく分からず、首を傾げていると他の友人達が
「実は、最後の学年だから旅行に行こうって話を前々からしてたんだ」
「そんな時お前が入ってきて、皆で行こうってなったんだ。ほら、お前にはまだ予定聞いてなかっただろ?」
と口々に言ってきた。断る理由もないので、とりあえず了承の意を示したら皆喜んでいた。
実は、友人達との旅の思い出を作ることができるというのが嬉しくて承諾したのだが…そんなことは恥ずかしくて言えないので、あいつらには秘密だ。
とにかく、その日はウキウキして家に帰った。
それから二カ月後…
俺達は、飛行機に乗っていた。
「まさか旅行先が国内ではなく海外だったとは…雪兎も人が悪い。」
「馬鹿、最初に言っただろうが。話聞いてなかったのかよ……なーんちゃって。俺は国内だとは“一言も”言ってないぜ?海外だった場合を想定してなかったお前が悪い」
「報連相をしっかりしないのも問題だが…今回ばかりは雪兎に分があるな」
「ぐっ…確かに…」
「おい、それだといつも俺に分がないみたいじゃねぇか」
「?違うのか?」
「当たり前だ!」
「お前ら静かにしろよ」
「「あ、あぁ悪い」」
とまぁ、こんな雑談をしながら。
暫く雑談を楽しんでいると、突然、機体が大きく揺れた。
「「「「うわぁっっ!!」」」」
何だ?何が起こった?そう思って窓の外を見るとなんと、機体がバランスを崩し落下しているのだ。
しかも、落下先には大森林がある。上手くいけば衝撃が殺され、助かるだろうが、下手をすると…考えたくもない。
他の乗客達もそのことに気付いたらしく、パニックに陥っていた。そしてついに…
ドカァァンッッ…!!
墜落した。
…何か…聞こえる…?声…?
「……きら、あきらっ、晶!」
た…くみ…?どうしたの?そんなに慌てて…?
「お願いだから、目を覚ましてくれ…!血が…血が止まらないんだ…!」
…血?何を言って…
その時、消えていた感覚が急に戻り、全身を灼けつくような痛みが襲った。
なんだこれ…熱い…痛い…
…匠は…そう思って重たい瞼を無理矢理こじ開けると、
「…!晶っ!良かった…」
全身血塗れの友人がいた。
他の二人は…と思って周りを見渡して見ると、
「…っ!」
見るも無惨な光景が広がっていた。
辺り一面は焼け野原。所々に焼け爛れた死体が転がっており、機体はバラバラ。運の悪い人は串刺しになっている。
奇跡的なことに、俺達四人は命がまだあった。窓側にいた俺が一番重症らしい。
だが、俺はもう駄目だろう。命こそあるが、出血が止まっていないし、内臓もぐちゃぐちゃだ。寧ろ、よくこんな状態で生きているなと思う。
…段々寒くなってきた。そろそろか。最後に、伝えられなかったことを言おう。
「…た…くみ。なな…み。…ゆきと。俺は、もう、駄目みたいだ…だから、最後に、伝えたい。
…あり、がとう。お前らと出会えて…幸せだった…生き、ろよ…」
「…っそんなこと言うなよ!お前も生きるんだよ!」
「そうです!諦めないで下さい!」
「晶…!俺達はお前がいないと駄目なんだ!だから…逝かないでくれ…!」
ごめんな。そういうわけには、いかないんだ…
できれば、もう少し一緒に居たかったが…もう、それもかなわないな。
でも、お前らに囲まれて死ぬからか、不思議と、寂しくないな。
そして俺、井藤晶は死んだのだった。
この時偶然、ある異なる世界の時空が歪み、俺を含む何人かの“魂”は、その世界に吸い込まれて行った。この“魂”達はその世界の女性達の胎内に宿り、宿主の子供として生まれ変わることになる。
皮肉にも、晶は念願だった“異世界転生”を果たすことになったのだった。
代わり映えのない日常が、友人達と出会い変わった。もし、生まれ変わることができるなら、またあいつらと友人になりたいな。それに、生涯を共にする人を見つけたい。
《…て、…》
…ん?誰かいるのか?
《…けて、…すけて…》
…おーい?って、聞こえてないのか?
《…けて、…助けて…誰か…!》
その言葉を聞いた瞬間、俺の意識は闇に包まれた。