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Summerstory 引きこもりの唄 六

スローテンポですので悪しからず。

「それでは、今日は帰らせてもらいます」

 私と先生は玄関で頭を下げた。まあ、下げたのは私だけで先生は中指を立てているだけだったけど、先生の名誉の為に嘘をついておく。

 平和のための嘘である。

「はい……今日は本当に申し訳ありませんでした。特におもてなすことができず」

「いえいえ、そんなことはありませんよ」

「次はロマネコンティ持ってこい」

 来た時にルイージマンションと判断されたこの家のぼろさから、そんなに家計が潤っていないように伺える坂下家に無理難題を先生は押し付ける。

 真弓父は「あははは……」と苦笑浮かべるしかなかった。

「それではまた明日」

「はい」

 もう一度私と先生………いや私は頭を下げて、坂下家を後にした。

「とりあえずブックオフでコナンでも立ち読みすっか」

「なんでコナンなんですか。腕が疲れます。読むなら完結してるのにしましょうよ、例えばレイブとか」

「アニメ版がかなり中途半端に終わったからやだ」

 ああ、たしかに。

「最近多くないか?原作は面白いのにアニメが微妙だったりなやつ。ヘルシングとかパンプキンシザーズとかソウルイーターとかツバサクロニクルとかシャーマンキングとかブラックラグーンとかアイシールドとか」

「いやそこまで詳しくはないですけど」

「まあ難しいもんなのかな、原作が続いてるのに波に乗ってアニメにして原作が終わらないでアニメを終わらせるっていうのは」

「いや知りませんってだから」

「せめてリメイクしてほしくないか?カノンだってリメイクしたし、ハガレンだってやり直してるだろ。犬夜叉だって完結編だぞ?原作知らない、それで前の犬夜叉を見てた子供は、は?なんだそれ?ってなるぞ」

「いや多分、犬夜叉だったら誰だって原作の存在くらいは知ってると思いますけど」

「あたしとしてはAirとH2O、それとHUNTER×HUNTERのキメラアント編は書いてほしい」

「……急にそういう路線で話さないでください。あとでどうなるか知りませんよ?」

「コードギアスもリメイクしてほしいな。あれはあれで面白い結末だったけど、やっぱあたしは――」

「だからやめてください!!殺されますよ!!」

 危ない危ない。

 あのままだと確実にネタバレに繋がりかけない。

 あのアニメは私の中で『全高校生に見てほしいアニメ、漫画、ゲームランキング』第五位なのだから、その人達の為にはネタバレはご法度である。

 ついでに、四位は智代アフターで三位がCLANNAD、二位がひぐらし、一位がGTOである。

「…………………」

 というか。

 完全に今までの世界観とか完全にぶち壊しかねないこの会話は何だろう……。

 急にどこかのろくでなしなやつの思考が先生にも私にも乗り移ったようだ。

「先生――Is this a cat?という問題に先生は、なんて答えますか?」

「お前のそのめでたいお目めにはこの四足歩行生物を今までの人生で見たことがないのか?だったらお前はミッキーだな、と答える」

 どうして猫を見たことがないだけでミッキーになってしまうのかてんで意味不明だけど、うん。先生はまともになったらしい。

 あとは私だけだ。

 コギトエルゴスム。自己証明は苦手だけど悪魔を証明するよりかは楽だと思う。

 ……さて、と。レッツゴー。

 案山子くんが――――――――――!!

「ぶほぅ」

 は、鼻血が出ちゃった。

 ティッシュティッシュ。

「どうしたてめえ」

「いえ、ちょっと。過ぎた愛情表現をしてたので……」

 でもうん。やっぱり私は私だ。

 どうやら寄り道はこれで終わりらしいかった。

「本編スタート」






 一時間程町をうろうろした後、ファミレスに寄った。

 先生はコーヒーを、私はミルクを頼んだ。

「そんなに案山子に注目されたいか?」

 お得意の嫌味たっぷり笑顔で言っていた先生はどうやら私の狙いに気付いていたらしい。

 いいじゃないですか、まったく。ずずぃっと。

 それからしばらくして、とある人物がやってきた。

 その人はキョロキョロと辺りを見回している。混んでいる店内で人を捜すっていうのは案山子くん……じゃなくて、案外恥ずかしいものでその人はちょっと困ったような顔だ。

 私と先生は奥のほうに座っているので見つかりにくい。

「しゃーねーなー」

 お、先生が珍しく困っている人に手を差し延べようとしてる。今回は時間が限られているからしょうがないといえばいえるけど、珍しい。

 先生は立ち上がり……

「チッ」

 舌打ちをした。???

 ピンポーン。

 何故か舌打ちをして何故か座り、先生は何故か呼び出しボタンを押した。

 当然、ウエイトレスは来た。女の人で若かった。

「追加のご注文でしょうか?」

「あそこでうろついてる十円ハゲの四十肩をこっちに呼んでくれ」

「すみませーん」

 すぐさま私は額とテーブルを接続。三つ指揃えて謝罪した。

 視界は百パーセント自分の影で黒くなったテーブルで塞がれてるけど「え、あ、ああはい」と、私の見解では初めてのバイトでファミレスを選んでみた女性であろうその人は静かにここから離れていった。

「……もうあなたとはファミレスにはきたくありません」

 愚痴をつぶやき顔をあげる。

「あと、勝手に人を十円ハゲとか四十肩とか言っては駄目ですよ」

 呆れて、入口を見た。

 十円と四十と称されてしまったその人はさきのウエイトレスで示されたここを見て安堵の表情を浮かべて、ゆっくりとした足取りで私と先生の前に立った。

「準備はばっちりか?」

 先生のその問いに「はい」と、真弓父は答えた。

「とりあえず席に座れよ」

 対面に向かい合うように座っている私と先生は、真弓父を座らせるためにはどちらが席を譲るしかなくて、先生は顎で私に動けと指示してきた。

 しかたなく、立って先生のほうに座ろうとしたけど

「あー違う違う」

 と言った。

 何が違うんだろうか?

「床だ、床」

「…………はい?」

「最年少者で半ロリのてめえがあたしの横に座ろうなんざ二十一世紀はえんだよ」

「ドラえもんを待てというんですか……いやそうじゃなくて、こんな公共の場で床に座れなんて嫌ですよ!」

「はぁああああ?!!!!!!」

「いえすみません私が間違ってましたはいすぐさま座ります」

 人間ができるとは思えないメンチを切られた私は、は平和的な(チキンではないです)対応としてその場に正座した。

 平和の為なら周りからの見ないフリ雰囲気にだって耐えれるのだ。

「うわ、痛いやつあそこにいるぞ」

 うぅ。さすがにそういうのは耐えれない。助けて、案山子くん。

「んじゃあ始めようか」

 本当にこの状況を疑問に思わないかた役一名。

「作戦名は……そうだな、銀河殴り込み作戦で」

「……真弓あぶり出し作戦にしましょう。まだ科学が追い付いていないので」

 ていうか作戦と名前がかすりもしていないので。

「これは平和的解決策なんですから、非平和的な作戦名はやめてください」

「へぇ。あぶり出しは平和的なのか?熊からしたらいい迷惑だ」

「相手は熊以上の引きこもりですけど、熊ではありません。あくまで人です」

 そして人が引きこもるのは悪いことじゃないですし、迷惑はほとんどかからない。けれど――。

「私の平和を見も体験もしないで否定されるのは嫌ですから。それに――」

「ん?」

「案山子くんが、楽しみにしてるみたいなんですよ、球技大会を。今年こそ優勝したいなーって。あの案山子くんがですよ?」

 みんなの為にただ立ってるだけで、ただ笑っているだけで、ただ言われるがままのあの案山子くんが、久しぶりに自分の意見を言った。

「将来案山子くんのカノジョになる私にとって、その意志は尊重したいです」

「かっこいいこと言ってけどよ、お前、ファミレスで正座してんだからな?」

「それあなたのせいでしょ!」

 つい怒鳴ってしまった。

 ああ……視線が痛い。

「まあ半ロリはほっといてだ」

「それ、案外傷つきますよ?」



「作戦、スタートだ」







 嫌な夢を見た気がする。

 とても嫌な夢だ。

 夢というより、うーんでも、夢としかいえないけど、けど夢っぽくなかった。

 真っ暗なところで一人、ずっと泣いてるやつ。

 私がいつも見る夢は色んな動画をごっちゃに下手な監督が繋ぎ合わせたようなものだ。だから、見た夢が夢とは言えない。

 って言っても、夢も現実も大して変わらないから、もしかしたら私が見たのは現実だったかもしれない。

 瞼を開ける。

 相変わらずの暗い部屋の天井が見えて、そして相変わらず私は布団に包まっていることに気付いた。暑くて、ひどく喉が渇いてる。

「…………ジュース、飲も」

 どことなく重い体を起こして、部屋を出る。

 家の中には誰もいない。

 父さんは買い物に行ってる、って寝るときに言っていた。台所で冷蔵庫を開けてみるとたしかに、ほとんど食べ物がない。

 昨日はまだあったのに、急に減った?

 ああ、そうか。今日は命ちゃんが来たんだった。

 リンゴジュースを取る。

 この家でリンゴジュースを飲むのは私と母さんだけ。

 母さんは仕事でほとんど家に……というか日本にいないから、リンゴジュースを飲むのは私だけで、私も最近はあまり飲まなくなってる。理由はなんとなく。

 リンゴジュースを小さいコップで汲みながら、今日来た命ちゃんのことを考えた。

 命ちゃん。

 友達かどうかは、正直分からないけど、でもここに来てくれた。

「私がここに来た理由、分かるよね?」

 うん、分かってるよ。命ちゃん。

 学校に来いって言うんでしょ?

 今まで来た先生達みたいに。

 嬉しかった。嬉しかったよ?だって、あの時に同じクラスの子が来たのは初めてだったから。嬉しかった。

 でもね?

 それ以上に恨めしかったよ。

 いまさら……だったから。

 でも、

 だけど、

 やっぱり、

 うん……。

 悪いこと、したかな……。

「あ」

 零れたリンゴジュースが、私の膝にかかってしまった。パジャマだったから、着替えないといけない。

 その前に、テーブルを拭かないと。


 ――と。


 そのときに。電話が鳴った。

「……誰、だろう?」

 父さんかな?でも、珍しい。

 困ったことがあったのかな?

 それとも――。

 …………………。

「はい、坂下ですが」

「           」

 ?

 電話の向こうからは反応がなかった。というより、無音だった。

「もしもし?あの、誰ですか?」

「                                    」

「あの、悪戯でしたら、切りますよ」

 でも、やっぱり反応が無かったから切ろうとしたら、小さな声が、

「タスケテ」

 聞こえて。

 切れた。

「…………………」

 なんだったんだろう?一体。

 まあいいや。どうせ悪戯電話だろうし。

 部屋に戻ろ。







「さて問題。携帯電話で最も悪質な使い方はなーんだ」

 私から借りた(取り上げた)携帯電話を片手に、先生は最も悪質な笑顔で、隣を歩いている私と真弓父にきいた。

 突然なことには慣れていないみたいで、馴れ馴れしく話し掛けてきた先生にうろたえながら、

「えーと……、オレオレ詐欺ですか?」

 一世代遅れてますね。

「お前は?」

「ずばり、振り込め詐欺ですね」

 私は今風に言ってみた。

「お前ら死ね」

「「………………………」」

 落第点だった。

「全然分かってないなお前ら。常識に被れすぎだ。普通に考えてみろ」

「常識に被れすぎって言った後に普通に言ってみろって……矛盾してません?」

「正解は」

 普通にスルーされた。

「携帯を凶器に人を殺すことだ」

「「……………………」」

 いやあ。と、心なしか真弓父と考えがシンクロしたような気がした。

 携帯を凶器にする。

 たしかに、最も悪質だろうけれど、それはあまりにも屁理屈のような気がするのは常識被れだろうか?いや違うだろう。

 心中で反語を活用する私だった。

「つまり何が言いたいんですか?」

「気にするなってことだ」

 へっ、と笑う先生。

「見るからにお前ら――特にあんたは後ろめたさがはっきり分かる」

 言われて、真弓父の頭が下がる。

 たしかに、と私は思った。

『娘を学校に行かせるため』という大義名分があったとしても、たとえ娘を更正させるという義務があるとしても、娘に酷いことをして後ろめたいことがない人は――まあ、昨今の日本においてはいるかもしれないけど、真弓父は違うだろう――いないはず。

 先生の携帯の件は意味分からないけど。

「この世で携帯を使った悪質な使い方が人殺しなんだ。悪戯電話くれぇなんのことはない。だから後ろめたいことなんかない!」

「教師としてその考えは、どうなんですか?」

 しかし、言いたいことは分かった。

 真弓父は理解が難しいようで曖昧な表示を浮かべていた。

 そして――

「本日二回目のルイージマンション」

 家主の前で失礼なことを言う人一名。

 ――到着した。

ありがとうございます

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