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Summerstory 引きこもりの唄 四

大分休憩してました。すみません。

『…………もしもし、父さん?』

「…………………」

 先に申しておくけど、別に真弓父と真弓の会話の場面だけ三人称視点になったわけではありません。きちんと私視点ですので悪しからず。

 電話の向こうの相手はどうやら真弓であるらしい。懐かしいと思える久々の声は、そういえばこんな感じだったなあと感嘆するほどだった。控えめで静かな大人しい声。真弓である。

 電話が鳴り、真弓父は受話器を私が取るように促し従った。

 これは、真弓の説得を許されたと捉えていいのだろう。少なくとも私は。

「もしもし、こんばんは。残念だけと、あなたのお父様じゃないわ」

 ガチャコ。

 ツー、ツー、ツー。

「………………」

 切られた。

 人生最速拒否された時間を大幅に更新した。多分ギネス記録を樹立した、まったく嬉しくない。

「………………えい」

 すかさずリダイアル。

 しばらくして。

『……はい』

「もしも」

 ガチャコ。

 ツー、ツー、ツー。

 さらに更新した。まったく全然嬉しくない。

「うりゃ」

 すかさずリダイアル。

『………はい』

「も」

 ガチャコ。

 ツー、ツー、ツー。

 さらに更新。まったく全然まるで嬉しくない。

「なんのその」

 負けるな私。

『……はい』

 ガチャコ。

 ツー、ツー、ツー。

 電話からは無機質な音しか流れてこない。

「………………」

 いやいやいや。

 も、以上に早く拒絶はされないと思っていたけど、まさかこっちが何も言わないうちに切られるとは。予想外。

 当然。

 まったく全然まるで言わずもがなに嬉しくない。

 私って、そんなに魅力ない?案山子くん。

「すみません」

 電話を変わってもらってから後ろで待ってもらっている真弓父が、娘の代わりにとでも言うように、申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

「大丈夫です。人に避けられるのは慣れてますから」

 さすがにここまでの拒絶されたのは始めてだけど。

「私、周りから見たら何を考えているか分からない雰囲気があるそうなので」

「はあ……」

 返事に困っているようだった。

 やはり、避けられてる。まあいつものことだね。

 さてさて。

 こんなに取り付く島のない状態だと、先生の言うとおり、まず交流窓口を無理矢理にでも作らないと説得も何もない。でも無理矢理っていうのは平和的じゃないし、私の性格上、それは避けたい。

 主義と性格。

 これが無理と矢理を否定しているので、別の平和的な方法を模索することにしよう。

 まずは神様にでも祈ってみよう。

「…………ん?」

 現実逃避にも似た他力本願を…………念力本願をしてようとしたところ。

 電話が鳴った。

「すみません」

 当然、真弓父がそれに出た。

 さっきからこの人、謝ってばかりだなあ。

 真弓父は何度か相手に親しく返事をした。ご友人かな?と思っていると、

「出てもらえますか?」

「……はい?」

 なんで?

「真弓からです」

 静かに、そして本人は驚きを隠すような声だった。

 私は、受けとる。

「……………もしもし?」

『……もしかして、めいちゃん?』

 ――ああ、そういえば。

 命ちゃん。

 私を唯一、真弓は、名前で呼んでいたっけ。苗字じゃなくて、名前で。

 小さな透明な声で。呼んでいたっけ。

「……うん。そうだよ」

『わぁ。やっぱり、命ちゃんだ。久しぶりだね』

「うん、久しぶり」

 真弓の声はまるで、久々に会った親友に話し掛けるような、そんな親しみを込めた声だったけど不快感はない。

 相変わらず透明度が抜群な声だ。

『どうして命ちゃんが家にいるの?』

「あー……それはね…」

 常時アドレナリン濃度限界突破してる戦争狂が真弓を連行しにきたから……なんて、言えるわけがない。

『そういえばさっき、部屋の扉を誰かが殴ってたけど……』

「借金取りだよ。私が撃退しておいたから安心して」

 実際は借金取り顔負けの人に退いてもらったんだけど。

『私、借金してないよ?』

「勘違いだったらしいよ」

『どっちかっていうと、族の人っぽかったよ?』

「元族長だったらしいよ」

 あれよこれよと私の付く嘘に、真弓は、

『そうなんだあ』

 と、何故か納得してしまった。

 引きこもりの期間が長かったせいか、常識認知が低下しているもよう。

 でも、不健康ではなさそうだった。

 私は早速、本題に入ることにした。

「真弓。私がここに来た理由、分かる?」

『………………』

 電話の向こうで、真弓の呼吸が止まった。

 それはつまり、

『学校には、行かない』

「……どうして?」

『ごめんね。言えない』

 落ち着いた声は、決意のような固い思いが乗っているのがわかった。

 学校に行きたくない確固たる理由。

 私には分からない。

『私は、あんなところには、行きたくない』

 あんなところ。

 朝起きて家を出てつまらない授業を受けて他人と昼食を食べてくだらない授業を受けて部活か帰るかする。

 生徒を演じる『学校』という平凡で平素で平和なあの舞台を。

 真弓はあんなところと言った。


 あんなところ。


 あんなところ。


 あんなところ。


 普通に過ごしていたら、そんな言葉は、出ないはずだ。

 そんな怨みが。

 そんな恨みが。

 決して出ないはずだ。

『せっかく来てくれたのは嬉しいんだけど。本当に、嬉しいんだよ?でも、ごめんね。私、行かない』

「来ないと留年になるよ?」

『いいよ、別に。


 私はもう、ここからでないから


 』


 ガチャコ。

 ツー、ツー、ツー。

 文字通り、無機質な音が私の耳に響いていた。

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