Summerstory 引きこもりの唄 三
今回は時間がかかってしまいました。
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
えーとですねえ。とりあえず状況説明。
再び、居間にて。私、先生、真弓父が雁首面子を揃えていた。
正直チョー気まずい空気です。私は今顔をあげれないので、伏し目がちにコーヒーを眺めてます。
震源である二階の真弓の部屋にいくと、まるで予想したことが現実化したように、やはり先生は暴れていた。乱暴にドアノブを回し、足でドアを蹴り、空いている手でノックの八倍の強さでドアを殴っていた。借金取りですよと言われても素直に信じれそうだった。
止めようとするとかえって噛み付かれそうだからほっとこうと思ったけど、家の主がいたし、平和主義の私としては身をていしてでも止めないわけにはいかない。
どうにかこうにかドアの破壊を防ぎ、その代償に私の髪の毛が本日二度目の魔手にかかった。実は今も痛いですはい。
その時の会話をリプレイをどうぞ。
『止めんな馬鹿!坂下真弓を引きずりだせえだろ!羽交い締めをやめろ!』
『いいいいいたたたいたい!だめですよそんな強引なやり方!というより、また髪を引っ張んないでくださいいいいい!?』
『てめえが離さねえからだろ!スキンにしてやろうかマルガリータにしてやろかああん!!?』
『ぎゃああああああああ!いまぶちぶちっていった!止めて、止めて!』
『お前が離せ!』
『警察来ますから!こんなことしてたら通報されます!即刻即決即行即日販売で爽やかスマイルとともにここに届けられちゃいますよ!』
『おう上等だ、警察と教育委員会が怖くて先公なんざやれるか!』
『後半は正論ですけど前半は明らかに違いますよ!?』
『は、な、せ、ええええええ!』
『ぎぃゃあああああああああああああ!』
平和主義というものは辛いもので。たとえ命の次の次あたり大事なものが次から次へと宙を舞って堕ちていっても手を出せず、結果。先生を止めることができ、そして私にはハゲしい痛みと悲しみが与えられた。
割に合ってない。
そんなこんなの経緯をへて、ようやくこの状況に落ち着いた。
時計はすでに七時をまわり、夏といえども太陽は隠れてしまった。私はそろそろ帰らないと親に愛の暴力を受けてしまう。早く帰りたいけど、先生より先に行くと髪の毛を引っ張られるので、今は切に祈ってるだけ。早く帰れますように。
「いたっ!」
殴られた。
「……………理由は?」
「なんとなく」
さいですか。しかし私も一応は殴られる原因を祈っていたので、自業自得といえなくもない。
「それより、どうするんですか?」
「何をだ」
「真弓のことですよ」
「お前が邪魔しなきゃ三分で決着がつく」
「それはだめです」
「チッ。じゃあ手はねえ」
「そんな」
「引きこもってる時点で、説得はまず無理。だったら強行突入しかないが」
そこまで言って、先生は冷めた視線を送ってきた。お前のせいだと送信される。
「どうするんですか?」
「知らん」
「潔いにもほどがありますよ」
「お前がなんとかしろ。あたし寝る」
とんでもないことを言いなさった刹那様は立ち上がり、部屋を借りるぞと了承を得ないまま出ていかれた。
「………………………」
リアクションをするのも忘れてしまいました。
目の前の真弓父も目を見開いて固まってしまっている姿がかわいそうだ。
とりあえずコーヒーを一口。うん、苦い。
「すごい、常識はずれな方ですね」
もう先生になにいっても意味がないと諦めた顔をしていた。
「そうですね。なんせカレーの対義語はクリームシチューだという人ですから。私はナンだと思うんですけど、どう思います?」
「いえ、それは、よくわかりませんが」
困ったように笑った。苦笑いなのか愛想笑いなのか分からない。
どちらにしても打ち解けれてないのはたしかである。
「………………先生がここに来た理由。そういえば話してませんでしたね」
先生に任せたと頼まれて(命令)しまった以上、どうにか打開策を見出ださないといけないので、とりあえず一から説明することにした。
「来週。学校の行事で球技大会というのがあるのをご存知ですか?」
「いいえ。そんなものがあるんですか?」
「そうですね、ご存知ではないのも無理はないですね」
「……………………………はい」
今のはちょっと嫌味に聞こえちゃったかな?
「とにかくそんな行事に、クラス全員が出ないと意味がないと、先生がここに来た理由なんですよ」
私がここに連れてこられたのは不明ですけど。
「そうですか」
真弓父は言った。
「ですけど、それは真弓が出なくても大丈夫なんじゃないですか?」
「はい。人数は足りてます」
「真弓はお世辞にも運動神経が優れてるとは言えません」
「どちらかというと文学系そうですからね」
二年前のイメージを引っ張ってみた。
「そんな真弓が出るとみなさんに迷惑をかけるんじゃないんですか?先生みたいな方だと、優勝を狙ってると思うのですけど」
「まさにですね」
「でしたら」
「先生いわく、全員揃わないと優勝は不可能だそうです」
私は真弓父の言葉を遮って話す。
「先生は負けず嫌いというより勝ち好きでして。どんな小さな勝負にも――――どんな小さな努力を惜しまないで勝ちにいく人なんですよ」
「………………………」
「あなたと私は今、真弓が球技大会に出ても足手まといになると言いましたけど、先生はそんなのは微塵も感じてないんですよ。身勝手ながらに、ほんと困ったものですよね」
身勝手で、どこまでも真っすぐな正論で。
だからこそ、困ってしまう。
笑ってしまうほどに。
誰もあの人を止められないのだから。
「今すぐにとはいいません。ですが、少しだけでもいいので、真弓がこうなった理由を教えてはもらえないですか?」
本音を言うと、今すぐにでも教えてもらってそれを理由に先生の暴走を牽制したいのだけど、強引に性急に聞いてしまうと逆に話しずらくなる。ゆっくりゆっくりと聞くのがベストだ。北風より台風。じゃなくて太陽作戦。
あとは野となれ山となれである。
その時。電話が鳴った。
いまさらながら、いまだ登場しない主人公の名前。次回出します。