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主の為なら!  作者: 伊勢
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5


主は俺を放って副官と何か話を始めてしまった。

聞こうと思えば聞けるが、あえて無視する。


せっかく会えたのに…

少し、寂しい気持ちになった。


そんな俺に妖精達は点滅しながらグルグルと忙しなく動いている。

それを暫く目で追っていたら、軽く目が回ってしまった。


《そうだ!》


《いいこと思い出した!》


突然、彼らはそんなことを言い出した。

いいこととは一体なんだ?


『ん?』


《ねぇねぇ、君は今妖精だ》


《妖精はね、他の姿にも慣れるんだよ》


他の姿、とはなんだ?

馬じゃないってことか?


《人の姿になってご覧よ》


《君が人になったら主ともっと一緒にいられるかもよ》


なんだと?!馬の俺が人に?

人になったら、もっと主と一緒にいられるだと?

それは…いいな。


『人の、姿…?主と同じ…なりたい!!』


早速やり方を聞き出す。

早く教えてくれ!


妖精たちはゆっくりとフワフワと舞いながら

歌うように言った。


《思い浮かべて》


《想像して》


《自分は人だって》


《大丈夫、できるよ》


《《君の中には既に妖精の力も知識もあるから》》


人…そう思い浮かべるのは、主の姿だ。


俺は人だ!馬じゃない!


…変な気分だな。


自分が馬じゃないって考えるなんて…

俺は自分が馬ということに誇りを持ってる。

今更他の生き物になるのは…そう考えるとなんか難しい。


うーむ、沢山唱えてみればいいか。


俺は人俺は人俺は人俺は人俺は人俺は人俺は人俺は人俺は人俺は人俺は人俺は人俺は人俺は人俺は人俺は人俺は人俺は人俺は人俺は人俺は人俺は人俺は人俺は人俺は人俺は人俺は人俺は人俺は人俺は人俺は人俺は人俺は人俺は人俺は人俺は人俺は人俺は人俺は人俺は人俺は人…


「ん?おーい、どうした?」


主の声!いや、違う。

なんだっけ…?


あれ?えーっと、俺は…主?


俺は主俺は主俺は主俺は主俺は主俺は主俺は主俺は主俺は主俺は主俺は主俺は主俺は主俺は主俺は主俺は主俺は主俺は主俺は主俺は主俺は主俺は主俺は主俺は主俺は主俺は主俺は主俺は主俺は主俺は主俺は主俺は主俺は主…


その時、体から光が溢れた。


「眩しっ!どうした?!」


「なんですこれは?!」


《《おぉ!おぉぉ~!??》》


光が収まり、目を開くと目の前には驚愕に目を見開く主の顔があった。


主…またその顔か?

ん?何時もより視線が低い…


ふと下を見れば、主と同じ形の手に足がある。

試しに動かしてみれば思った通りに動いた。

本来のからだとは違うはずなのに、動かし方が自然と分かる。それにあまり、違和感はない。


「主!見ろ!人になったぞ!凄いか?」


「あ、あぁ…すごい、な」


思わず主に抱きつき頭を擦り付ける。

おぉ、人だとこんなことが出来るのか!


主と同じになれたのが嬉しくて仕方がない!

主はどうだろう?


そう思い顔を上げると、主は悲壮な顔を浮かべていた。



「…凄い、光景ですね。閣下、今どんな気持ちです?」


「…凄く、複雑な気分だ」


何故か主は遠い目をしている。

どうした?腹でも痛いのか?


「まぁ、自分と同じ姿した人間が満面の笑みで抱きついてくるんですもんね。ある意味怖い話ですよ…」


「主?」


「…なぁ、なんで俺の姿なんだ?」


主は何だが凄く複雑な顔をしていた。

主、可愛い顔が台無しだぞ。


「ん?俺は主になったのか?」


ジーッと主の瞳を覗き込めば、そこには確かに主と同じ顔が映っていた。


《あははは!》


《せ、成功は成功だね!》


妖精たちはピカピカと点滅しながら笑い転げていた。


《多分、途中で君の声が聞こえたもんだから頭ん中で混ざっちゃったんだろうねぇ》


《流石!アホの子は面白いねぇ!》


む。俺はアホじゃないぞ!!

それにいいじゃないか!主と同じだぞ?!


妖精達に反論しようと口を開けた時

突然、ガシッと肩を掴まれた。

見れば主が俯きながら真剣な声で言った。


「…なぁ、別の姿にならないか?」


「主と同じがいい…」


主までそんな事言うのか…?

俺はせっかく人になったのに。


主は…嬉しくない?


「だが」


「だめ、なのか…?」


「やめろ!俺の姿でそんな顔すんじゃねぇ!」


遂には主は頭を掻きむしり怒鳴りつけてきた。


主に怒鳴られたことなんて初めてだ。

そんなに嫌なのか。

それは悪い事をした…


俺はただ…もっと主と共に在りたかっただけなのに。


「済まない…」


思わず涙が浮かぶ。

そんな俺を見て主はグアァ!!って雄叫びをあげていた


「そもそもお前牝馬だろ?!なんで男になってんだ!!」


「?何を当たり前のこと言ってるんだ?」


俺は確かに雌だが。

それがこの姿とどう関係あるんだろうか?


すると主の後ろから副官の声が響いた。

やつは目をかっぴらいて変な顔している。

主には劣るがそこそこ綺麗な顔が不細工になってる


それにしても…煩い声だなぁ。

耳にキーンてくるから叫ぶなよ。


「え?!閣下の馬って雌なんですか?!」


「たりめぇだろ」


「あんな勇敢な馬、当然雄かと思ってましたよ!!

それに“俺”とか言ってたじゃないですかぁ!!」


「「うるせぇ、叫ぶな」」


「お、おぉう。閣下2人に言われるとは…すみません」


漸く黙った副官から目を離すと、

主は何故か俺の胸を見ていた。

何かあるか?と俺も自分の胸を見る。


そこには主の胸とは違い、少しだけ膨らみがあった。


「お前…よく見たら胸、ついてるな」


「え?!うわぁ、本当だ。閣下に胸ついてるぅ!」


「その言い方やめろ!気持ちわりぃ!!」


「まぁまぁ、閣下って中性的な顔してますし正直余り違和感なくて困惑して、ます…よ??ぶはっ!」


「やめろ!てか笑ってんじゃねぇぞ!!」


また主は俺を放って副官とぎゃあぎゃあと言い合いを始めてしまった。この2人は昔からこうだ。


暫くあれらは無視だ!フン!


主が構くれなくてちょっと寂しいとかでは無いぞ。

主に構ってもらえてる副官がウザイとは思うけど。



俺は1つ溜め息を吐いて無理矢理視線を外した。





俺は主を無視して、未だ笑い転げる妖精達に視線を移した。


《ヒー、ウケる》


《お腹いたァ…》


彼等に声を掛ければ、漸く笑いが治まってきたのか何とか返事が返ってきた。


「なぁ。お前達も人になれるのか?」


《あー…笑ったぁ》


《ふふ、人に?勿論なれるともー》


《久しぶりにやってみせようか》


えいっ!という掛け声の後、点滅していた光は

ポン!と音を立てて姿を変えた。


1人は赤く腰まである長い髪と金色の瞳の姿に。

彼は背が高く、男らしい野性味を帯びた顔をしている。


1人は黄緑色のクルクルとした髪と琥珀色の瞳の姿に。

彼女は小柄だが、女性らしい体に妖艶な笑みを浮かべている。


1人は真っ白でフワフワとした髪に紫根の瞳の姿に。

彼は中性的な顔で、柔和な笑みを浮かべている。


三者三様、全く違う姿をしている。

しかし皆とても綺麗な顔をしていた。


「おぉ!」


「どうだ?かっこいいか?」

「可愛いでしょー?」

「これが僕らの人の姿。どう?すごい?」


「主の方がかっこよくて可愛いがな、まぁ素敵だぞ!」


「「「惚気が凄いな、おい」」」


3人から一斉にツッコミが入った。

お前ら仲良いな。


そういえば…彼等に名前はあるのだろうか?

いつまでも妖精と一括り呼ぶ訳にも行くまい。


俺も一応、妖精なわけだしな。


「そういえば、名前はなんて言うんだ?」


問いかけると、彼等は互いに顔を見合わせると少し困った顔をした。


「妖精は易々と人に名を教えないんだ」

「名前はその人を縛るからね」

「特に妖精にとっての名は命同然だからね」


「そうか...」


それは残念だ…。

しかしならどう呼べばいいのだろう?

1号、2号は…何だが怒られる気がするしなぁ…


うーんと唸っていると彼等は慌てて弁解し始めた。


「でもお前は仲間だ」

「特別に教えてあげる!」

「妖精同士だし、大丈夫でしょ。

それに人に僕らの名前は聞き取れないからね!」


「そうか!」


妖精同士だからといって

命同然の名前を教えてくれるなんて…


彼等はあってまも無い俺に命を預けてくれるのか。

なら、俺もその誠意に応えられるようにしよう!

出会ってからずっと彼等には世話になってるしな!


「俺はベリル」

「私はルチル」

「僕はロア」


ニコニコと彼等は嬉しそうに教えてくれた。

すると今度は、俺を囲ってこう聞いてきた。


「「「君は?名前教えてよ」」」


「俺は…俺の名前ってなんだ?主に聞くか」


そういえば、俺の今の名前はなんだったか…

前回は…テキーラだったか?


「「「え…?」」」


「主はその時々で俺の呼び名を変えてたもんだから…」


正直にそう伝えれば彼等は首を横にブンブンと振った。


大丈夫か?

それ、首痛くないか?


「あ、違くてっ!」

「妖精にはそれぞれ妖精名があるはずなの!」

「女王に名を貰ったろ?」


「うーん?」


「自分の名前が分からないことってあるか?」

「有り得なくない?」

「ほら、胸に手を当ててよーく思い出してご覧?」


「俺の、名前…?」


主はその時々で呼び方を変えていた。

大抵は前日に飲んだ酒の名前だったっけ。


ウォッカ

テキーラ

ジン

カクテル…


他にも色々…何だっけ?でも全部酒だったはず。

そう考えると…主は大分適当な性格をしている。

まぁ、別にそれでもいいけど。


それにしても…

妖精名?俺は女王に名を貰ったのか?


あの時…不思議な実を貰って、食べて。

眠くなって目を閉じて…そうだ。

なにか、声を聞いた気がする。

あれは…なんて言ってたんだっけ?


『…いい子だ、よくやったね。

優しく勇敢なお前に免じて、我らの仲間にしてやろう。

我の可愛い子。ほら、この実をお食べ。

名前は…そうだな、こんなのはどうだ?』


『「オニキス」』


思い出した。

そうだ、俺の名前は…


「「「オニキス?」」」


「あぁ、確か女王は…そう言ってた気がする」


「そうか!」

「オニキスね!」

「君にピッタリの名前だ!」


キャッキャと楽しそうにしている彼らの声を聞いて

同じ言葉を聞いた気がした。


そうだ、女王もそう言っていたんだ。


『願望実現の石の名だ。

ふふ、お前にピッタリだろ?』




◇◆◇




この大陸最大を誇る帝国にはある伝説があった。


この国がまだ帝国になる前、大陸は戦果の中にあった。

その中で特に活躍した者達がいる。


数多の戦場で敵を薙ぎ倒し、いくつもの戦いで勝利を収め自国を帝国にまで導いたその男。

銀色の髪に空のように澄んだ瞳を持つ美しいその男は戦場では負け無しだった。


彼はいつも馬に乗っていた。

青毛の美しいその馬は彼を乗せて敵を蹴散らし

主人と共に戦場を駆け巡っていた。


人馬一体となって戦うさまは美しくも恐ろしかった。


しかし、不思議な事に一時期その馬は忽然と姿を消す。

何故、いなくなったのかは分からない。

ついに死んだかと予想したのも束の間。


馬はより速く、より勇猛に、より美しく

主の元へ帰ってきた。


時に、馬は誰よりも何よりも速く地を駆け

空を駆け巡った。


時に、主の望むままに姿を変えた。


馬から人へ

人から剣へ

剣から盾へ


主と共にある為。

主の為にその命を懸けて忠義を尽くす。

その姿はとても美しかった。


この話がどこまで本当で、

嘘なのか分かるものは既に居ない。


だが、馬は彼にとって大事な相棒であり

戦友であり、家族だったことは事実だろう。


より、絆を深めた彼等はより一層の力をつけ

敵を蹴散らし遂には勝利を納めた。


彼等は敬意と畏怖からこう呼ばれていた。



“死神オニキス”と―――



戦いが終わったあと、彼等は姿を消した。

名前の通り願いを実現させたからだろうか?

それとも、これからする為に旅立ったのか?


何処へ行ったのか誰も知らない。


唯一、分かるとしたら

彼らは死んでも尚、共に在るのだろうということ。





「お前、俺の姿になるのやめね…?」


「すまん、これで定着してしまった!」


「そうか…」

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