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異世界召喚のデバフ使い〜宵闇を従えし少年は最強の道を進む〜  作者: 白崎仁
第二章 デバフ使いとネコミミ少女
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脱走者発生!



 けたたましいサイレンの音が建物中に鳴り響く。その音に急かされるように白衣を着た人間たちが建物内を駆けていく。


「おい!あっちは探したか!?」


「もうとっくに探したわよ!ほら、向こうに行くわよ!」


 どうやら白衣の人間たちは何かを探しているようだ。先ほどから怒号が飛び交っている。何としてでも見つけなければならないみたいだ。


 その建物の所長室では何やらピリピリとした空気が漂っていた。部屋の中では所長らしき人間と部下の人間が話し合っているところだ。


「ちっ、まだ見つからねえのか!もう一時間は経つぞ!」


「す、すみません。予想以上に逃げ足が早くて……」


「言い訳はいい!結果で示せ!……ったく、幼い少女一人すら見つけることも出来ねえとは……まさかそこまで無能だとは思わなかったよ」


「だ、大至急捕まえてまいります!!」


「分かったから早く行かねえか!」


「は、はい!失礼します!!」


 部下たちは内心で「お前のせいだろ……」と思いながらも捜索に当たった。というのも、今回の脱走事件は所長の男が私利私欲のために収容していた幼い少女を連れ出そうとしたところ、不意を突かれて逃げられたのだ。完全に自業自得である。


 だが、所長は自分のせいで逃げられたこともあって、余計に機嫌が悪い。貧乏ゆすりも二倍増しだ。


(ちっ、小娘ごときが!捕まえたらただじゃおかねえ!この俺様が直々に……)


 所長はそんな危ない妄想をしながら、「グヘヘ……」とこれまた気持ちの悪い笑いを浮かべる。


 まさか、探している少女が既に施設の外にいるなんて知らずに……。



◇◇◇



「はぁ、はぁ、はぁ……」


 鬱蒼と木々が生い茂る森の中。その中を駆け抜ける影が一つ。その影はまだ小さく、中学生ほどの身長しかないようだ。


 外は太陽がそろそろ真上に昇ろうかという昼前。季節は春過ぎなので、そろそろ本格的な暑さが感じられるといった具合だ。


 その影の主――ネコミミをゆらゆらさせた少女はもうかれこれ三十分は休まずに走り続けている。ようやく逃げ出せるチャンスが来ただけに彼女も必死なのだ。


 だが、ここら一帯は見渡す限りの森だ。人がいそうな気配の場所など一切無い。そのことは少女も重々承知しているので出来る限り遠くに、偶然この森に来た誰かに見つけてもらおうと走っているのだ。


 と、少女の近くで何かの鳴き声が発せられた。アォォォンという声からして、おそらく犬や狼の類だろう。だが、ここは人間たちからは魔の森と言われている場所だ。当然、声の主も普通の犬や狼ではなく……


「はぁ、はぁ……!?きゃっ!!」


 走り続ける少女に鋭い爪の一撃が繰り出される。その攻撃を少女は走りながらもなんとか身を捩って躱そうとする……が、避けきれずに左腕に掠ってしまう。しかも衝撃でバランスを崩し、その場に倒れ込んでしまった。


 そこへ這い寄るのは三匹の狼。否、狼型の魔物だ。普通の狼よりも大きく、その毛は刃物のように鋭利で、物理攻撃は全く通じなさそうだ。


 その狼魔物が三匹も一人の少女を獲物として捕捉している。少女は恐怖と絶望でガタガタと震えており、身動きは取れないようだ。いわゆる絶体絶命の状況である。


「あ、あぁ……」


 せっかくあの最悪の場所から逃げてきたというのに、もう命の危機なのだ。どこにも逃げ場はなく、頼れる人もいない。叫んだところで向かってくるのはあの研究施設の人間しかいない。


 眼前の狼魔物は今にも少女に襲いかかろうと構えている。そして、ついに狼魔物が少女に飛びかかった!


 少女はこれから自分を襲うであろう痛みに恐怖し、思わずグッと目を閉じる。



 ……だが、いつまで経っても想像した痛みは来なかった。少女はおそるおそる目を開けてみる。


 すると、眼前にいたはずの狼魔物は黒い霧のようなものに捕まっていた。身動き一つ取れず、鳴き声すらも上げられないようだ。


 そして、そのまま狼魔物は黒い霧に飲み込まれてしまった。他の二体は仲間がやられた霧を警戒して、遠くへと離れた。


 だが、そんな狼魔物の警戒も虚しく、彼らの背後から別の黒い霧が襲いかかる。霧はまるで雪崩のように狼魔物を飲み込んでいった。


 しばらくすると霧はサーッと消え、狼魔物の姿も無くなっていた。どうやら霧は本当の意味で狼魔物を飲み込んだらしい。


 少女は驚きでポカンとしている。ついさっきまで命の危機だったというのに、一瞬でその脅威は去ってしまった。あまりにも怒涛の展開すぎて、ついていけていないようだ。


 と、そんな少女の元に歩み寄る影が一つ。少女もそれに気付き、音のする方へバッと振り返る。そこにいたのは黒いローブを着た黒髪の少年だった。歳は少女より少し上くらいだろうか。


 少年は少女に近づくと、未だその場に座り込んでいる少女に手を伸ばして一言。


「えっと……その……大丈夫?」


 その言葉はなんともぎこちなく思えた。



◇◇◇



 美月さんに魔力をもらってから、僕はその力を自分のものにすべく特訓を始めた。


 まず最初に取りかかったのは『宵闇』だ。美月さんの代名詞とも言うべき魔法であり、固有魔法の一つなので是非とも使いこなせるようになりたかったからだ。


 その過程で分かったことをまとめてみた。


 まず『宵闇』は霧のような状態の魔法であるということだ。もやもや、と周囲に広がっていく様は誰がどう見ても霧のようだ。霧と言ったら霧なのだ。


 また、『宵闇』は完全ステータス依存という特殊な魔法ということが分かった。僕のステータス(全て含めて)が上昇すればするほど『宵闇』の威力も上がる。


 次に『宵闇』は能力について。『宵闇』には様々な能力がある。その中でもよく使うのは侵食という能力だ。


 この能力は『宵闇』で包んだ敵を吸収して、吸収した敵が持つ魔法を自分のものにするという能力だ。美月さんの大量の魔法はこの能力のおかげだろう。


 ただ一つ欠点があり、侵食はなかなかに魔力を消費してしまう。美月さんのおかげで魔力が増えたとはいえ、連発はしない方がいいだろう。


 他の能力もある程度は使えるようになっておいた。あとは実戦あるのみだ。


 次に取りかかったのは『反転』だ。どうやらこれも固有魔法のようで、その能力はなんというか、とても《デバフ使い》向きな能力だった。


 その能力とは「自身の魔法の効果で減少した相手のステータス分を自身のステータスに加算する」というものだ。


 要するに、どれだけ相手が自分より強かろうと、デバフをかけたら相手よりも強くなるということだ。まだまだ弱い僕からすれば、とてつもなく有難い能力だ。


 ひとまずこの二つをなんとか使えるレベルにした僕は美月さんがくれたこの空間を後にすることにした。美月さんが用意したゲートの内、王城に繋がるものを除いた六つの中からランダムで選んだ一つに向かうことに決めた。


(……よし、ここにしよう)


 家から少し離れた場所に見つけたゲートに入ることに決めた。どんな場所かは全く知らないので、正直ワクワクしている。やはりいつになっても冒険というのは楽しいものだ。


 美月さんから貰った黒いローブを身につけ、さらに杖と指輪を装備する。これで準備は万端だ。


「行ってきます、美月さん」


 僕は何も無い空間に向かってお辞儀を一つした。自分の中でも最大の敬意を払って。


 そうして僕は新たなゲートへと飛び込んだ。





「……緑だ。ってか、森やん……」


 飛び込んだ先はまたしても森だった。あまり景色が変わらないことに少しがっかりする。少々の関西弁が出てしまっても仕方ないだろう。


 まあ、ひとまず探索を開始することにした。美月さんがゲートを作るぐらいなので、何か特別なことがあると期待しての判断だ。


 それからは『身体能力強化』を常時発動しながら、見つけた魔物にデバフ魔法をかけた後、『宵闇』で片っ端から倒していった。この流れは完全にパターン化された動きとなった。


 ついでに『感覚強化』も発動させていたら、少し遠くで誰かが走る音と息を切らす声が聞こえた。僕は思わず身を潜める。


 その方向を観察すると、ネコミミを揺らせながら走る少女の姿が目に入った。近くには他に誰もいないようだ。


 すると、僕がいる方と反対側からアォォォンという声が聞こえた。おそらく狼の魔物だろう。この様子だともしかしたら少女を狙っているのかもしれない。


 観察を続けると、やはり狼魔物が少女を襲った。少女は間一髪で躱そうとするが、ギリギリ避けきれなかったらしい。襲われた衝撃でその場に倒れ込んだ。


 狼魔物は三体で狩りをしているようで、今にも倒れた少女に飛びかかりそうだ。


(どうする……。助けるべきか、このまま見過ごすか……)


 こんな森の奥で少女が一人なんて、おそらくロクなことじゃないだろう。多分だけど、とてつもない面倒ごとが待ってるはずだ。


(……まあ、仕方がない、か)


 僕は静かに『宵闇』を展開した。つまり、少女を助けることにした。面倒ごとが待ってそうだが、ここで助けないと一生後悔する気がしたからだ。助けないで後悔するよりは助けて後悔した方が断然マシだ。


 少女へと飛びかかった先頭の狼魔物に向かって『宵闇』を放つ。霧のように瞬く間に広がった『宵闇』は狼魔物をガッチリと捕らえた後にしっかりと侵食しておいた。


 その後、他二体もしっかりと侵食した。後で使用可能魔法が増えたか確認しなければ。


 とりあえず会話をするために僕は少女へと近付いた。少女は未だ怯えたような目をしている。


 そんな少女を安心させるために僕は手を伸ばして一言。


「えっと……その……大丈夫?」


 咄嗟に出た言葉は予想以上にぎこちなかった。自分のコミュニケーション能力の低さに心底呆れ返ったのは言うまでもない。


読んでいただきありがとうございます。


とりあえず第二章です。視点がコロコロ変わっているので分かりにくかったらすみません。ご了承ください。





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