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異世界召喚のデバフ使い〜宵闇を従えし少年は最強の道を進む〜  作者: 白崎仁
第一章 デバフ使いと異世界召喚
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最悪の始まり



 それはまだ空が紫がかっている朝方のことだった。外から聞こえる騒がしい声で目が覚める。どうやら何人かの人が廊下を行き来してるみたいだ。


 なんだか一度起きたら目が冴えてしまったので起きることにした。眠くなったら昼休憩の時にでも昼寝をすればいいだろう。


 そんな事を考えていたら、急に扉をドンドンッと叩かれた。それがあんまりにも激しかったので反射的に体がビクッとなってしまう。


「おいっ!開けろ!!今すぐ出ないとブチ破るぞ!!」


 何故か怒鳴り声で話されるのを不思議に思いながらも、部屋の扉を開ける。すると、外には五人の兵士がいた。兵士たちは僕の姿を見るなり、鬼の形相で僕を取り押さえてきた。


「うわっ!ちょっ、痛ッ!痛いですよ!」


「うるさい!さっさとこっちに来い!!」


 兵士たちは僕の腕を拘束したまま何処かへと連れていく。この方向からして行き先はおそらく……玉座の間だろう。



◇◇◇



 兵士たちが連れてきた先はやはり玉座の間だった。だが、何故僕を玉座の間に?用事があるなら普通に呼び出せばいいのに。


「国王陛下!ただいまお連れしました!」


「うむ、ご苦労であった。もう下がってよいぞ」


「は!」


 兵士たちはそのまま後ろへと下がる。玉座の間には国王とグレイスさん、そしてエルガーさんを始めとする王国騎士団の人たちが数名いた。彼らたちは皆一様に暗い表情をしていた。


「あ、あのー……」


「発言を控えよ!国王陛下の御前であられるぞ!!」


 僕はその場のあまりにも重い空気に耐えられず言葉を発する。だが、その言葉は王国騎士の一人によって遮られてしまった。


「……紘太よ。そなたは昨日の夜中、どこで何をしておったか?」


「え?いや、昨日の夜は早めに寝ましたけど……」


 国王から変な事を聞かれたので首を傾げつつも、僕は質問に返答した。


「それを証明する者は?」


「自分の部屋なのでいないですね」


「そうか……」


 国王はため息を一つつくとその場に立ち上がった。そして耳を疑うような宣告を告げた。


「コウタ=アマクサ!お前を国家反逆罪及び王族殺害未遂の刑で死罪とする!!」


「……え?」


 それは死刑宣告。あまりに急であり、全く身に覚えのない罪を告げられたので、頭が混乱して弁明や否定の言葉が出てこなかった。


「王国騎士よ!罪人を捕らえよ!!」


 国王の声とともに、控えていた王国騎士たちが一斉に僕のもとに走ってきた。そして僕を一瞬のうちに捕縛した。捕縛されている間も僕は何がなんだか訳が分からず、なんの抵抗をすることもできなかった。


「エルガーよ、牢獄までの連行を頼めるか?」


「承知しました」


「ちょ、ちょっと待ってください!!なんで、なんで僕は犯罪者なんですか!?僕は何もやってませんよ!!」


 ようやく今自分が置かれている状況を理解し、ついさっき告げられた覚えのない罪を否定する。


「王よ、どうされますか?」


「……よかろう」


「は!では、私が……」


「いや、私が話そう」


 どうやら国王が経緯を話してくれるみたいだ。エルガーさんはしっかりと僕の後ろに待機している。


「昨夜の未明のことだ。謎の物音とともに私は目を覚ました。物音の方向を見ると、暗がりで顔は見えなかったが、誰かが私の部屋に侵入していたのだ。しかも手にはナイフを持って。侵入者は私が起きたことに気づくと、慌てて部屋の窓から出て行った。これが昨夜の出来事だ」


 たしかに国王の話を聞く限りでは、その侵入者とやらは罪に問われて間違いないだろう。だけど僕には全く身に覚えがない。昨日だって早くに就寝したので、そんなこと出来るはずがない。


「じ、じゃあ何故僕が犯人だと思ったんですか……?顔は見えなかったんですよね?」


「その通りだ。だが、一つ決定的な証拠を見つけたのだ」


「証拠……?」


「これだ」


 そう言って国王はとても見覚えのある()()()()()()()()()()()()()を取り出した。


「な……!そ、それは……」


 僕は右腕を確認する。そこにはあるはずのものが無かった。つまり、国王が取り出したあのブレスレットは……。


「このブレスレットはお前のだろう?紘太よ」


「それは……間違いないです……」


 たしかに思い返してみれば、朝起きた時から一回も見ていない。昨日の夜も寝る時につけていたのだが、何故か朝には俺の腕についていなかった。


「これが侵入者が去った後の私の部屋に落ちていた。ということはこれの持ち主が犯人だということだ。それは分かるな?」


「はい……で、でも、僕には動機が無いじゃないですか!」


 僕はまるでサスペンスドラマの犯人ばりに分かりやすい弁明をする。


「これはあくまで聞いた話なのだが、お前は《デバフ使い》だそうだな」


「!?な、何故それを……!!」


 僕はグレイスさんに忠告された日から誰にも自分が《デバフ使い》だとは話していない。また、ブレスレットの話もある一人を除いて、この世界では誰にも話していない。


 その二つを考えた時、僕を嵌めることが出来る人物はただ一人しかいない。


「ま、まさか……」


 その人物は第一王女、グレイス=リグノリアだ。彼女の方を見ると、彼女は下を俯いていた。まるで我関せずといった感じだ。


「お前も知っているだろう?デバフとは魔族が使う魔法だ。つまりデバフを使いこなす《デバフ使い》は魔族と関わりがあると言っても過言ではない。そうだろう?」


 いや、それはさすがに過言だろ!と思いつつも、言い返したところで意味がないことは分かっているので、黙るしかなかった。


「ふぅ、これで分かったか?証拠も動機も少しではあるが揃っているお前を犯人とせざるを得ないだろう。なぜなら他に誰も該当する者がいないからだ」


 筋が通ってない訳ではないが、割と無茶な理論で話す国王に言い返したいが、どう反論すればいいのか分からない。やってないものはやってないと言うしかないが、それが証拠や動機の反論にはならない。つまり絶体絶命だ。


「……反論は無いようだな。では牢獄へと――」


 ドガァァァァァン!!!


 すぐ近くから爆発音と何かが勢いよく崩れる音が聞こえた。それと共に土煙が周りが見えないほどに辺りを覆っていく。おそらく崩れたのは壁だろう。


 と、その時誰かが僕の手を引っ張った。僕はされるがまま腕を引っ張る人物にどこかへ連れてかれていく。


「う、え、えっ、あの……」


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 話しかけてもその人物は答えない。というより、走るのに夢中という感じだ。


 それから僕たちは玉座の間を出た。同時に土煙も晴れて、僕を引っ張る人物も誰か分かった。


「ぐ、グレイスさん!?」


 僕をあの場から連れ出したのは、僕を嵌めた候補筆頭のグレイスさんだった。彼女は左手で自分のドレスのスカートをたくし上げながら、右手でずっと僕を引っ張っている。


「い、今は夜が明けたばかりなので、見回りの兵士たちも少ないはずです。裏口から外に出れば大丈夫なはずです」


「ど、どうしてそこまで僕を助けてくれるんですか?僕はグレイスさんに何もしてないというのに……」


「これはただの私のエゴなんです。だから紘太様が気負う必要は全くありません。それに……あっ!」


 グレイスさんが何かを言いかけたところで、前方からたくさんの兵士が走ってくるのが見えた。おそらく目的は僕だろう。


「もう来てしまいましたか……。この分だと裏口も……それなら!」


 グレイスさんは「こっちです!」と、さらに僕の腕を引っ張っていく。どうやら他の出入り口に連れて行ってくれるようだ。


「やはり!ここならまだ安全です!」


 グレイスさんに連れてきてもらった場所は地下道のような所だった。おそらく王家の者しか知らない、非常用の出入り口なのだろう。


「さあ、早く行ってください!」


「あの、その、ありがとうございます!」


 僕は今までにしたことがないくらい、とても綺麗なお辞儀をした。あの絶体絶命の状況から助けてくれたのだ。お礼はしてもし足りないだろう。


「紘太様。本当にすみませんでした……」


「え?」


 意外にもグレイスさんから謝罪されて驚く。まさか謝られるなんて思いもしなかったからだ。


「こちらの都合で召喚したというのに、こちらの都合で捕らえようとしてしまって……。本当にすみません。今はどうかお逃げください」


 彼女の表情からも申し訳ないと思っていることが窺える。彼女が国王に《デバフ使い》のことやブレスレットのことを話した犯人じゃないのか?


 そんなことを考えていたら、兵士たちの声が聞こえてきた。おそらくこっちに向かってきているのだろう。


「ほら!早く逃げてください!」


「わ、分かりました!」


 僕は地下道の中へと走った。チラッと振り返るとグレイスさんは魔法で入り口を塞いでいた。追手が来るのを防ぐためだろう。この分だと彼女が咎められそうで気がかりなのだが……。


 ひとまず進むしかないので、僕は地下道を前へ前へと進んでいく。幸い、地下道にはぼんやりだが灯りがあるので、特に何もなく進むことができた。



 しばらく歩くと、特殊な魔力を帯びた壁がある事に気付いた。一見すると普通の壁だが、今まで感じたことのない魔力が確かにそこにあった。


 試しにその壁を触ってみる。すると、壁が消えて緑の渦が現れた。


「なんだ、これ……」


 僕はゴクン...と唾を飲み込む。明らかに不自然な渦。とても気になるが、この渦に入らなくても地下道を出れば逃げる事は出来る。


 でも……


「よし、行ってみるか!」


 僕は渦に入る事に決めた。もしかしたら、とてつもない場所に繋がっていたり、そもそもどこかに行くためのものじゃないかもしれない。だけど、何故か行かなくちゃいけないような気がした。


 意を決して、渦に手を伸ばす。手が渦に触れた瞬間、手は見事に渦の中に吸い込まれた。ということは、これはどこかに繋がっているという考えで間違いないだろう。


 となると、問題はどこに繋がっているかだが……


「まあ、なるようになれ、だ!」


 僕は勢いよく渦へと飛び込んだ。



◇◇◇



 紘太が渦に飛び込んだ後、消えた壁は元通りに戻り、普段と変わらない壁になった。


 尚、この場所に気付いたものは先にも後にも紘太だけしかいない。


読んでいただきありがとうございます。


何か意見的なものがあれば遠慮せずに書き込んでください。自分では気付きにくいこともあるものなので。もちろん時間があれば、で大丈夫です。

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