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異世界召喚のデバフ使い〜宵闇を従えし少年は最強の道を進む〜  作者: 白崎仁
第二章 デバフ使いとネコミミ少女
13/19

少女の覚悟



 僕が睨む先には自分の配下の魔物が全てやられて、一目散にこの場から逃げ出そうとする男がいた。


 僕は『宵闇』で黒白シカを侵食しながら男の元に歩きながら向かう。男は必死な形相だったが、途中から何故かニヤニヤしながら走っていた。


 僕はその様子に訝しみながらもゆっくりと追いかける。だが、その男のニヤニヤの理由はすぐ分かることとなった。


「はぁ、はぁ。お、おい!こいつがどうなってもいいのか!」


 男はついさっきまで黒白シカの影に捕らえられていたクーリアを人質に僕を脅してきた。クーリアの首筋にナイフが当てられている。


「うぅ、あ……」


 どうやらクーリアは影の何らかの作用で思うように動けなかったらしい。その顔はとても苦しそうだ。同時に僕の表情も険しくなる。


「さあ、お前の固有魔法を解除しろ!あと両手も上げろ!」


 僕はひとまず言われた通り、『宵闇』を解除する。まあ、正直『宵闇』を使えなくなったところで負ける気はしない。


「はぁ……しょうもないな」


「あ?お前、今の立場を分かって言ってるのか?」


「分かるよ。お前は元々クーリアを連れ戻しに来たんだろ?それなのにわざわざ殺すわけないだろ。今は俺への抑止力としてナイフを突きつけてるだけ。そうだろ?」


 男は何も話さない。だが、その表情から図星であることが容易に分かった。


 やがて男の中で何か考えが浮かんだのか、その顔がまたニヤニヤした顔へと戻った。


「ああ、そうだ。お前の言う通りだよ。だけど、それがどうした。魔法を使えないお前に何が出来る?分かったら大人しく言う通りにしろ!!」


 シンと静まり返った森に男の声が響く。少し早口なことから焦っていることが分かった。


「はぁ……」


 僕は一つため息をつく。それから両手を上げる。男はため息こそ不審に思ったものの、僕が両手を上げたことでもう観念したと思ったようだ。


「そうだ、それでいい。なら次は……」


 男がそう言いかけた時、男の右腕が黒い霧のようなもので締め上げられた。言わずもがな、『宵闇』である。


「がぁっ!な、何故だ!?一体どこから!?」


 周りをキョロキョロする男の背後には黒い穴があった。それと同じ穴が僕の後ろにもある。


「くそっ!これか!!」


 男もその穴に気付いたようだ。僕はクーリアを手招きで呼び寄せて、今も『宵闇』で右腕を締め上げられている男に淡々と説明する。


「僕の使用可能魔法の中には『空間接続』ってのがあってな、それをうまいこと使うとこういう風に魔法も狙った場所に出すことができるんだよ。分かったか?」


「な!?『空間接続』だと!?」


 男は『空間接続』と聞いて、異常に驚いている。それが気になったので詳しく問いただすことにした。


「何かあるのか?」


「なんでお前なんかに……って、痛てぇっ!!分かった、教える!!」


 僕が『宵闇』でグッと男の手を強く締めると、男は簡単に教える気になったようだ。これは今後も使えるかもしれない。


「『空間接続』ってのはな、神話級の魔法なんだよ。俺の知ってる限りでは、この世界で使えるのは一人もいないと思う。だから驚いてんだよ!」


(ふむ……それなら人前で使うのは自重しないといけないな……)


 『空間接続』と聞いた時の男の反応から、とりあえず男の言葉を信じた僕はそう考えをまとめた。これでもう男に用はない。


「よし、分かった。それじゃあ……」


「ちょ、ちょっと待てっ!!お前、まさか……」


「まさか?当たり前だろ。もうお前に用はないし、ここできっちり終わらせようぜ」


「や、やめろ!いや、やめてくださいっ!!」


 僕は初めてニッコリ笑う。そして一言。


「無理だ」


 『宵闇』を針のように鋭く尖らせる。そしてその先端を男の胸めがけて放とうとした。だが、何故かクーリアが間に割って入ってきた。


「どういうつもりだ、クーリア。君はその男が憎くないのか?」


 クーリアは少し俯く。だが、意を決したように力強い眼差しで僕を見直した。


「……たしかに憎しみを持ってないって言ったら嘘になるよ。だけど、それは殺す理由にはならない。まして、紘太にそれをやらせることなんて、私にはできないよ」


 そう言われて考える。たしかに今回は僕は当事者じゃない。クーリアがこいつらにされたことを聞いて、こいつら研究者は生かしてはダメだという考えに至ったわけだ。


 だが、クーリアがいいと言うのなら……やらなくていいのかもしれない。冷静に考えれば、少し先走りすぎた気はする。


 僕は静かに『宵闇』を元の霧のような状態に戻した。


「紘太……!ありがとう!」


 クーリアは満面の笑みでそう言った。その様子を見て、僕も頬が緩んだ。


「なんでクーリアがお礼を言うんだよ……」


「えへへ……」


 僕は男の方を見る。男は右腕をさすりながら、こちらの様子を窺っていた。


「み、見逃してくれるのか……?」


「クーリアに感謝するんだな」


 男は僕の方からクーリアの方を向き直した。それから恐る恐る口を開く。


「す、すみませんでした……。それと、ありがとうございます」


「もういいから。これから二度とこんなことしないで。そして二度と私の前に現れないで」


 そう言ったクーリアの目はとても冷たく、男はその目を見て少し後ずさった。そしてそのまま走って逃げていった。


「とりあえず終わったな」


「うん……」


 クーリアは僕に寄ってきて、僕が着ている黒いローブをギュッと掴む。そんな彼女の手は少し震えていた。やはり怖かったのだろう。


 僕は何も言わずにクーリアの頭を撫でた。そうすると、クーリアは僕にしがみついて泣いた。


(しばらくはこのままだな……)


 少し微笑みながらそう思うのだった。



◇◇◇



「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……」


 男は研究所に向かって走っていた。普通なら左腕がある所からダラダラと血を流しながら、異常なくらい全速力で。


「はぁ……はぁ……。くそっ!なんなんだよ!!」


 男は近くの木に寄りかかりながら、そう悪態つく。何故、男がここまで悪態つくのか。それは紘太たちと別れたすぐ後のことだった。




(へっ、ちょっと焦ったが、所詮は子供だな……)


 男は正直なところ、もうダメだと思っていた。クーリアを人質に取ったまでは良かったが、まさか紘太が『空間接続』で魔法を使ってくるとは思ってもおらず、形勢逆転されてしまったのだ。


 そのまま殺されるかと思ったが、あっという間のうちに助かることになり、こうして逃げてきたのだ。


(それにしても研究をやめろなんて……そんなの無理に決まってるのにな)


 男が逃げる際にクーリアに言われた言葉。それは男にはこれっぽっちも響いていなかった。あくまでただの口約束であり、特に守る必要のないもの。そういう認識だった。


(これからまた研究を進めて、ゆくゆくは……)


『あなたにこれからなんてありませんよ』


 男がこれからのことを考えて、夢膨らませていたその時だった。上空からなんの感情もない声が聞こえてきたのは。


「あ?誰だ?」


『私ですよ。もう忘れたのですか?』


「あぁ、守護者さんか。それで何の用だ?」


 上空から男を見下ろすのはブレスヘイナだった。実のところ、ブレスヘイナは少し前から紘太たちの様子を見ていたのだ。だから当然、紘太たちの結論がどういうものかも知っている。


『彼らはあなた方を許すことに決めたようですが、私はあなた方を決して許しません。まあ、せいぜい来世に期待してください』


「はぁ?何言って――」


 男がそう言いかけた時、一筋の光が降り注いだ。その光はいとも容易く男の左腕を吹き飛ばした。


「ぎゃあぁぁぁぁ!!!」


 静かな森に男の悲鳴がこだまする。ブレスヘイナはこれまた硬質な声で言い放った。


『次は右腕ですね』


「――ッッ!!」


 男は今までに感じたことのない恐怖を身をもって感じた。紘太に生死を握られている時とはまた違った恐怖。どこまでも自分に無関心でどこまでも自然な殺意。


 男は本能的にその場から一目散に逃げ出した。どうにか研究所まで行けばなんとかなると信じて。


 だが、それは不可能だった。


 まるでジワジワと男を追い詰めるかのように、一筋ずつ放たれる滅殺の光。ギリギリ当たりそうで当たらないそれは、どうやら意図的に当てていないようだ。


「くそっ!くそくそっ!!魔物風情がぁ!!」


 男はそう叫ぶが、実際は限界が近かった。左腕は止血ができず、今もどんどん血が流れているので頭を朦朧とし、目も霞んでいる。


(くそっ……!あと、ちょっとなのに……!)


 男は必死に走り続ける。どうにか研究所まで辿り着くために。すると、突然光が止んだ。さっきまでが嘘のように全く光は男に襲い掛からなくなっていた。


 男は上空を見上げる。そこには真っ青な空が広がるだけで何もいなかった。


「は、ははっ……」


 男は思わず高らかに笑いそうになるのを抑える。やっと逃げ切った喜びを無駄に叫んで、また気づかれることがないように。


 

 そうしてなんとか魔法で止血を済ませた男はゆっくり歩みを進め、ようやく研究所へと戻ってきた。だが、そこにあったのは最早研究所と呼べる建物では無かった。


「なんだよ……なんだよ、これはぁ!!」


 研究所だったのだろう建物は瓦礫の山となり、そこら中に研究のための実験器具が散らばっていた。


 また、先に戻っていた研究者たちは体から血を流し、倒れていた。地面には彼らの血液が飛び散り、真紅に染まっており、まさに惨劇そのものだった。


 男は絶望してガックリと膝を落とす。そんな男の元に聞き覚えのある無機質な声が響いた。


『随分と遅いお帰りですね。そのせいであなたの大事なものが無くなってしまいましたよ』


「なんで……なんでてめぇがいるんだよ!!対策は完璧だったはずだろぉ!?」


 男の言う対策とは、ある一定の範囲を魔物に知覚させないようにする魔道具のことだ。その魔道具のおかげでブレスヘイナですら見つけることはできない……はずだった。


『簡単な話ですよ。今まではただ気付かないふりをしていただけ、ということです』


 ブレスヘイナは普通の魔物とは一線を画す存在だ。当然、普通の魔物に効くものもブレスヘイナには効かないことだってある。この研究所の存在もブレスヘイナは知っていながら見逃していただけだった。


「ぐぅ……このクソがぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 男は馬鹿にされた怒りからありったけの魔力を振り絞り、あまり得意ではない魔法を全力で発動する。まさに火事場の馬鹿力のその魔法――火属性Lv4魔法 業炎波――をブレスヘイナめがけて放つ。


 ブレスヘイナはその魔法をじっくりと見た後、ある魔法を発動した。すると、男が放った『業炎波』は瞬く間に霧散した。


「な!?」


『まるで使い物にならない魔法ですね。あぁ、魔法がダメだから研究者になったんですね』


 男は自分史上最高の魔法を一瞬で消され、なおかつ自分が研究者になった理由を当てられて、その場に跪いた。


 ブレスヘイナはそんな男の元へ降り立つ。そして男を見下したまま一言。


『最後に言い残すことは?』


 それに対し、男はブレスヘイナをキッと睨みつけながら叫んだ。


「地獄へ落ちろぉ!!このクソ魔物がぁぁ!!」


『はぁ、なんとも無駄な言葉ですね』


 ブレスヘイナは呆れたようにそう言いながら、光の砲撃で男の胸を撃ち抜いた。


「がふぅ……」


 男は胸に大きな穴を開け、そのまま倒れ込んだ。ブレスヘイナは男が絶命したのを見届けると、紘太たちの元へと戻った。


――無法

 ブレスヘイナが使用する固有魔法。ブレスヘイナが定めたルールを守らない者に対し、光の砲撃を持って粛清する。粛清の程度もブレスヘイナが決めることができる。ルールの適用範囲は《リーゼルーダ大森林》内である。

 

読んでいただきありがとうございます。


なんか終わりの部分が少し締まらない感じがする気がする・・・。もしかしたら改稿するかもしれません。ご了承ください。

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