森の守護者
「……うん、いい感じかな」
僕は手をグーパーして感触を確かめる。手はなんの問題もなく動いた。電流による痺れは完全に取れ、体力もほぼ全回復したようだ。
「よし、そろそろ行こうか」
「……うん」
僕たちは白狼を倒した後、すぐに移動を始めたのだが、やはり魔力と体力の残量が厳しかった。
だから、魔力と体力の回復に専念するために近くで見つけた池のほとりで休憩していたのだ。
森の出口を探すために歩き始めた。その時だった。
ガサガサッッ
「な……!?」
後ろの茂みから音がした。今は魔力回復のために『魔力即時回復』を使用していたので、『感覚強化』を使っていなかった。よって気付くのが遅れてしまった。
ひとまず『宵闇』を展開しながら警戒を強める。
(まさか、もう追っ手が……?)
そう思いながら茂みをジッと見つめる。茂みの先から出てきたのは……
「きゅ?」
「「え?」」
そこにいたのはレッサーパンダのような生物。だけど、普通のレッサーパンダとは決定的に違う点が一つあった。
「きゅいきゅい〜!」
明らかに空を飛んでいる。背中に生えた翼を使って。しかも何故かとても喜んでいる。何がそんなに嬉しいのかは分かりかねる。
「えっと……クーリアはあの子のこと知っ」
「はぁぁぁ〜〜!!」
クーリアは僕の話を全く聞かずに一目散に駆け寄っていった。チラッと見えたその瞳はキラキラと輝いていたので、彼女はああいう可愛いものが好きなのかもしれない。
「よしよし〜。あなた、どこから来たの?お名前は?私の言葉分かる?」
「……」
なんて饒舌なのだろうか。最初に僕と会った時は全然喋らなかったのに。人って接する相手でこんなにも変わるものなんだと初めて知った。
と、ようやくジト目気味な僕に気付いたのか、クーリアは翼レッサーを抱きながらこっちに走ってきた。
「ねえねえ、紘太も撫でてあげてよ!すっごく可愛いよ!」
なかなか興奮気味に話してくるクーリア。その様子を見てると、なんだか笑顔になってくる。まるで歳が離れた妹ができたみたいだ。
僕はクーリアが勧めた通り、翼レッサーの頭を撫でる。
「きゅいいい〜!!」
翼レッサーはとても喜んでいるようだ。クーリアに抱かれながらバタバタしている足が可愛い。やばい、癒しだ。
(でも、こういう子供の動物やら魔物の近くには親がいるはずなんだけどな……)
その考えが当たっていることを僕はすぐに知ることとなる。
翼レッサーがいた茂みの近くからガサガサッッと音が聞こえた。今度は『感覚強化』をしっかり使っているのに気付かなかった。
すぐにその方向を見ると、体は翼レッサーの五倍ほど大きく、その毛の白さからか、どこか神聖な雰囲気を纏った生物がいた。
翼レッサーはその生物を見た途端、その生物に駆け寄っていく。毛の色は違うが、見た目が似ているので親子なのかもしれない。
「ねえ、紘太。あれってもしかして……」
どうやらクーリアも気付いたらしい。まあ、あれだけ甘えているところを見れば当然なのかもしれない。
すると、親翼レッサーがこちらに歩いてきた。大丈夫だろうけど一応構えておく。
『すみませんね、人の子よ。うちの子が迷惑をおかけしました』
(な……声が、頭に響く……!?)
いろいろな漫画や小説で見たことがある現象をいざ実体験してみると、なんだか不思議な感じだった。
『申し遅れました。私はブレスヘイナ。ここ《リーゼルーダ大森林》の守護をしています。以後お見知り置きください』
思いの外、丁寧に自己紹介されたので無言のまま一礼する。ブレスヘイナはニコッと微笑むと、そのまま話を続けた。
『もしかしてですが、迷っておられるのではないですか?』
「……は、はい!そうです!」
まさか言い当てられるとは思わず驚くが、すぐに返事をした。ここの守護者なら出口の方向を知ってるかもしれない。
『それならお詫びも兼ねて街の近くまでお送りいたしましょう。ここらは凶暴な魔物も多くて危険ですしね』
そう言ってブレスヘイナが屈んだ時だった。
「ふっふっふ。そうはさせないよ」
その声と共にどこからか伸びてきた黒い影がクーリアを捕らえた。
「きゃぁぁぁ!!」
「クーリア!」
クーリアはさっきの声の主――白衣の男に捕まっていた。黒い影自体はその男の魔法などでは無いようだけど、男に味方しているようだ。
「ふぅ、全く手間をかけさせてくれるよ。これは後でたっぷりお仕置きをしないとなぁ。グッヒッヒッヒッ!」
男は下卑た笑みを浮かべる。そして僕は理解した。こいつがクーリアを捕まえ、監禁・実験をした犯人だと。
そのことについて言及しようと、僕は男に向かって話しかける。
「おい、お前」
「あぁ?なんだ、ガキ……と、守護者さんよぉ」
チラッと横を見ると、ブレスヘイナもじっと男を見つめていた。その目は僕らに向けたものとは違い、静かだが濃密な殺気を帯びていた。
『また、あなた達ですか。まったく懲りないですね』
「そりゃあ、これを生業としてるからなぁ。あんたにとって、この場所を守ることとそう変わらねえよ」
『心外ですね。あなた達が行っていることは倫理に反している。そんな卑劣な行為と私の使命を一緒にしないでいただきたい』
「はっ!いいか、守護者。お前から見れば悪かもしれなくても、こっちにとっては正義なんだ!勝手にお前の価値観を押し付けてんじゃねえよ!」
男とブレスヘイナの言葉の応酬が繰り広げられる。どうやら男はクーリアへの行いの他にも色々とやっているようだ。だけど、今の僕にはそんなこと関係ない。真っ先に優先すべきはただ一つ。
「そんなことはどうでもいいから早くクーリアを離せよ」
既に多方に展開してある『宵闇』を自分の元に戻しながらそう言い放つ。
だが、男はまるで僕には興味ないと言わんばかりにブレスヘイナの方に向き直した。
「ま、そういうことだ。分かったら引っ込んでな……って、おい、なに余所見してんだ!」
ブレスヘイナは何故か僕のことを凝視したまま一ミリも動かない。表情の変化はよく分からないが、どうやら驚いているみたいだ。
『……あなたがそうでしたか』
「え?」
『いえ、こちらの話です』
ブレスヘイナは再び男の方に向き直った。僕は不思議に思いながらも男の方を見やる。
「はぁ、あーもう、めんどくせえな。丁度いい。お前も実験の材料にしてやるよ。ほら、こっち来い」
男はニヤニヤしながら手招きをする。
『誰があなたなどについて行くと?』
「はっ!最初から合意を得ようなんて思ってないさ。さあ、行け!お前ら!!」
その声と共に周囲から男と同じく白衣を着た男女と様々な魔物が現れ、一斉に魔法や物理攻撃をブレスヘイナに仕掛けた。
「な……!?」
周囲に男の仲間がこんなにいるとは思わず、驚きを隠せなかった。
『くっ、やはりいましたか……。ですが、この程度なら!』
ブレスヘイナが白い魔力光で輝く。そして、全方向に白い波動を放って、全ての攻撃を防御した。
だが、男はまるで動じず、その口元をニヤリと上に上げた。その瞬間、男の背後から三本の黒い影がブレスヘイナめがけて伸びた。ブレスヘイナは気付いていないみたいだ。
「守れ!『宵闇』!」
僕は『宵闇』をブレスヘイナの周りに展開し、性質変化で金属へと変化させる。影は『宵闇』に当たると、『宵闇』ごとブレスヘイナを切り裂いた。
『ぐ……っ!』
ブレスヘイナは苦痛で声を漏らしたようだが、まだ大丈夫なようだ。
「うん?なんだ、それ?ガキぃ、お前の魔法か?」
「だったらどうした?」
「見たところ闇属性魔法のようだが……違うな。固有魔法か。面白いな、ちょっと調べさせてくれないか?」
「嫌に決まってるだろ。馬鹿なのか?」
「俺たちが馬鹿、か。せっかくお前らのために研究してやってんのになぁ。まったく酷い言われようだ」
「僕たちのため?」
「ああ、そうさ。お前らのために魔物を飼い慣らす研究をしてやってるというのに。本当、一般人どもは……」
男はあくまでも人のための研究だと言うらしい。だが、クーリアはどうだ。彼女も人ではないのか?何故、実験される側にまわっているんだ?
「その研究に彼女は必要ないだろ」
僕はクーリアを指差してそう言う。男は「あー」と頭を掻きながら何かを考える。そして男は言い放った。
「お前がどう考えてるかは知らねえが、こいつらはどう見ても人間じゃねえだろ。この耳や尻尾は明らかに魔物のものだ。なら、扱いは魔物と同じでも構わないだろ?」
「は?」
その時、自分でも信じられないくらいの暗く歪んだ感情が心の奥底から溢れ出した。まるで王城の時のように。
そして僕の心が決まった。こいつは何がどうなっても潰す。二度と研究なんぞが出来なくなるまで。
まずは読んでいただきありがとうございます。
今回は研究所の人たちとの相対シーンでした。今回はあまり書いてませんが、もう少し後に色々目的やら研究内容やらを書いていくつもりです。
次回も読んでいただけると幸いです。励みになります。




