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私の父

日本の中心はどこであろうかと考えたことはないだろうか。答えは簡単である、岐阜県だ。理由は日本のど真ん中を名乗る道の駅があるからという、いかにも胡散臭いものであるがとにかくこの町では岐阜こそが日本の中心であるという誇りを誰もが持っている。少なくとも私は。日本の中心とあって四季を堪能することができる。春になれば淡墨桜がその妖しげなそして美しい桜を咲かせてみせる。夏になると日本一暑い多治見市も岐阜県だ。秋になると地元のお年寄りはこぞって山に旬の食材を調達しに向かう。恵那のあたりでは栗きんとんが名物なのは言わずもがなであろう。冬になれば、一面銀世界の白川郷や高山の街並みが美しくとにかく日本で一番四季を味わうことができるのが岐阜県なのである。

淡墨桜のつぼみが膨らむ頃、私は晴れて高校生になった。記念すべき入学式の朝、春休みの名残から危うく寝坊してしまう間際に母に叩き起こされ、新しい制服を身にまとい食卓に向かう。母は心配性である。私が呑気にトーストをかじっていると、「はようせんで大丈夫?」と言って私を急かしてくる。心配してくれるのはありがたいが、私がこれから通うことになる高校は自宅から目と鼻の先にある。なんなら弁当を忘れても取りに戻ることができるくらいである。そんな母の心配をよそに私は父の方を向く。父はそんな私と母のやりとりをいつも変わらぬ笑顔で見てくれている。正確には変えられぬとでも言えばいいのか、私が物心つく前に父は他界している。原因は働きすぎによる過労であった。父は生前教師をしていた。生徒からの信頼も厚く熱心な教師だったと最近母から聞いたのだが、私はよく知らない。私が高校を決めた理由の一つに元々父が働いていたというのがある。私の知らない父を知ることができたらという雲をつかむような淡い期待をしていた。父について他に知っていることは、母のことを一途に愛していたことぐらいであろう。故に母は私が15になろうかというのに未亡人である。両親の馴れ初めについて詳しくはわからないけれど、お互い一途だったのであろうと推測している。私も父のように一途な男性と結婚したいと思っている。朝食を食べ終え入念に支度をし家を発つ。期待と不安を胸に学校へと向かう。新しい友人との出会いもそうだが、父のことを知る先生たちとの出会いを待ち焦がれていた。入学式というのは実に退屈である。つまらない話にうとうとしながらもなんとか睡魔を乗り越え、クラスごとに別れ、ホームルームが始まった。

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