私は事務員。
ドラゴンと合う
暖かいスープとともに、アズーリさんから色々と情報を聞いた。
大使館も電話もなく、アメリカもチャイナも知らず知らず、ここはアルガード国内の国境沿いの辺鄙な村だということ。
アズーリ村長夫妻には娘と息子がおり、出稼ぎに出ているそうだ。大半の農閑期今はどこも同じで、年寄りと子供しか居ないということで、若い私は貴重な働き手として、歓迎されたのだった。
雪深くなるこれからの季節はこの村から出ていくのは危険だということで、いく宛のない私はほっとしたのだった。
それともう一つ。この世界には魔法があり、魔法が使える人間は身分は関係なく、出世できるそうだ。
アズーリの要らなくなった洋服をもらい、この夜は寝ることにした。
あれから、一週間がった。
私は、村長のアッカズさんの帳簿付けの手伝いをしていた。
でんでん虫のようなスワヒリ語のような文字を覚えつつ、どんぶり勘定のアッカズさんの帳簿と格闘中である。
雪解けのあとで、領主に提示するとのことだという。
何せ、物々交換の村において、領収書が存在しなかった。
来年の補助金と税金の精算が必要で、勘定の苦手な村長は、計算のできる私に丸投げしたのだった。
そんな中で、行き倒れた林の奥にある森から獣に咆哮が聞こえて来る。それは、一日中、鳴り響き恐ろしいものであった。
村長は領主に兵士の派遣をしてもらうため、手紙をしたためていた。しかし、雪深く僻地のため孤立している村は、雪解けを待ってからの話である。
ブオーと、鳴り響く村長の家では、モモカと村長が揉めており、それを温かく見守るアズーリであった。
「村長!何かあってからでは遅いんですよ!
私が様子を見てきますから、ギルドに要請してください。」
「何をいっておる!いくら、法力があるからといっても危険じゃ!それにギルドは無理じゃ!金がない!」
「それは、あなたが高級な酒を買い込んだのが悪いいんでしょうが!横領って言うんですよ!来年からはやめてくださいね。」
そう、何を隠そう。
私には、魔法が使えたのだ。それに加え、妖精が見える。そのため、森にいる獣の情報が入って来ていた。
「うう~。だってのう。」
「すねてもダメですよ。」
「じいさんの敗けじゃ!はよう、ギルドに連絡しなさい。」
魔法があれば、手紙も飛ばせるらしく、領主にも連絡することとなった。
あれは暴れ竜だよ!
暴れ竜!
助けるの~
と、羽の生えた小さいものたちが、私のそばで騒いでいる。
「わかったから。明日森に入ってみるからね。」
明日は晴れると騒ぐので、朝一で出掛けると約束して、眠りにつくのである。
人見知りの妖精が、現れるのはこうして夜になってのことだ。おしゃべり好きな妖精が色々と情報をくれるのは、ありがたく、どうしたらいいのか、わからないことはこうして、夜に聞くこともできた。
一人知らない世界でも生きて行けてるのも、おしゃべりな妖精たちのお陰である。
隣の家のへそくりは戸棚の奥とか。
あそこの家の娘は、隣の息子が好きだとか。
立派な諜報部員である。
そして、翌朝。
毛皮のコートをアズーリに着せられて、森に向かった。魔法のある私は空を飛んで行けばいいので、咆哮が聞こえる方向に向かった。
こっちだよ
こっちだよ!
妖精たちが楽しそうに、くるくると私のそばを回っている。
ブオー。
ブオー。
森の奥。
上空。
あれだよ!
あれ~。
暴れ竜!
竜だよ。
「話がわかるって言うけど、ほんとなの?
声がうるさくって、こっちの話なんて聞こえないンじゃない?」
だいじょーぶ。
僕らが何とかする。
何とかする!
そういうと、森がざわめき、無数の光が咆哮のするところに集まり、静になったのだ。
すうっと、光の集まるところに、降り立った。
ピカピカの黒い鱗。
体を丸めているのか、アルマジロのように、真ん丸くなっていた。
ピーピーと泣いている。
「ドラゴンってこれ?
地獄の一丁目ってくらいの鳴き声が、村中に響いたのにね。アルマジロじゃん!でっかいけど。」
そして、ピーピーと泣く合間に声が聞こえてきた。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」
真ん丸いアルマジロのドラゴン。
世界最強の生物。
魔法が使えて、妖精もいる。
でっかいアルマジロがドラゴンで、しゃべっても驚かない。
だけど、妖精がいっていた、最強伝説と違う。
山のように大きく、その咆哮を聞いたら、恐怖で死んでしまう。
「うん。ドラゴンさん。ドラゴンさん。どうして泣いているの?大丈夫?困っているなら話しを聞くよ。聞こえるかい?ドラゴンさん。」
ピーピーと泣く。
そこにいるのは、アルマジロな弱そうな黒いドラゴンだった。
ありがとうございます