2話:召喚された理由
「え!!!!!! 結婚!? なぜ俺なのですか? 出会ったことなど一度もないのに......」
「春月殿は覚えてはおらんだろうが、一度だけ会ったことがあるのです。
妾が見知らぬ者に絡まれたとき、春月殿は数に臆することもなく妾を助けようとしてくれました。
その時の勇姿がいまだに脳裏に焼き付いており忘れられないのです。
きっとあの出会いは運命だったのでしょう!」
インド人もびっくりである。まさか、別次元から来て会っていたとは......
こんなに綺麗なら覚えていてもおかしくないのに失礼なことに何一つ記憶にない。
覚えていないとか言ったらがっかりさせてしまうだろう。
俺は滑りそうだった口をつぐんだ。
それより気がかりなことは、
「俺って二度と帰れない感じですか?」
「いや、さっき娘が言った通り別次元を渡れるので帰れるが......」
魔王が口を挟んできたが、
「春月殿を何が何でも惚れさせて帰る気をなくさせます!」
「という訳ですまんな。つまりそういうこと。お主は帰れない。まぁ、他にも理由があるからなんだが」
マジすか。てか、なんで俺が連れてこられたのか。
「一つ目は魔力が関係しておる。魔力のある世界で生きてきたものは魔力のない世界で生きることがなぜだか困難なのである。長くても一年が限界であった。だが、逆の立場のものはむしろ長生きをしたという研究結果が残っておる。
二つ目は異世界人との混血は強い子が生まれる。正直、魔王的に大事なところ。次世代候補に大事なのでな。
三つ目は娘の婿になるからには雑魚では困るので強くなってもらおうとして。
ちなみに娘との話し合いにより私を倒せるようになったら元の世界に自由に行き来できるようにしてやろう」
人の知らんところで何勝手に話し合って決めてんだよ、と思っただけにしておいた。
俺には決定権などないのだ。
「ああ、あとこっちにはお主の世界のような忙しい仕事は少ないぞ」
なんてこった異世界最高。
おっと軽く気持ちがブレてしまった。いかんいかん。
「いや、でも......」
「やはり、妾ではだめなのでしょうか......」
そう言って少し涙目で悲しそうにこちらを見つめた。
魔王の視線が殺気めいている。
慌ててフォローをした。
「そんなわけないですよ!自分にもったいないくらいサラさんは文句なしの美女の中の美女ですよ!
本当に自分と結婚してもよろしいのですか?」
美女はその言葉を聞き満面の笑みを浮かべ、
「もちろんです!」
「では、決まりだな。明日はパーティーだ。明日のために今日はゆっくり休むがよい。レミよ、春月殿を客間へ」
そう言って悠々とどこかへ行ってしまった。
口車に乗せられてしまったが、まさか、俺が結婚するとは......
そういえば、親を呼ぶことはできないのだろうか?二人はどこかへ行ってしまったのであとで聞いてみよう。
そう思いながらレミという従者に案内され部屋にたどり着いた。
「こちらの部屋です。基本的に明日までこの部屋から出なければ何をしてもよろしいです。何か質問がございますか?」
「そうですね......トイレや風呂は部屋に設置してありますか?」
「ございます。替えの服も部屋に用意しております。他に何かございますか?」
「あ、あと何かあったとき誰かを呼んだりするにはどうすればよろしいですか?」
「こちらの呼び鈴を鳴らしてもらえば私を含めた従者が春月様のもとへ駆けつけます。念のために一度鳴らしてみましょう。」
ーチーンー
結構小さい音だな。聞こえるのだろうか?
しばらくすると誰かがノックをし入ってきた。
「春月様、何かございましたか?」
「忙しいところをわざわざすまないシア。今回は春月様のために私が鳴らしたのだ」
「そうでしたか。それでは失礼いたします」
シアはそそくさと部屋を出て行った。
「それでは私も仕事がございますので失礼します」
そう言うとレミもそそくさと部屋を出て行った。
俺はあまりにもせわしい時間を過ごし、どっと疲れが出たのでベッドに寝転んだ。
明日はパーティーか......ん?パーティー?結婚式ではなくてなぜパーティー?
そう思っていると魔王様が直々に俺の部屋にやってきた。どうしたのであろう。
「ひとつ言い忘れたことがあってな」
「言い忘れたこととは?」
なんか嫌な予感しかしないな......
「なぜ結婚式ではなくて、パーティーなのだろう、と思っているであろう?」
「な、なんでわかったんですか!」
「勘である。まぁ、これはこれとしてなぜ結婚式ではなくてパーティーなのかについて伝えなければならない。
先程、強くなってもらわないと困ると言ったことを覚えているであろうか?」
「そういえば、そう言っていましたね」
「まぁ、サラが決めた婿なのでとやかく言いたくないが我は結婚には正直反対なのだよ。
だが、サラが決めたことであるから我は文句など言いたくない。
そして議論した結果、我を倒せるほど強くなり、倒したあかつきには結婚を許すという約束を交わしたが、
せめてパーティーくらいはということで今回は開くことにした。
というわけでサラを悲しませるのではないぞ?万が一の場合、魔王直々倒しに行くからな?」
「も、もちろんですよ!」
ということは聞くまでもなく「結婚式開く=俺の世界へ自由に転移可能」なのだから母親を呼ぶ必要はないな。
数日ならサラさんも大丈夫なはずだしな。
ん?てか、倒しに行く?訓練してくれるのではないのか?
「何を言っている?訓練などせんぞ。よく考えてみよ、反対している奴が手を貸すか?
まぁ、我も鬼ではないのでプリメランという人間の町まで飛ばしてやろう。
そこから道中で強くなりながら我が魔王城を目指せ。
その前に1週間ほど回復魔法を教えてから飛ばすことにしよう」
確かにその通りである。よくよく考えればわかることだ。訓練など受けさせず、それっぽいことを言ってどこかへ飛ばして手先を送り暗殺したりなど簡単にできる。
やはり、魔王であることは伊達ではない。娘に対しての自分の株を落とさずいかに自然に俺を殺す策略を何個も練っているのであろう。
「ちなみに手先など送らんからな。そんなに勘繰るな」
なぜまた俺が思っていることを......
「我はそこまで器は小さくない。
ただ単純にプリメランは始まりの町といわれていてな強くなるのに丁度いいのだよ。
本当にただそれだけである。
それにお主はなかなか賢そうであるから正直わずかだが期待しておるが、そんなに気負う必要などない。
若かりし頃の我もかなり気負って緊張していたが楽にやればよい。なんだかんだゆっくりが一番だ。
それに回復魔法を教える時点で察しておくれ」
魔王様も苦労したことがあったのだな......
確かに回復魔法を教えるなんて普通ありえないよな……勘ぐっていた自分が恥ずかしいが本心かわからない。一応用心しよう。
「おっと、長くなってしまった。今日はかなり疲れたであろうから早めに寝るがよい」
そう言うと部屋から出て行ってしまった。
また俺はベッドに寝転んでこれからのことに不安を抱えながら考えているうちに意識が遠のいた。
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