1話:人生とは不思議なものである
「春月、ドラッグストアで洗剤とアイス買ってきてくれない? お駄賃は出してあげるから」
「いや、大丈夫だよ。就職決まってもうフリーターじゃないんだし」
そんな会話を交わして家を出た。
母子家庭でありながら大学へ行かせてもらったのに就職できずフリーターだったこの1年間、母さんにはいろいろ助けてもらったのだから母さんの好きな Lady Boneでも買ってきてやるか。こういう小さなところから親孝行をしよう。
そう思いながらドラッグストアを出た瞬間、車が俺を目掛けて突っ込んできた。
嘘だろ!? 頭はそこまでテンパってはいなかった。むしろ冷静だった。右側が少し空いているな。なら、そっち側へ避けよう。だが、体が動かない。これで死ぬのか? 案外あっけないものなんだな。なんか走馬燈が見えてきた。少中高、大学。貧乏だったが友達とか周りの環境はかなり恵まれていた悪くはない人生だった。ただひとつ、もう少し親孝行はしたかったな......目の前で止まってはくれないだろうか......
だが、無情にも車は止まることはなかった。
ードンー
鈍い音が身体全体に響いた。
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......夢か、いや夢ではなく現実であった。
だが、俺は助かった。その代償に俺はこの世界に召喚されたのだが......
~昨夜~
「訳があり、春月殿をこの世界に召喚しました。このような場所で陳謝する無礼をお許しくだされ」
やはり、ここは異世界であったか......
「しかしなぜ、俺は召喚されたんですか? まさか、魔王を倒すために召喚された感じですか?」
まぁ、きっと違うだろう。後ろの男を見ればわかる。少なくとも魔族側なのだろうが、必ずしも人間の味方ではないとは限らない。その前に人間がいるのか知らんが。
それでもなぜ俺は呼ばれたのだろうか。
「そうですね......その前にお腹がお空きであろうから、食事をしながら話しましょう」
彼女はそう言って手招きをし、道案内をし始めた。
本当に異世界なんだな......メイドや部下らしき者とすれ違う度にそう思い知らされる。人型はいるが獣耳が生えていたり人間とは違うことがわかる。
俺はいつか帰れるのだろうか?
「ここが食堂である。席に座ってしばしお待ちください」
しばしお待ちください、と言われましてもさっきのおっさんがこっちをガン見していてめっちゃ怖い。あの眼光で殺されそうだよ。
だが、コミュニケーションは大事だ。コミ障では出世できない。小学生でも知っていることだ。
それにあの椅子、あの座り方。見た時からわかっていたが、かなりお偉い人って相場は決まっている。
「えーと、Hello?」
俺は馬鹿か。いきなりHelloなんて言うやつがいるか。あ、俺か。
やはり黙ってしまったが、数秒後、
「Hello. My name is kaiser. Nice to meet you. Where are you from?」
中学英語で返された。しかも、妙に流暢でLとRの区別できてるし。
「すみません、こっちの方でお願いします」
「そうか」
「なんかすみません」
「我は魔王だ。そのようなことでは気にはせぬ。むしろなかなかのユーモアであったぞ」
たいしたことでなんか褒められた。日本じゃ今頃追い出されるだろうに、度量の大きい人だ。てか、魔王は度量が大きくなくては務まらないか。
ん?それより今魔王って言った?
「魔王様だったんですね......」
「いかにも私は魔王である。ちなみにお主を道案内していた女は私の娘だ。とても美しいであろう? 生まれた時はとてもとても可愛くてな、加えて、年をとればとるほどみるみる美しくなって我が亡き妻・レイナによく似てきて......etc」
これでは威厳もくそもない。まるでヤクザが愛娘について語っている時並に威厳がない。
だが、本当に美人だなと思う。自称フツ面の俺には付き合うなど到底無理であろう。
しばらく適当に相槌を打っていると料理が配膳されたので早速いただいた。
この肉は何の肉であろうか? ナイフで切ってみて気付いたがなかなかの肉厚であり口に入れて噛むと肉汁が口の中で踊り、飲み込む最後まで楽しめる。
「なかなかうまいですね」
「妾がお作りしました。未来の旦那のために修業したのですよ」
料理までできるなんて未来の旦那が羨ましすぎる。実にけしからん。
まぁ、それはそうと、さて、腹も膨れたしそろそろ本題に入るか。
「あ、そうそう、俺はなぜ召喚されたんですか?」
最も肝心なことである。
彼女は少し時間を空け、言葉を発した。
「単刀直入に言うと、妾は春月殿と結婚したく召喚しました」
人生どう転ぶかわからないものだ。
実は2年前までLady BordenをLady Boneと勘違いしてました(笑)
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