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03話「無理ゲーだと思ったものは超ヌルゲーでし……いや、やっぱり超クソゲーでした」

 


(……なんでみんな私を見てるんだろう?)


 決して優奈の自意識過剰という訳ではなく、本当に周りの人々は皆、優奈を見てコソコソと話をしている。偏見があるかもしれないが、道端で噂話をするおばさんのように。


「まぁ、自分の服装が珍しいからでしょ」


 と特に気にすることもなく、門の列に並ぶ。しばらくすると優奈が門の兵に検査される順番がまわってくる。しかし、やはり兵士も様子がおかしい。


「勇者様! お疲れ様です! 検査は結構です! どうぞそのままお進み下さい!」


 と敬礼し、そう告げる兵士。優奈は辺りに勇者がいるのかと、キョロキョロと見回すが、辺りに勇者らしき人物は見当たらない。そして、あまりにも兵士と目が合うので、自分のことを勇者と呼んでいるのではないかと、ふと脳裏をよぎっていた。


(……絶対に人違いだよね。どうしようかな。勇者のふりしとこうかな)


 優奈の判断は早かった。


 勇者のふりをすることにした。使えるものは何であれ、使っていく主義だ。バレないうちにさっさと行ってしまおうと思うが、どこに何をしに行くというのか。ましてや優奈は無一文だ。宿に泊まろうにもお金がなければ泊まることは出来ない。


 なのでボロを出さないように兵士にそれとなく聞く。


「うむ。楽にするが良い。ところで冒険者ギルドはどこだ? 旅の途中でな、ギルドに寄りたいのだが……」


 不自然にも程があるだろう。しかし、これが優奈の全力の勇者のふりだった。それにラノベのパターンからして冒険者ギルドはあるだろうという推測から、なんとなくそれっぽい言葉を言った。


「ハッ!  門をくぐり、直進しますと見える一際大きな建物が冒険者ギルドであります!」


 兵士は特に不自然がることもなく、敬礼し、優奈にギルドの場所を説明する。あまりにも警備がガバガバなので、ここの警備は大丈夫なのかと思ってしまう。優奈にとっては良かったのかもしれないが。


(どうやら勇者のふりは出来たみたい?)


「ありがとう! じゃあね!」


 ボロを出す前にと、お礼だけ言うと、一瞬でその場を立ち去る優奈。この時、優奈は勇者とは自分のことを言っているのではない、ただの人間違いだと思っていたが、後に自分が勇者であると知る。


 結城……佐倉優奈は勇者である。


 なので、ふりなど最初からする必要などなかったことになる。優奈の異世界で初めて出来た黒歴史である。


 優奈は兵士が勇者様と言ってきた事しか聞いていないが、周りにいた人々もまた、優奈の事を「勇者だ!」「勇者がきたぞ!」 などと話していた。


 街に入った後も、優奈は人々の視線を感じていた。コソコソと話をしている事にも。「そんなに私の格好って変?」などと的はずれな事をブツブツと呟きながらギルドへと向かっていた。


 歩くこと数分。


「あ! あれかな?」


 目の前には一際大きな、いかにも冒険者ギルドといった建物があった。中にはゴツい冒険者が沢山いるのだろうな、などと考えながら勇気を出してギルドの中へ入る。


 ――シーン。


 想像していたガヤガヤとうるさい雰囲気はなく、人もほとんど居らず、ギルド職員と思われる人達が数人いるだけだった。そのうちの一人が優奈を見て、目を見開いた。


 ガタガタッ!!


「あ! 勇者様!」


 ギルド職員の慌てて書類を落とした音と職員の声がギルド内に響き渡る。やはり、ここでも優奈は勇者と呼ばれた。当然だ。優奈自身が知らないだけで周知の事実なのだもの。


(やっぱり勇者って私の事……?)


 ギルドの職員までもが自分を見ると勇者と呼ぶため、女神の恩恵でも働いているのだろうかと優奈は考えたが、あの女神がそんな事するわけないなと一瞬で斬り捨てた。


「あの……勇者ってどういう……事ですか? 私、武器も持ってないですし、ゴブリンも倒せないんですけど……」


「いえ!  勇者であっておられます!」


 そうギルド職員の一人が言う。続けてその訳を長々と語り始めた。


「この世界には言い伝え、というか過去の記録がありまして――」


 簡単に纏めると、その内容はこのようなものだった。


 三大災厄は討伐されると約二十年周期で復活する。その度に黒髪黒瞳の勇者が現れる。その勇者らは皆、剣や魔法など何かにおいて圧倒的にこの世界の者を凌駕しており、三大災厄のうち、魔王、竜種の討伐を成功した後、この世界から消える。未だ、三大災厄全てを討伐した勇者はいない……


「そして歴代の勇者様も現れた時はただの一般人と変わらない、むしろ劣る程だったと言われています! それは、ジョブ登録などをしていなかったためですが」


「ギルドでは魔道具を用いて、その人のステータスを呼び覚まします。そしてそのステータスにあったジョブに登録して頂きます。勇者様にも今から魔道具を使ってもらいます。勇者様のジョブは勇者です。当然ですが」


 と言ってギルド職員のお姉さんは一度、ギルドの奥へと立ち去る。なんだか、テンションは高かったものの、目の下のクマが気になる女性だ。テスト勉強で徹夜を続けた優奈の顔のようだった。優奈は思い出したくない地獄の期間の記憶を抹消。自分の置かれた状況の整理に取り掛かった。


「勇者かぁ……うへっ……」


 自分が勇者だと知り、ご満悦な優奈はギルド職員が全員、引いてしまうような顔でにやけている。もう頭の中には勇者だという事しかない。クソ女神のことなど微塵もない。ちょっとある……? いや、ない……消した!


 すると職員のお姉さんが魔道具らしきものを持って帰ってきた。魔道具はさほど大きくなく、小ぶりなスイカほどの大きさの水晶が付いたものだった。


「この水晶の上に手をかざして下さい。しばらくすると、ステータスの書かれた紙が出てきますから」


 と言われて、言われた通り手をかざす。そしてしばらくすると紙が出てきた。


  ユウナ Lv.1

 体力:S 9999

 攻撃:S 9999

 防御:S 9999

 敏捷:S 9999

 会心:S 9999

 魔力:S 9999


 敵物理攻撃耐性、敵魔法攻撃耐性、敵幻惑耐性……etc (本当はちゃんと書いてあります。ただ、全て書くとえげつない量になるので割愛します。キャラ設定には全て書いてあります。……あ、ありますよ?)


 ※パーティメンバー数に応じてステータス%変化





「「「「おぉ………」」」」


 紙を見た途端、優奈だけでなく、それを見たギルド職員らも一斉に声を上げて驚く。それもそのはず、優奈のスキルや耐性などの特殊能力が多すぎて、1m程の長さの紙が出てきた。


「こんな数値見たことありませんよ!!」


「勇者様ぱねぇ!!」


「どんな()()してんだよ!」


 などと皆思いのままを口にする。最後の1人は少し邪な思考が読み取れた。視線も少し違った気がする。しかし、今はそんな事どうでもいい。後で制裁を加えればいいのだから。


 職員達はあまり気にしていないが、優奈は最後にとんでもなく不吉な感じのする一文があることに気づいた。……誰の仕業かは言うまでもない。


「パーティメンバー数に応じてステータス%変化……? あの、お姉さん? この最後の文の意味分かります?」


 今まで多くの人々のステータスを見てきたであろうお姉さんに望み薄ながらも聞いてみる。


「さぁ……? なんでしょうね? 勇者様はスキルを全て修得されてるみたいなので、解析スキルでも使ってみられては?」


 スキルは全て修得済みらしい。なかなかのチート能力をあのクソ女神は授けてくれたらしい。ここは素直に感謝だ。あのクソ女神にも少しは人の心、いや、女神の心があったらしい。


「解析スキルですか。使ってみますね。あと、勇者様はやめて下さい! 優奈でいいですから!」


「ではこれからはギルド職員一同、ユウナさんとお呼びします」


 ユウナ的には、ギルド職員全員にそう呼んでもらいたい訳ではないのだが……。呼び名が決まったところで、ユウナは解析スキルとやらをつか……


「……どうやってスキルって使うんですか?」


「攻撃系スキルはスキル名を口に出しながら、その攻撃を思い浮かべます。しかし、大抵の場合は詠唱が必要となります。解析などのスキルは、スキル名を口に出すことで使うことが出来ます」


 だそうだ。使い方を知った所でユウナはスキルを使用した。


「解析!」


 すると頭の中に情報が入ってくる。



 パーティメンバーの数によって、ステータス%が変化する。



「そんなこと分かってるわ! もっと詳しく! 何人いたら何%かとか!」


 思わず優奈のツッコミが入る。すると再び情報が入ってくる。



 ユウナのみ:5%

 メンバー1人:10%

 メンバー2人:15%

 メンバー3人:20% ………



「……私一人の場合5%って! 低っ!?」


「5%って低すぎでしょ!?」


「5%ってことは何? ステータスALL500?」


「全然チート能力じゃないじゃんか!!!」


「あのクソ女神! 次会ったときに殴る理由が増えたぞ!」


 ………



 と、散々愚痴をこぼ……叫んで、落ち着いたユウナに声がかけられる。


「あの……ユウナさん? ステータスALL500でも充分高いんですよ? だって冒険者のランクはS〜Eまであって、そのステータスだとCランクです! 大抵の人は一生をかけてもC〜Dランク止まりですから」


「ちなみに一つ上のBランクはステータス平均2000から。最高のSランクは6000からです。それに過去にSランクになられたのは歴代勇者様方しかおられないので、実質Aランクがこの国の最高です」


 とギルドのお姉さんの説明があった。ユウナの荒れっぷりが相当だったため、必死に宥めていた。しかし世界を救う勇者がCランクとは……


 ユウナの現ステータスはCランクと言いつつも、Cランクはステータス平均500かららしく、ユウナはCランクになりたてということになる。それにステータス平均が500ということであり、全てが満遍なく500でないといけない訳ではない。あくまでも平均がだ。一般的には何か秀でている項目がある場合が多いとか。


 そのためユウナはこれが長所だ、というものがない分、他のCランク冒険者よりも少し劣る事になる。


 が、それはあくまでも、ステータスだけを比べた場合はだ。ユウナは全スキルを修得しており、耐性なども多く持っている。その事を考慮するとCランク冒険者など比べるまでもない。下手をするとAランク冒険者とも十分張り合えるだろう。


「……分かりました。アレですよね。歴代勇者がSランクから始めた所をCランクから始めるだけですよね。それにパーティメンバーを増やせばステータスも高くなるわけだし! レベルも上げればいいんだし! Cランクから始める異世界生活!」


 ユウナは何とかクソ女神への怒りを鎮め、自分に言い聞かせる。冷静になると、お姉さんが言い伝えの話をしていた時から気になっていたことを思い出す。


「あの〜。言い伝えの話のときに、黒髪黒瞳の勇者が現れるって言ってましたけど。この世界には黒髪黒瞳の人っていないんですか?」


「はい、そうなんです! 黒髪黒瞳の人間はこの世界で産まれません!」


 日本ではごく一般的な黒髪がいない世界。それを聞いてユウナは、「なら日本人を沢山連れてきて、勇者の大軍を編成してしまえば」と思いつくが、そっと考えなかったことにした。だって召喚された理由が、女神の暇つぶし、だもんね!


「あと髪にまつわる事で言うと、この世界の人々のステータスの高さは髪色の濃さで決まります。黒、白以外は色が濃ければ濃い程、ステータスは高い傾向にあります。髪色によってステータスの中でも高くなる項目や、得意な属性などが変わってきます。必ずしもそうとは限りませんが……」


「そして黒は勇者である証であり、何者も寄せつけぬ絶対的な力があります。そして白はごく稀にこの世界でも産まれる、最も勇者に近い存在となります」


 とユウナが一を聞くと、ギルドのお姉さんは十を答えてくれた。加えて、パーティを組む時にも、髪の色を参考にして声をかけるといい、ということも教えてくれた。


 しかし、これでユウナも自分が散々、門などで勇者勇者と呼ばれた理由が分かった。そして知りたい情報も全て分かったところで


「お姉さん、ありがとう!」


 とお礼を言って、それじゃあとギルドを後にしようとすると。


「ユウナさん! お金あるんですか? これから沢山モンスターの討伐などして頂くので、宿のお代くらいギルドが負担し……」


「ありがとうございます」


 既にモンスターの討伐をすることが決定事項にされている事に苦笑いしながらも、その言葉を待ってましたとばかりに、食い気味で答えるユウナ。ユウナの思考は既にソフィアに毒されているようだ。ともかく、これで宿の確保は完了である。


「それじゃあ、ギルドの向かいの宿に泊まってください。お代等の話はこちらでしておきましたので」


「……お仕事がお早いようで……」


 さすがのユウナも少し引いていた。初めから勇者であるユウナをこの街に留ませる気で居たのだろう。世界の最大戦力であるユウナ。それを持っているということは、外交に関しても有利に働くのだろう。たかが都市郊外の駆け出しの街で外交も何もないだろうに。


 そして、少しギルドのお姉さんとたわいもない話をした後、ギルド向かいの宿で案内された部屋に入った。


 思っていたよりも部屋の中は広く、机やクローゼットもあり、とても充実した空間だった。


 そして実質、学校から疲れて帰ってから寝ていないようなものだったユウナはベットに横になり、ギルドで貰った冒険者カードを見ていた。このカードは魔道具らしく


「ステータス表示」


 と言うと、ホログラムの様に空間にステータスが表示される。ユウナは表示させたステータスを見て、とてつもないスキルの量にそっと表示を閉じた。そして今後の予定を考えている内に眠りについてしまった。デジャヴ。

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