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02話「クソゲーだと思ったら、無理ゲーでした」

 


「――――」


「……プッ」


 優奈の前に座る少女――女神ソフィアが名乗ってからしばらくした頃。沈黙の中、未だに女神の笑い声が部屋の中に響いていた。


「……女神……様? ここって何処なんですか? 私は死んじゃったんですか?」


 優奈が沈黙を破り、本題へと入っていく。今は女神が笑っている理由など気にしている場合ではない。


「ソフィアで良いですよ。私も優奈さんと呼ばせて頂きますので」


(さっきまでバカ笑いしてたのに、案外普通の人なのかな)


 なんて仮にも自称女神様に対して失礼な事を考えていた優奈。


「えっと……ここが何処なのかと言う事と、優奈さんが死んだのかどうかと言う事ですね?」


「まずここが何処なのかと言うと、ここは優奈さんが先程確信しておられた天界ですよ」


(やったね! 予想通り!)


 自分の考えが的中して、優奈は心の中でガッツポーズをする。しかし、ここでもまた疑問が生じる。


(私、声に出してないのになんで分かったの……?)


 そう思っていると


「あれ? 私、声に出してないのになんで分かったんだろう? って思ってますね? 女神なんでそのくらい余裕で出来ちゃいますよ?」


 さも当然のようにソフィアは告げる。


(……女神すごい)


 そう優奈が思うと、女神の顔が心做しか紅く染まったように見えた。


 優奈は単純にソフィアの能力に驚いていた。同時に優奈の中のソフィアの評価が少し上がっていた。……ほんの少し。そんなこともつかの間、優奈は冷静になると


(あれ? てことは、今まで考えてたこと全部筒抜けじゃん!?)


 気づいてしまった。そしてソフィアの笑っていた理由もある程度分かってしまった。優奈は顔を赤くし、俯いてしまう。しかし、そんなことも気にせずにソフィアが話を戻す。


「話を戻しますけど、優奈さんは死んではいませんよ。私が勝手に召喚しただけですので。安心してくださいね」


 と満面の笑みで告げた。その顔は、優奈に対する期待のような物でいっぱいだった。その裏に隠された意図を直後、知ることになるとは優奈は思いもしなかった。


(ほっ……死んでないんだ……)


 優奈はソフィアの話を聞いて、死んでいないという事に素直に安心した。しかし少し時間を置いて、安心出来ないワードがあったことを優奈は聞き逃さなかった。そもそも、天界などという場所にいる時点で、安心出来ないのだが。そんな事は優奈の思考からすっかり抜け落ちている。


「ソ……ソフィ……ソフィア……さん? 召喚したって……何の為にですか……? 言わせて貰いますけど、私、何の取柄もないですよ……?」


 恐る恐る優奈はソフィアに問いかけてみる。ソフィアの返答が優奈の今後を左右する。そう、優奈の今後の生活はソフィアの手に委ねられた。


 優奈の問いを聞き、ソフィアは口元を緩ませた。待ってましたと言わんばかりに。そしてソフィアが召喚理由を告げる。


「暇だったからです! 暇つぶし! 娯楽! いぇーい!」


 悪びれる素振りもなく、ただにこやかにソフィアは召喚理由を口にする。堂々と。胸を張って。これでもかというほどのドヤ顔で。


「……はい?」


 理由を聞いた優奈の素っ頓狂な声が、部屋の中を虚しく響き渡った。


「……えーっと……」


 優奈が重々しい口を開き、これ以上この人――女神の話を聞きたくないという雰囲気を漂わせながら、ソフィアに問う。


「暇ってどういう事ですか? あなた、仮にも女神様ですよね? 女神が暇とか言っていいんですか? 女神なら 『私の仕事がないということは、地上の人々が平和に暮らしているということ。私が暇ということに越したことはありません。』 とか言うものなんじゃないんですか? なんですか? 暇だから召喚したって!」


 優奈がソフィアに対し、もっともな正論を叩きつける。優奈は少しくらいソフィアが反省するだろうと思っていたのだろうが、期待に反してソフィアはブレなかった。


「……グスッ……うわぁーーーーん! だってだって暇だった……んだも……ん! ……グスッ……天界なんっ……にもない……しっ……! ……グスッ地上だって特に面白い事しな……いし! 魔王だっているのに、誰も挑もうっ……と……しないし……!」


 と子どもの様に泣き喚く。優奈は既視感を覚える。まるで優奈の母、楓のようではないか……


 優奈は女神がこんな感じでいいのか? いや、良くないよね!? と自問自答を繰り返す。女神はみんなこんな感じなのかと疑ってしまう。そしてこんなに泣き喚くソフィアを見て罪悪感を感じていた。


「……グスッ。優奈さん……あなたの言うことも一理あります」


「一理じゃないし! それに尽きるよ!」


 ソフィアの言葉に間髪入れずにツッコミを入れる優奈。この女神のペースに慣れつつある自分がいることに戸惑いを隠せない。罪悪感も一瞬でお仕事を放棄した。


「優奈さん。怒らないで聞いてくださいね?」


「……?」


 先程まで泣きじゃくっていたかと思うと、落ち着いた雰囲気で話を始める。


「優奈さんを元の世界に帰してあげたいんですけど……」


(……うん。この後の展開くらい分かるよ)


「魔力が足りないんで、異世界で私の娯楽として生活してきて下さい」


(……ね。やっぱりね)


 そうなるよね。と一言呟いて


「モンスターいるんですよね? 私一般人ですよ? それもか弱い女子高生。 死にますよね? どうしてくれるんです? チート能力でもくれるんですか?」


 この順応性である。


「ちぃと能力とはよく分からないですけど、強力な能力を差し上げますよ? 流石に女の子を丸腰でモンスターの中に放り込む程、頭のネジは飛んでませんよ」


 強力な能力を貰えると聞いてひとまず安心する。同時に「暇つぶしのためにと、私を召喚した時点で頭のネジ飛んでないか?」と思ったことは内緒だ。まぁ、ソフィアにはバレているが。


「能力は私の方で選んどきましたので」


(……え? 選ばしてくれないの?)


「これは私の暇つぶしなんで」


 優奈に決定権は一切ないらしい。優奈が異世界に行くうえで、聞いておかないといけないことを聞く。


「私っていつまで、ソフィアさんの暇つぶしとして異世界で生活すればいいんですか?」


 これを明確にしておかないと、後で何を言われるか分かったものではない。特に目の前にいる女神相手では。


「そうですね……。じゃあ、この世界には三大災厄というものが居ます。それらを倒してきてください。言っておくと三大災厄は竜種、魔王、? です。三つ目は気づいたら被害が出ている、というものなので何かよく分かっていません。頑張ってくださいね」


 と、平気で無理ゲーを叩きつけてくるソフィア。さすがにこいつ、私を元の世界に帰す気がないんじゃないかと思ってしまう。


「ではゲート開けますね。優奈さん、ファイト♪」


「……え? 三大災厄なんてものがいるのに暇とか言ってるんですか!? それと他に情報は? 私の能力は? ステータスは!?」


 必死に訴えるがソフィアは満面の笑みで一言


「行ってらっしゃーーーい♪」


「嘘でしょぉぉぉ!?」


 召喚されてから何分たっただろうか。そして何回叫んだだろう。もう何度目か分からない優奈の叫び声が次第に小さくなっていく。


 そして静かになった天界で女神が口を歪め、不吉な笑みを浮かべた。その事を優奈が知る由もない。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「……ここどこ?」


 ソフィアに強制的に転移された場所は、草原だった。見渡す限りの大草原。


「ここからどうしろって言うのよ……」


 正直なところ、何をすることも出来ない。唯一出来る事は歩くこと。進む方向に町でもある事を願いながら。


 ソフィアに強引に転移されたため、説明もなしにここへ来てしまった。故に、優奈は自分のステータスも知らなければ、どの方向に町があるかも知らない。極めつけは武器が無く、服装はというと部屋着だ。


「歩くしかないか……」


 もう考えても仕方がないと歩き出す。


「あの女神……覚えとけよ……」


 どこぞのモブキャラが言うようなセリフを吐き出しながら歩き、ふと落ちていた石を蹴った。蹴ってしまった。


 コツン


「……やっちゃったかな!」


「キシャー!!」


 優奈の予想通りやってしまった。お決まりの運悪く蹴った石が当たっちゃったパターンだ。


 怒りむき出しでご登場のゴブリンさん5体。


 優奈は友達にライトノベルを借りて読んでいたこともあり、ゴブリンさんは雑魚モンスターだと知っている。故に倒すことを決意。


「戦ってみたら女神のくれたチート能力も分かるかもしれないしね! 私に倒され、経験値となって貰おうか!」


 優奈はそう息巻いてゴブリンに向かって駆け出す。そしてゴブリンを倒すべく、武器を掴もうと手を腰に……。優奈の手が空を切る。そこで武器を持っていないことを思い出す。丸腰。


「……アハハ……」


 しばらく動き、思考が停止した後、すぐさま回れ右をし、一目散に逃げ始める。


「シャーーー!」


 それを見たゴブリンは優奈を追いかける。優奈とゴブリンの命を賭けた鬼ごっこが始まった。主に優奈の命を賭けた。


(あの女神! 次会った時は一発殴ってやる……)


 そして走った。走った。めちゃくちゃ走った。何分か全力疾走をし、優奈の体力が尽きる頃。しかしゴブリンはまだまだ走れそうな雰囲気だ。というか疲れているようには見えない。モンスターには疲れるという概念がないのかもしれない。


「はぁ……はぁ……もうダメッ……うわっ!」


 転がっていた小石につまづき、とうとうコケてしまった。何故、優奈はこんなにもお約束を守ってしまうのだろうか。そして、とうとうゴブリン5体に囲まれてしまった。


「誰かぁーーー!! 助けてぇ!」


 優奈の魂の叫びが響き渡る。こんな草原に人がいるとは思っていないが、こうする他に優奈に出来ることはなかった。


 ザシュッ


 瞬く間にゴブリンが消えていく。そして現れた冒険者らしき人物。


(はっ……。私の王子様……?)


 なんてメルヘンチックな妄想をする優奈。しかし期待とは裏腹に、目の前にいた男性はぱっとしない……。優奈は心の中でため息をつく。失礼にも程がある。


 男性は……見る限り強そうではない。体格ははっきり言ってヒョロい。髪は薄い黄色でボサボサだ。いくら強そうではないと言っても、優奈が逃げるしかなかったゴブリンを1人で倒したわけで優奈より強い事は明らかだ。優奈が武器を持っていて、戦っていた場合はその限りではないだろうが……


「……あの、助けて下さってあり…がとうございます……」


「……そんな格好でこんな所は危ない。街に行くぞ」


 優奈の言葉には一切反応は無く、目を合わせようとすらしない。優奈は何か気に障るようなことをしてしまったのだろうかと心配になるが、男はそれ以上話すことなく、歩き出した。


 気まずい空気が漂う中、20分程歩くと街に着いた。街の入口ーー門には兵士らしき人が立っており、街に入る多くの人、物を検査している。


「着いたぞ。じゃあな」


「あっ、あの!」


 男はそう言って、人混みに紛れ、すぐに見えなくなってしまった。


(……送ってもらったお礼言ってないし。というか、人の話を聞きなさいよ!)


 そう愚痴をこぼしていると、周りの人々が自分の方を見て、コソコソと話していることに気がつく。


(……え。なに……? 私なにかおかしい?)


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