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01話「全ての始まり。クソゲーの始まり」



 狼やカマキリ、蛇などの様々な形態のモンスターが群がっている。そしてそれら全てを操るように、最奥には1頭の竜がどっしりと構えている。


 その大勢のモンスターと対峙しているのは、4人の年端もいかない少女達。皆、髪の色が違い、少女一人一人、別の魅力がある。


 そんな彼女らは、さすがに多勢に無勢、モンスターの大軍に悪戦苦闘……していなかった……


「ちょっと! ヒールして! 違うそっちじゃない! なんで倒しかけてたモンスターを回復させるの!?」


「ごめんってば! けど、こうなる事を分かっててパーティに入れてくれたんでしょ!? だったら文句言わないでよ」


「いや、流石に改善しようとはして下さいね? 私だって、パーティメンバーに魔法が飛ぶの、治そうとしてるんですから」


「すみませ〜ん! こっちも助けては貰えないでしょうか? 自分の攻撃の衝撃波で動けなくなってしまいました〜! あの〜、モンスターが寄ってきたんですけど……」


「……。なんで私のパーティは役立たずしかいないのよぉ〜!?」


「「「自分もだろ!!」」」


 パーティのリーダーと思われる、黒髪の少女の発言に、他の3人が息の合ったツッコミをいれる。戦闘中とは思えない、ほのぼのとした雰囲気の流れる戦場。


 その状況をどこからともなく見つめる黒紫色の双眸。


「『これはある少女が、女神の気まぐれによってクソゲーへと引き込まれ、ハプニングしかない異世界生活を送る物語。その先に待っているものは幸福か不幸か……。それは女神のみぞ知る……』ってとこかな〜」


 不吉な笑みをこぼし、瞳と同じ色をした髪を翻し、女はその場をあとにした。


 そして時間は大きく遡る……




 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※





(……ここは……どこ? )


  淡い光で包まれた無機質な空間。部屋を照らす光はどこから出ているのかは分からない。ただ人の心臓が脈打つように、光もその明るさを強弱させている。


 そして一人の少女が目を覚ます。椅子に座らされていた少女は伸びをし、その顔をあげる。


 ……かわいい。


 少女の外見はその一言に尽きる。


  艶のある黒髪、宝石を嵌め込んだかのような漆黒の瞳、すらっと伸びる手足。出る所は出て引っ込む所は引っ込んだ、女子高校生とは考えられない完璧な体型をしている。部活動でテニスをしている事からか、引き締まったその身体は、より一層、少女の可憐な印象を引き立てる。


 その外見から、彼女を見たものは一瞬で虜にされる事だろう。事実、街中で声をかけられた事も少なくない。


  少女は何が起きているのか理解出来ず、ただ呆然とする。辺りを見渡すが、何一つ見当たらない。


  ……たった一つを除いては。


  一人の少女が玉座に座りこちらを見ていた。


 黒髪の少女――佐倉優奈と相対するこの少女はさながら天使のようだ。


  腰ほどの長さの月の光のように煌めく銀髪、透き通るような白い肌、真っ直ぐと優奈を見つめる綺麗な蒼い双眸、優奈を凌駕する完璧なプロポーション。人とは思えない整った顔からは淑やかな印象を受ける。


  いくら優奈が可愛いと言っても、その少女の前では足下にも及ばない。天使という言葉をもってしても、その美貌を表現するには言葉足らずだ。


  「……」


  少女は何も喋らない。時々する瞬きが無ければ、人形ではないかと疑ってしまうほど、身動き一つしない。


  ただ黙って静かに優奈を見ていた。


 状況を理解出来ずに呆然とする優奈を気にかけてか、時折微笑みかけてくるこの少女に、優奈の視線はいつの間にか釘付けになっていた。


  それと同時に、優奈はここに来た経緯を思い出そうとしていた。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 いつも通りの特にどうという事の無い一日だった。


「ただいまー」


 普段通り学校へと行き、部活動を終え、我が家へと帰ってきた優奈は、階段を上って自分の部屋へと向かう。部屋に入ると、UFOキャッチャーで手に入れたぬいぐるみが所狭しと飾られている。UFOキャッチャーが優奈の密かな楽しみだったりする。


「我ながらよくこんなに取ったな……」


 毎日おなじみのやり取りを済ませる。そこであることに気づく。


(ぬいぐるみがない!)


 優奈の目線の先には、ぬいぐるみが置いてあったであろう不自然な隙間がある。


(まぁ……。犯人は分かってるんだけど……)


 これまたいつもの出来事にため息を漏らす。憂鬱そうにしながら、優奈は鞄を定位置に置き――投げたと言う方が相応しいかもしれない――、部屋着に着替える。


 そして犯人のもとへと向かう。優奈の部屋を出て右斜め前の部屋が犯人の部屋だ。


 その部屋の前に立つと、優奈はノックもせずに、勢いよくドアを開ける。犯人は勢いよく開けられたドアに驚き、目をぱちくりさせる。


(……やっぱり)


 優奈の推測通り、奴は居た。


 人の部屋からパチったぬいぐるみに埋もれながら眠っていた、見た目幼女の犯人が。傍から見れば、優奈の妹に見えるであろうこの犯人。


 優奈の母親――佐倉楓である。


 その見た目は優奈をそのまま小さくしたように、瓜二つだ。その幼女の様な外見から、何度姉妹と間違われたか数え切れない。買い物に行くたび、


「まぁ、こんなに小さな妹さんを連れてお使い? 偉いわねぇ」


 と言われる始末。本人は満更でもないようだけど。


(いえ! 妹じゃないんです! 38歳の私の母親なんです!)


 もうツッコミを入れる事も疲れた。本当に母親なのだろうかと、いつも疑問に思ってしまう。


(よくお父さんもお母さんと結婚したな……)


 優奈は密かにお父さんがロリコンなのではないかと疑っている。いや、疑っているというのは間違っている。十中八九ロリコンだと確信している。


 優奈が今後の家族の先行きを心配していると、幼女が黙って、こっそりと立ち去ろうとしていた。


 優奈がそれを阻止すると、その後はこれまたいつも通り。二人で言い合い、喧嘩――と言うにはほのぼのとした雰囲気が漂う――をし、優奈がぬいぐるみを取り返し、楓が年甲斐もなく喚き散らし、号泣する。


 優奈はそんな母親を無視して、戦利品ぬいぐるみを抱え自分の部屋へと戻った。


 部屋へと戻った優奈は、部活動で疲れた身体を休めるためにベッドに寝転がる。


 ふと窓の外を見ると、真っ赤に染まる夕焼けの中に、少しづつ黒い雲が増えていくのが目に入った。


「明日は雨かな……」


 そう呟いて、優奈は眠りに落ちてしまった。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



(……私、寝ちゃったんだよね……?)


 ここに来た経緯を思い出そうとしている優奈は、自分の過去を振り返って、そう心の中で呟く。振り返ってみた中で、特におかしい所は一つも無かった。


(むしろ普通過ぎたくらい)


 必死に優奈はここに来た経緯を思い出そうと、ウンウンと唸りながら、顔を歪ませ頭をフル回転させる。


「――――」


 ふと部屋の中を再び見回す。


「……!」


 神秘的な空間と前にいる少女の外見から一つの答えを導き出す。


(ここは天界だよ!)


(友達に借りたライトノベルにあったやつだ!)


(死んだら天界に行って女神様と会うやつだよ!)


(ちょうど前に女神オーラを漂わせてる少女もいることだし決定でしょ!)


 優奈は心の中でそう答えを出し、誰に向けてかドヤ顔をする。そんな喜びもつかの間、その答えでは一つとんでもない問題があることに気がつく。


(……あれ? ここが天界ってことは私、死んじゃったわけ……?)


 優奈の顔から一瞬にして血の気が引いていく。みるみる顔色が悪くなり、金魚のように口をパクパクさせる。先程から優奈のコロコロと変わる表情を見て、前に座る少女が笑いを堪えているようだが、優奈には構っている余裕がない。


(振り返ってみたけど、死ぬ要素なんて無かったよね!?)


 大慌てで思考を巡らせる。お粗末な頭をフル回転させて考える。そして出た結論が。


(寝てる内に隕石が落ちて地球が破滅したか、外国に爆弾を落とされたな……)


 意味不明な結論をたたき出す。見当違いにも程があるだろう。にも関わらず、うんうんと頷き、優奈は一人確信する。そんな優奈を見ていた少女は


「プッ……プフッ……クスッ……アハハハハハッ……」


 遂に笑いを堪えきれなくなった。


「?!」


 それを見た優奈は何が何だか分からない。


「アハハッ……隕石……クスクスッ……地球が破滅……ププッ……ケラケラッ……」


 静かな空間に少女の笑い声だけが響き渡る。お世辞にも上品とは言えない笑い声だった。優奈は自分の事を笑われているのだと気づくまで、相当な時間がかかった。もちろん、その間、少女はずっと笑っていた。


 ひとしきり笑った少女は優奈を見つめ、笑いを堪えながら口を開く。


「さっ……プッ佐倉っ……ケラケラッ……優奈、ププッ……さんですね? クスクスッ」


 ……堪えきれてない。


 なんだろうこの残念な感じ。会ってすぐの時の気持ちを返して欲しい。優奈はそう口に出そうだったものを、必死に飲み込んだ。


(さっきこの人の事、女神じゃないかって思ったけど……)


(この残念な感じ!! 絶対に女神じゃないでしょ!?)


 優奈はつい先程の自分の考察を訂正する。しかし、すぐに訂正の必要がないと知らされることになる。


「私は女神。女神ソフィアです」


 少女がそう告げる。当初の考え通り、少女は女神だったらしい。優奈は耳を疑う。


(あれ? 女神って言った?)


 優奈は動揺を隠せない。優奈だけでなく、もしその場に他にも人が居たのなら、全員が優奈と同じ反応を見せるだろう。それほどまでに、少女は言葉を発してしまったことで、見事に外見から醸し出される女神オーラを吹き飛ばしていた。


「この人が女神とか嘘でしょー!?」


 優奈の悲痛の叫びが静まり返ったこの空間に響き渡る。


 これが優奈と女神の出会いである。

初めましての方は初めまして。

お久しぶりの方はお久しぶりです。


1話です! 2話は……春には……遅くとも……


頑張ります……

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