妹が出来ている話
今回はほのぼの日常コメディ風味になったな。
俺が何をしたというのか、いつの間にか7LDKに真っ赤に染まる花畑は巡り巡ってのきれいなボロボロに回ってはしかめ面だ。
何だってこんなに妹的な存在を飼わなければならないのか、困り者達だ。
「何言うとんねん、一番の困り者はあんちゃんや」
「ですの意見に同感なのだよ、にいに、ご飯をばーんする許可を取得したのだよ」
「いただきますなんてした覚えねえんだが?」
「そんな挨拶が建前になったのは果たして何年先の未来の事やらなのだよ、はいだよ、ばーーーーーん」
「食わねえからな? その軟体暗黒物質」
五番目の妹のフィフタの故郷の人を抉る形をした禍禍しいスプーンみたいな何かが昨日の余り物のシチューをすくうと抉られた命と融合して叫び声を上げたので、四番目の妹のですがビビッて跳ねた、匂いからして恐らくちびったと思われる。
俺の家の古代からの掟ではおもらしは尻叩き三年、一秒三十回らしいのでですをお風呂に引き摺っていく事にした。
「いやあああああああああ!! 何で朝からこうなんねん! 鬼畜! ロリコン!」
「俺はロリコンじゃねえ、そしてさらにはシスコンでもねえ、文句を言うなら膀胱に言え」
「尿道の短い女性の体のアホおおおおおおおお!!!!」
うるさいですの服を脱がし、裸にしてから浴槽に流し込む、これで良し。
「浴槽に水が入ってないやん」
「お前が水だ、スイッチョン」
「えっ! ウチ今からお湯になるん!?」
後は三十分おいておけばいい、まったくやっぱり困り者はこいつらだ。
「それはそうとあんちゃんなのだよ、お風呂湧くまでの間にババの抜きするのだよ」
「この家の掟だと負けたら風呂掃除だがいいか?」
「いいなのだよ! カードは持ってきたのだよ」
こうして俺達はリビングでババアの血抜き、略してババ抜きという実質大富豪のような七ならべで血で血を洗う前に風呂で洗うので、他の奴らが起きてくるまでの暇をつぶす午後三十五時だった。
・
「風呂上りのウチはセクシーやんな、チューしてもええんやで」
「いいお湯なのだよ、のぼせたのだよ、鼻混沌でてきたのだよ」
「今度は混沌のおもらしか」
残念かどうかは知らないがお風呂シーンはまるまるカットされ……何を言っているんだ俺は。
ですが風呂に入るのをうらやましがったフィフタが突入して一緒に入浴したらしく、二人して顔を染めながら加湿器として部屋に戻ってくる。
フィフタの右目から渦を巻く何かしらが漏れてきて空気中の埃を空気ごと吸い込んで清浄機の役目を果たしてくれるので空の彼方でどこかの星が爆発した。
「あら、早起きなのね、フィフタは混沌だからともかくとしてですは人間でしかも小さいのだから睡眠時間についてはちょっと相談したいところなんだけれど」
爆音が響いて食器棚から落ちたコップを身に受けながら、二番目の妹のしいつが寝相で崩れた寝間着の帯を締め直して大きく伸びた。
伸びた手が宇宙と触れて先程爆発したどこかの星と当たっていたがとても平気そうな顔なので問題しかないのだろう。
「あら、加湿器じゃない、お風呂泣いてるのね、わたしも朝風呂を味わおうかしら」
「おはようしいつ、風呂に入るのか? それとも飯か? それとも俺か?」
「朝から情熱で蒸発したわ、もちろん兄さんで」
のんきにしていたしいつの、寝起きの少し寝ぐせのある腰まで伸びたサラサラの黒髪が突如はじけ飛ぶ。
またも轟音で部屋が揺れ、いもみの首が天井から落ちてきた。
何があったんだよ、朝っぱらからうるせえな、二度寝したい。
そうは思うがそんな事より妹の世話が先だ。
「あんちゃんにあいさつを返さない奴なのだよは許さないのだよ!! あいさつは心と心の通じ合いなのだよ! それをしないしいつおねえちゃんははじけ飛んだのだよ」
俺の膝の上で足と手と心臓と脳と肩と尻と子宮と内臓と宇宙を揺らしながらフィフタは色々な世界遺産から混沌とマヨネーズを垂れ流す。
さすがにケチャップの方がいいので俺はフィフタの腎臓を撫でて落ち着くように促す。
「ペースト塗るのは焼いた後かもしれないだろ? 焦ってジャムを焼くなよ」
「でもだよ! あいさつはマーガリンでもバターでもないのだよ! パンなのだよ!」
「そのパンだってバッククロージャ―ににらまれている、そうだろ?」
「うっ! 正論に胸が貫かれて死んだのだよ」
フィフタの体がけいれんし、口から赤い泡が出る、びくんっ、びくんっと震えて、目の焦点も会わず、ほとんど白目を剥いている、ゆっくりと腎臓を撫でながらとりあえずフィフタの鼻に指を入れ、薬を流し込んでやろうか。
「遅れたけどおはよう兄さん、依然としてわたしの選択は兄さん一択なのだけれど?」
「わかった、今行く」
やっぱりこいつらは困り者だ。
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しいつに手早くしかししっかり丁寧に兄さんをやって小回り。
一番目の妹のまいちが起きて俺の耳からぬるりと入って来た。
「あにしゃ、あーぱいこくぉん」(おはようお兄ちゃん、今日の天気は曇りだね朝から眠いや)
「夜に眠いなら昼が闇だし朝は園だからな?」
しかし、そうしてると腹が減ったな、朝ご飯を食べたくなってきた。
ですが高等小大学に、フィフタはその辺に巣を作ったコークスクリューをつつきに、しいつは夜まで寝るそうでいもみはリビングに転がっているから必然的に朝ご飯を作れるのは俺だけになる。
困ったな。
いや、少し待て、フィフタは料理が出来なかったはずだ、もちろんですも、しいつといもみとまいちと俺は隣町でコーンスープに挑んでいたので家にいなかった、ならその時キッチンに立ったのは一体どこのどのどれのあれだ?
広い癖に手狭に見えるキッチンに俺はワープするように転移した。
見ればそこにはキッチンに向かう無機質な結び目がうろついている。
見知らぬ背中、誰だこいつは、見たところ女性型に見えるが、のんきに鼻歌なんて歌いやがって、人んちのキッチンをご機嫌で勝手にするなんてなんてふてえガスノイド。
俺を手に唾を吐き、わりかし強力な鳥もちにして揺れるうなじにつけた。
「おはようございます、今日はいい天気だな」
「あ! ブラザー、どうも、吾輩です、妹です、感激の再会ですね、初めまして」
あいさつを交わし、こいつは妹だった。
顔を見ると二昔は前の型なのか、額に南と東がふんだんに使われてたからおそらくこいつは俺の妹となるべく数十年前に設計されたものであろう。
設計図が朝から敷き布団に隠れていたのを俺は隠れてみていた。
まあ、それはそうと、いくら妹でも、あいさつもなしに上がり込んで飯を勝手に作るとは、俺の堪忍袋の緒がチェーンソーと優しいキスをしそうだ。
「あの、ブラザー? 感情、怒りの値を高めているところに失礼するですが、目玉焼きの塊加減は堅焼き? 半熟? それとも生焼け?」
怒髪天をつくとはこの事か。
元から礼を失していたのにさらに失礼するなんて、こんな所フィフタが見てたら地球滅亡するぞ。
「地球をぶっ壊すのだよ」
見てた。
向こうの混沌からフィフタの腎臓が見てた。
さっき可愛がりすぎたな。
「壊すな、俺が兄じゃなくなるから」
「そうは言っても三枚下ろしなのだよ!!」
「壊すな、と言うことは殻ごと一気にまるまる産まれたままの姿って事でよろしいでしょうか」
だめだ、殻はチョークにするのが習わし。
ちょっとプログラムとお話しなけりゃいけないらしい。
手についた新しい妹の名前を考えよう。
「という事でお前の名前はルーソラってところだな、磁石」
妹がついていない方の手に磁石、ついている方の手にルーソラ、近づければ完成するのはお仕置きだ。
「わ、わ、機械類にそんなものを近づけてはいけませんよブラザー、何かお気に触りましたか?」
「タッチアンドタッチで指スタンプだらけだ、ちょっとこっち来い」
「あーれー、シスコン、シスコンなんですねブラザー」
「シスコンじゃねえっつってんだろ朝から夜まで、お前は晩まで磁気嵐」
「天気予報には載ってないです!!!!」
かくして、フィフタによる地球滅亡の危機は去った。
腎臓を可愛がるときはもっと気をつけて扱わねえとな、と、今回の反省点。
空の上、宇宙の中、爆発した星から飛び出た巨大な何かが地球へとゆっくりと動き出した。
引力の外であるはずなのに、どんどん、そのスピードは上がっていく。
「今会いに行くぜえ、兄貴!」
そんな声が聞こえた気がするが、宇宙は音なんて響く事は無い、きっと気のせい、おそらく気のせい、たぶん気のせい。
ルーソラを洗濯機に突っ込みながら俺はくしゃみを一つした。
風邪ひいたか、病院に行こう。
次回
宇宙から迫る謎の影は何なのか。
短編だから、連載じゃないからね。