出会い
暫く歩くと遠くに人影が見える。
どうやら2人いるようで、ひとりは金属を使った防具を頭部以外全てに着用し、武器は一般的に使われている長剣を腰に差している。
もう一方は隣と比べると少し頼りないほどの軽装で背中に弓を携えている。
「お〜い、すいませ〜ん!何か食べ物を分けてくれないでしょうか?あと何処かに少しの間でも滞在できるような町があれば教えて欲しいんですが」
少し離れた場所にいる2人は俺の声に気づいたようで馬に乗りながらこちらへ近づいてくる。
長剣使いは立派な髭を蓄えた筋骨隆隆たる男で、弓使いは綺麗に整った顔をした女性であり、綺麗な黒の長髪を一つに束ねていて、その翠の目は見る者を引き付ける。
「お前は誰だ?俺達の村のものではないな。
魔王の手下か?」
「ボロスさん。魔王の手下と聞かれて、はいそうですと答える者はいませんよ」
どうやら男はボロスというようで、その厳つい顔でジロッと俺を睨みながら問い詰める。
「違います、俺は魔王の手下じゃないです。というかここら近辺ではそんな奴らが活動しているんですか?」
「なんだお前は?世間知らずにも程があるだろう。というか家からここまで来るときに魔物にすれ違わなかったのか?」
こう如何にも怖そうな顔をして、そういってボロスは顔ををしかめて魔物の真似をする。
そういえばあまりにも腹が減りすぎて、ここまでの道のりで鋭く猛った角をした大猪を食べたのだがあいつがそうだろうか。
あまりにも動きが単調で簡単に倒せてしまえたため、ボロスが言うような怖い魔物には思えなかったのだが。
「もし魔物を倒したらなら経験値が入り、その時になにか音がするはずですから、それで魔物と会ったことがあるのか分かるのではないですか?」
「リーナ、こいつが魔物を倒せるような奴に見えるか?どうせここまでこれたのも運が良かったからに違いない」
「そうでしょうか…、この方はなにか常人と違う雰囲気を持っているように思うのですが…」
どうやら弓使いの女性はリーナというらしい。こんな美人にそんなことを言われて悪い気はしない。
「まぁいい。こいつはどうやら魔物ではなく、ただの世間知らずな馬鹿小僧のようだし、ひとまず俺らの村に案内しよう」
そういった後ボロスはふと遠くを見て少し冷めた表情で語る。
「大猪に何人もやられてしまって、村には人手がたりねぇ。こんなやつでもなにかの役には立つだろう。今まで道中大猪に遭遇しなかったのは幸運だったな」
………待てよ。大猪ってあの馬鹿の一つ覚えみたいに突進してきたやつか?だとしたら俺が倒しちまったんだが…
たしかに倒した後何かいっぱい音がして、その後に鈴の音のようなものが聴こえた気がする…
「…あの〜、その大猪ってそんなにヤバイんですか?」
「当たり前に決まっているだろう!あいつは俺らの村の戦士が束になってかかっても敵わなかった。それくらい強いってことだ」
ボロスの話を聞いて酷く驚くとともに申し訳なさそうに彼らに事実を告げる。
「えっ〜と、その大猪さっき食べちゃったんですけど…」
ボロスとリーナの2人は沈黙して、互いに顔を見合わせる。そしてこちらに振りむき、興奮したように話しかけてくる。
「救世主様〜!ど、どうか我らの村をお救いください!」
2話目投稿