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36.救出

 凄く短いです。この話を【閑話】に分類した方が良かったかもです。


 千寿は泣き喚いて、暴れて――五十嵐の腕の中で半狂乱に陥った。


「離して! まだ中にお父さんが居るの!! お父さんのところに戻る!!」


 戻っても出来ることなど無い。誰の目から見ても無駄死にするだけだと分かるのに、父親の最期の姿が記憶から離れない。焼け尽きこびりつき、千寿の判断力を狂わせる。


 こうなった人間にはどんな声も届かない。五十嵐は千寿の両面を手のひらで覆った。すると、千寿は声を出すのを辞めてスッと脱力する。

 人を眠らせる魔術は極めて初歩的なものだが、彼にとっては初めて使うものだ。上手く行った事に内心で安堵しながら、術者の思惑なのか、薄くなってきた結界の中で燃える家を見つめた。


 ――消防車と警察と、それから……。


 呼ぶべきものを列挙しながらスマホを取り出した瞬間だった。

 ぐにゃりと結界が歪み、天へ昇っていくかのように家ごと(・・・)消えた。


「…………え?」


 燃え盛っていた戸建ての家は無い。有るのは申し訳程度のシーソーと滑り台が置いてある小さな公園だ。どちらの遊具もだいぶ使い込まれた形跡が伺え、たった今家が消え、新たに出来た公園という雰囲気は無い。昔からそこに家など存在せず、公園が有ったのだと、人々の記憶に刷り込ませるように。


 「何で?」などと、彼が在り来たりなセリフを吐く前に、その光景を見ていた第三者のため息が空気を揺らした。


「はぁ、やっと終わった~」


 透明感のある少年の声。

 五十嵐が背後を見ると、人様ん()の塀の上で猫のように座り込んでいた中学生くらいの少年が、大きく伸びをしていた。

 学ラン姿という事もあってか、清々しい表情の少年は、定期試験明けの学生そのものだ。

 しかし、俄かに漏れ出ている気配は学生どころか、人間のソレでも無い。


「あれ? キミ誰? つーか抱えてる子、もしかしなくても今消した家の子じゃない?」


 キョトンと首を傾げる少年を、五十嵐は睨みつけた。


「この一連の黒幕は、お前か?」

「黒幕じゃ無いよ。実行犯のちょっと上ってとこ? フェブ姐さんの気に入らない奴を消さなきゃ神格を剥奪されるとこだったからさ」


 目の前にいる相手が神格持ちと聞き、五十嵐は千寿を抱えている腕に力がこもった。


「あ、その子は絶対消さないから睨まないでくんない? 狙いは父親だけだったからね」

「何故、この子の父親を?」

「さあ? フェブ姐さんからは『なんか怪しい。気に入らない』としか聞いてないから」


 ふざけているのか。

 そんな理由で人の人生を狂わせる『フェブ姐さん』とやらに、彼は怒りを覚える。


「あの人は、何でも自分の思い通りにならなきゃ気が済まないんだよ。その子の父親に、『シナリオ通りの行動』とやらをさせたかったみたいなんだけど、それが上手くいかなかったみたいでね。結果がコレです! 分かってくれた?」


 公園になった元千寿の家を指差し、少年は笑う。まるで五十嵐の警戒心や自分に対する敵意を削ぐように。だがその笑みは、逆に五十嵐の神経を逆なでしただけ。


「分かりたくもない」

「あちゃあー、手厳しい」


 軽いノリで返した少年は、五十嵐から千寿へと視線を移した。


「ま、せいぜいその子を大事にしてあげなよ。家も(・・)それが在った時間も(・・・・・・・・・)、せーんぶ消しちゃった僕が言うのも可笑しな話だけど、フェブ姐さん如きのせいで不幸になるなんて、可哀想過ぎて目も当てられないからさ」


 トンと塀の上から軽い調子で跳んだ少年は、そのまま宙に溶けるように消えた。

 ドールもそうだが、神格持ちは規格外のも程があると五十嵐は常々思う。

 魔法陣も時間も要さず、呼吸をするかのように転移魔術を展開するからだ。


 そして彼は、火事どころか、家が有った事すら人々の記憶から消えたその場所に、自宅の車を呼ぶのだった。






 同時刻。

 ナーシャは、自分一人になったベランダで五十嵐との会話を今一度思い浮かべた。


『キミが魔力をブチまけて生んだ化け物』

『だからそれだったら話の――!』


 彼女は五十嵐が異変に気づかなければこう続ける気でいた。


 「辻褄は合うのだよ」と。

 五十嵐銀杏が、いわゆる『勇者』だから。

 彼がドールと契約し使わせた時を戻す魔術は、確かに膨大な魔力を周囲に撒き散らすが、それを浴びた生き物に普通ならば害は無い。術を使ったのは悪魔(ドール)だが、術に要した魔力は人間(五十嵐)のものだから。

 しかし、その人間が勇者だった場合、魔王候補だけはモロに影響を受ける。

 それは勇者が、魔王と魔王候補を殺せる存在だからだ。


「勇者が敵役を助ける……ねぇ。漫画やラノベではよくある展開だけど」


 彼女の瞳に映っているのは、千寿を宝物のように大事に大事に抱きかかえ車の後部座席に乗る五十嵐の姿。


「現実じゃ、ラノベとかみたいにハッピーエンドにゃならないよ、勇者君」


 彼女には見えていた。

 予知能力やが有る訳でも、未来視が出来る訳でも無い。経験か、女の勘か……それとも――そうなる必然的要因が、既に与えているからか。


「約束、ちゃんと守ってね千寿ちゃん。私が彼女を殺すために」


 今回出た神格持ち君とやらは、今後もうでません。少なくとも第二部では。

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