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04.遭遇

2月19日の修正でちょっと変わりました。


 私には幼馴染が二人居る。

 一人は穏やかな優男(少々毒吐く)、リト。

もう一人は、ヴィーナスも泣かすだろうライバル悪役令嬢を軽く凌駕し、花の代名詞とも謳われそうな可愛らしいプリンセスヒロインをスッポン認識させる正に至高の乙女、サキ。


「ミカちゃん助けてくださぁぁあい!! ヌイグルミッ、熊さんのヌイグルミが追いかけて来るんですぅぅうう――――あっ」


 ズベッゴロゴロガンッ!!


「サキさん、とうとう掃除用具入れにつっこみましたね……」

「一々言わないでリト。頭痛がする」


 帰りのHR(ホームルーム)が終わった直後、二時間目から行方を晦ませていた幼馴染が帰って来た。……のは良いのだが、斜め後ろの惨状から目を背けたい今日この頃。


「ねえリト。そろそろ私ね、この係引退してもいいと思うんだ」

「いえいえ。僕には恐れ多い大役ですから」


 はあ~。と、盛大にため息を吐いてから立ち上がる。体に染みついた習慣とは恐ろしいものだ。自分で言うのも何だが、「きゅ~」とか小さく漏らしているお馬鹿を回収しに行く私の足取りは、気分に反して無駄が無い。


 散らばる箒数本。反動で倒れた掃除用具入れ。そして、今現在天井の方を向いている用具入れの背面から生えてるサキの上半身。

 視界に映ったは案の定、いつもいつもどうしてそうなるの? と、首を傾げたくなる酷い有様だった。 頭から金属製の掃除用具入れをブチ抜くなんて……しかも無傷だなんて……。

 当事者は痛そうに頭を押さえているけれど、パっと確認してみればコブすら出来てない。


「サキ……」

「はぅ! ごごごごごごめんなああああああ! 後ろにいますぅッ!!」


 サキの指さす背後を見れば、ポテポテポテポテと。

一度裂いたのだろうお腹を再び糸で縫った熊のヌイグルミが、包丁片手に迫っていた。


「ぎゃー! かくれんぼのヌイグルミ!」

「誰だヤバイ事やってんのはオカ研か!?」

「ちょっと高咲さんっ、変なの連れて来ないでよ!」


 阿鼻叫喚の教室。


「全くもう……サキ、一人かくれんぼは家でやりなよ」

「そんな恐ろしい事やってないです! 私が幽霊系苦手なの知ってますよね!」 


 シュッ――。

刹那、何かが私の頬を掠めた。背後からだ。私は目を見開き、己の頬に触れる。小さな刺激と、視界に映った微かな赤いもの。

前方を改めて確認してみたら、口をポカンと開けっ放しにして固まっているサキと、壁に突き刺さった包丁が見えた。ふむ……なるへそ。

 背後を向いて()を確認する。ニヤついたように見えた口元が私の癇に障った事は言うまでも無いだろう。


「こんにゃろう、嫁入り前の乙女の柔肌によくも傷を……」

「土筆寺が乙女?」

「え、嫁行くの? 行けるの?」

「柔肌って何だっけ?」


 背後にいる男子数名は後で絶対殺す。


「み、ミカちゃん大丈夫ですか?」


 アホ共への制裁を誓った直後、声をかけてきたのはサキだった。


「まあ掠り傷だからね」


 それに刃物があの熊の手から離れたという事実は、私を優位に立たせてくれている。という訳で、ズッタズタのボロ雑巾にしてやらぁ!


 私と熊は同時に踏み出した。

 狙うは胴体――と見せかけて頭だ。鷲掴みにした後、理科室に走ってバーナーで燃やしてやる。

なんて思っていた矢先、熊は私の頭を跳び箱飛ぶみたいに超えて行き、その後ろ――サキの元へと直行した。


「サ――」

「ひあんっ」


 ――私の中に生じた焦りが、一瞬で失せる。


「あわわわわっ、離れてください! 変な声出ちゃうから離れて――……んゃあっ」


 簡単に状況を説明すると、埋まって揉みしだいているのだ。熊が、サキの豊満な胸部を。

……もしかしてこの熊の目的って、胸なの? あっはっはっは、そっかぁ……胸か~。

私は今朝の事を思い出した。そう、あの失礼極まりないイケメンの事を。


「どいつもこいつも脂肪にばっか集りやがって!! 虫になりてぇならウ○コに集っとけぇええええ!!」

「うわー! 土筆寺さんの御乱心だーッ」


 ガシャーンとかドゴォっとか。暴力的な音を立てて、私は悪を除去した。


「さ、次はアンタ引っこ抜かなきゃね」

「……はい」


 掃除用具入れを持ち上げれば、両手を上げた状態のサキがやけに大人しく穴から抜ける。微妙に胸でつっかえた瞬間、軽く殺意を覚えたのは秘密だ。

 ……羨ましくないし。Fカップなんてっ、全然羨ましくないし!


「あのぉ、すみませ~ん」


 女子生徒の声が廊下から聞こえてきた。顔は見えていない。けど誰なのかは知っている。この声に聞き覚えがあるからだ。……何で、今現れたんだ日向さん?


『モブにあるまじきキラキラした子居るんだけどっ、下手したらアレって罠か何か?』


 ふと、屋上で彼女が宣っていた事が脳裏を過る。その直後、私は再びサキに向かって用具入れを倒した。当然ながら穴を通過させないように、且つ穴をまた作らないように心がけて。「むきゃっ!!」とかいう悲鳴は気にしない。幻聴か何かだ。それ以外認めない。

 用具入れが動かないように足で踏んづけておけば準備完了。万が一を考えて匿ってあげてんだから、中で動いたり声出したりしないでよ、サキ。


「こっちに熊のヌイグルミが走ってきませんでしたか?」


 『か?』のタイミングで教室の中を窺う日向さん。彼女は私の顔を見て目を丸くした後、ほんの少し戸惑っていたクラスメイトの声をスルーして近付いて来た。


「あの、貴女は小夜曲さんのお友達、ですよね?」


 屋上の時とは別人だ。兎とか栗鼠とか、そういう小動物がピッタリな見事な女優っぷりの日向さん。だが、言ってる事がトンチンカンだ。


「ただの知り合いです。友達じゃありませんよ」


 にーっこりと返せば「あ……そうでしたか」と、態度はそうでも無いが、目に少しの動揺の色を見せた。


「ところでヌイグルミでしたっけ? それならあそこで標本になっていますよ」


 私が指し示した方角へ視線を移した彼女の表情が引き攣る。

そこにあるのは、腹に包丁、頭に鋏とボールペン数本、手足にシャーペンやコンパス、はたまた三角定規などで磔にされた熊のヌイグルミだ。しかも、刺された場所から綿や米だけが飛び出しているならまだしも、緑色の謎液体が壁を汚している。

いくら暴走していたとはいえ、自分でもやり過ぎたと反省している。あの謎液体ホントに何だろう……?


「……えっと。怖い事になってますけど私ので間違いなさそう、です」

「そうですか、見つかってよかったですね」

「はい。人形術(マリオネット)の練習中、私の言う事聞かずに急に飛び出してっちゃったんですよ」


 人形術とは、手作りした物――食品や生き物以外――を遠隔操作する魔術だ。


「そうでしたか」


 頑張って笑顔を心がける。が、内心では「ああン?」と睨みを聞かせていた。絶対嘘だから。ただ暴走して走り去っただけの人形がどこで包丁なんてゲット出来るんだ。食堂か家庭科室に不法侵入したのか。


「あ、きっとご迷惑おかけしましたよね。ごめんなさい! 次からはちゃんと先生が見てる場所で練習します」

「顔を上げてください。迷惑と言っても、私はそんなに」


 サキはめちゃくちゃ被害被ってたけど。


「でも……その、貴女以外の人に……」


 ん? 藪蛇避けて、てっきりサキの事に関しては触れないと思ったんだけど……。


「この惨状、たぶんヌイグルミが暴れたんじゃないですか?」


 ああ、クラス全員を気にしての発言か。……否、苦しくないよう付け足したと取る事も出来るし、警戒は緩めちゃダメだ。


「失敗は誰にでもある事ですよ」

「で、ですよね」

「はい。二度目はありませんけど」


 グサリと。声音はさりげなく、でもオーラは獣と似た感じに。――次はこんな穏便に済まさねぇと、深く釘を刺しておけば日向さんは眉を八の字にし、小さく肩を震わせた。


「以後、気を付けます」


 ヌイグルミをささっと回収して日向さんは扉へと向かう。その時、


「あの、橙色の髪の女の子は、このクラスの人ですか?」


 彼女は、明らかにサキの事を尋ねてきた。


「橙色だけではちょっと断定は無理です。このクラスにも一人いますけど、他のクラスにも居ますから」


 この世界は結構カラフルな髪色に溢れている。サキの髪色は橙でも金に近くて特徴的だが、それでも全校生徒で髪が橙の人は、六十人前後居るだろう。


「そうですよね」


 日向さんは去って行った。

うん、あの子はサキを狙ってるな。悪い意味で。隠して正解だった。

日向環菜。ヒロインだけど、前世から良いイメージが有った訳じゃ無い。話の展開上しょうがないとはいえ、婚約者いる男に近付いて、場合によっては寝取るって設定だったからね。でも屋上での荒い素と、今のギリ及第点の猫被りと……一日でこうダブルパンチを食らうと、やっぱり実感する。アレは危ない、と。

サキを近づけちゃ駄目だ。アホだからすぐ潰される。

でも、こうも早く先制攻撃仕掛けて来るなんて……昼は罠とか何とかパッと思い当たっただけに見えたから、何かしてくるとすればもっと先だと思った。……意外だ。


「ねえサキ、アンタ昼休み以降今の人と接触とかした?」


 日向さんが居た位置から顔を背けずに聞いてみる。

 ……あれ? 返事が返ってくる気配ゼロなんですけど。


「あの、ミカさん」

「何?」


 思考を切り替え、何やら若干引き気味に声をかけてきたリトの方を向いた。そうしたら、ピっと下方を指差す手が目立った。

不思議に思い指の先を辿る。そこには、力が抜け切った白い手。あれ? これ掃除用具入れから飛び出してるよね……。という事は、間違い無くサキの手って事だ。


「サキー?」


 力の抜け方から嫌な予感がしたので呼びかけてみる。返事は無い。


「サキ!?」


 大慌てで掃除用具入れを持ち上げれば、大きなたんこぶを作ったサキは白目をむいて伸び切っていた。うわー! こんな葬式の音が似合いそうな子初めて見たー!


独特さの無いお話が延々と続いております。

本当に申し訳ございません。

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